お友達 ④
「やった! いた! 鮫瓦ちゃん!」
「……助手ちゃん」
小さな山の頂上にある、地元の人しか立ちいらないような小さな展望台。
赤い夕日を背景に鮫瓦ちゃんは振り返る。まるで絵本の世界を切り取ったような、そんな幻想的な雰囲気が、その姿から漂っていた。
この場所は、いわば二人にとっての思い出の場所。出会った場所でも、衝撃的な告白がされた場所でもない。ただ、何度も何度も二人でここから同じ景色をみた。ただそれだけの場所。
「本当に、申し訳ありませんでした。助手ちゃんの気持ちを理解せず、あのように言ってしまって……」
鮫瓦ちゃんは深く頭を下げる。
真正面からの謝罪の姿。それは、普段は横に並ぶ助手ちゃんにははじめてみせる姿だった。
「私の謝罪一つで許してもらえるとは思っていません。あなたが望むのであるならば、これからはもうこれまでのように助手ちゃん、あなたに近づかないと誓います。ですので、どうかそれで手を打ってはいただけないでしょうか」
鮫瓦ちゃんの顔を、助手ちゃんがうかがい知ることはできない。助手ちゃんは、鮫瓦ちゃんから発せられる、感情のない淡々とした声を聞いていた。そして。
「駄目」
助手ちゃんはなんとか二文字、喉から絞り出す。
助手ちゃんの顔を、鮫瓦ちゃんがうかがい知ることはできない。しかし、鮫瓦ちゃんの眼には、涙を溢す助手ちゃんの姿がはっきりと映った。
「……それだとさ、お互い、良いことないじゃん」
「でも」
「私もさ、よく考えないであんなこと言ってさ、鮫瓦ちゃんを傷つけちゃったんだから。駄目だよね。普段あれだけ色々なこと考えてるのに、肝心なことはてきとう言っちゃって。本当にごめんなさい」
「けど、私がひどいことを言ってしまったことは事実です。そのことを……、私はどうやって罰せられたらいいんですか!」
鮫瓦ちゃんは頭をあげて、言い放つ。
「私は、鮫瓦ちゃんと仲直りして、「私たちは友達なの」って証明したいの。……もちろん、鮫瓦ちゃんが嫌じゃなければなんだけど。だからさ、今から一緒に帰ろ」
「助手ちゃん…………」
「もう嫌、かな」
「いえ。……いえ、そんなことは、ありません。ありがとうございます」
助手ちゃんが手を差し出し、それを鮫瓦ちゃんが掴む。もう離さない、互いに少し強く握り、そう決心する。
半円の赤い夕日を背景にみつめる二人。まるで映画のシーンを切り出したような情景が、二人の友情を煌めかせながら包む。
「では、行きましょう。助手ちゃん」
「帰ろっか、鮫瓦ちゃん。…………あ、でも、私の部屋の合鍵作るなら、今度からは教えて欲しいな」
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