お友達 ⑤

「ねぇ先輩」

「何だい助手君」

 期末テストが開始される週。

「次の週末は私ここ来れないんで。鮫瓦ちゃんとお泊まり勉強会するんで、実験がしたかったら臨時で誰か雇ってくださいね」

「ああよかった。仲直りできたようだね」

「え、なんで喧嘩したこと知ってるんです?」

「助手君が友達について聞いてきた前の日に、鮫瓦さんが報告に来たからね。知らなかったのかい?」

「なるほど。で、そこで先輩がいらんことを鮫瓦ちゃんに言ったんですね」

 助手ちゃんは立ち上がり、机に設置されている水道の水を、その辺のビーカーへと注いだ。

「何してるのかな」

「いえ、何も。ただ、いらんこと言った罰は必要かなと思いまして」

 助手ちゃんはゆらりゆらりと、先輩の方へ歩き出す。正しくは、ノートパソコンの方へ。機械に水。何年経っても変わらない電子機器が持つ絶対の弱点。

「助手君、落ち着いて。言ってない、言ってないから。だから、一度止まって話を聞いてくれないかな!」

本日も実験室でのけが人はなし。


 そして時は少し遡る。来週から期末テストが開始される週、助手ちゃんの元気がなかった日の前日。

「鮫瓦さん。君に呼ばれたから来たけど、……どうも僕の死刑宣告ってわけではないようだね」

「……私、助手ちゃんと距離を置こうと考えております」

「それはまた、どうして」

「先日、私の責任で言い争いになってしまい、その際、助手ちゃんに酷く当たってしまいました。きっと彼女はもう私の顔も見たくはないでしょう。ですので、誠に不本意ではありますが、助手ちゃんと最も関係が近い先輩さんに、これからの助手ちゃんをよろしく頼みたく、今日は来てもらいました。どうか、よろしくお願いします」

 鮫瓦さんは深く頭を下げる。

「……それって、ちょっと喧嘩してしまった。そういう話だよね。だったら僕には引き受けることはできない」

「そう、ですよね。急に呼び出してしまい、申し訳ありませんでした」

 鮫瓦さんは頭をあげ、肩をおとして、踵を返す。しかし、それを先輩さんが呼び止める。

「鮫瓦さん。君は、どういう関係が『友達』だと考える?」

「それは助手ちゃんの真似事でしょうか。だとしたら、……いえ、なんでもありません。……私にとって、『友達』というものは。……美しく、綺麗で素敵な関係、でしょうか。それでは、私はもう行きますので」

 今度こそ、鮫瓦ちゃんは歩き去る。

「……美しく、綺麗で素敵な関係。僕には君たち二人の関係はそうみえるけどね」

 先輩さんの呟いた言葉は、歩き去り、すでに小さくなった鮫瓦ちゃんの背中には届かなかった。

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