エモーション ③

「あ、団長さん」

「助手ちゃんと鮫瓦さんじゃないか! 君たちも買い物かい?」

猫やとうもろこしを模した目覚まし時計が並んだ棚の前で、団長さんは針の歪んだ時計と宝箱型の時計を手に取り見比べていた。

「ええ、はい。ペンが折れちゃったので買いに来ました。えっと、団長さんはまじで何を? 言っちゃ何ですが、この店って女性向けじゃありません?」

「俺も買い物だ! 別にカワイイ物が好きなどいうギャップはないから、俺にそのよくわからないものを見る目を向けるのはやめてくれ」

団長さんは二つの時計を棚に戻す。

「妹へプレゼントを贈ろうと思ってな、それを選んでいたんだ」

「へぇ、妹さんいたんですね、以外です。こう、「兄貴の背中を見て育ったぜ」的な弟がいるものとばかり」

「はっはっは! そういう弟がいたらいいなと思った時期もあったが。何にせよ、今なら自慢の妹でよかったと言える!」

店の中だというのに、団長さんはきちんと腹から声を出す。

「だからだ! 自慢の妹へ送るプレゼントだから悩んでしまう。そこで! ここで会ったのも縁だろうし、君たちの助言をいただけないだろうか!」

「ええ、いいですよ。いいんですけど、……妹さんっていくつですか? もし団長さんと年子ならさっきの時計は考え直した方がいいと思うんですけど」

「妹は一つ下だが。なぜそう考える?」

「とてもじゃないですが、年頃の女の子の部屋に似つかわしくないからじゃないですか? 華の女子高生相手だからってわざわざ奇をてらう必要はないんです」

助手ちゃんはそこで、棚の最も下の段から赤くて四角いデジタル時計を取り出す。

「こういうシンプルなのでも結構ありがたいんですよ。私もそうですし、私の友達もそう言ってました。……鮫瓦ちゃんはどう思う?」

「最高だと思います」

「そういうものか。ありがとう! 助手ちゃんたちの意見、ありがたく使わせてもらう!」

団長さんが、助手ちゃんが差し出す時計を受け取る……寸前にひょいっと助手ちゃんは手を引っ込める。

「渡して欲しければ一つ、質問に答えてもらいます」

「……? ああ! いつものやつだな!」

「はい、いつものやつです。ズバリ! エモいってなんでしょうか?」

「友の頑張り、成長を感じ取れたときに感じる心の熱さだ!」

「では賞品のこの商品をどうぞ」

「ありがとう! では、行ってくる!」

団長さんは今度こそ助手ちゃんから時計を受け取り、会計へと向かっていった。

助手ちゃんは、棚にもう一つあった同じ時計を手に取る。

「眼鏡子ちゃんの誕生日もうすぐだしぃ、時計欲しいって言ってからぁ、私もこれ買おーっと」

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