お友達 ③

「ねぇキッド」

「……なんだ、助手か」

 体育館裏。薄暗く湿っぽいその場所で、壁に背を当て座り込む、この場所がお気に入りの少々小柄な少年に向かって彼女はたつたつと歩み寄る。

「なんだって何よ。せっかくこの場所に来たんだから、もう少し歓迎してくれない?」

「別に来て欲しいとは……。いや、何でもない」

 キッドは彼女が言葉を聞き終える前に、帰ろうとする仕草を確認して、途中で言葉を止めた。

「おお、よく思いとどまったね。てっきり言い切るかと思った」

 助手は、顔だけくるりと戻す。少し気恥ずかしそうにするところをみるに、誰か来てくれることは嬉しいことのようだ。ただ、少しシャイなだけ。

 彼女はキッドの顔を見た後、正面に立つ。

「んで、今日は……。……そういや、鮫瓦さんは?」

 助手がこの場所を訪れキッドと歓談するたび、キッドに向く猛烈な害意がこの日は感じ取れなかった。

「ああ、それは、今日は大丈夫だから。心配ご無用だから、怯えなくていいよ」

「本当? 本当か? こう、あるはずのものが急になくなると、それはそれで怖いんだよ!」

 語尾でみせた最低限の強がりを彼女は心で素直に評価しつつ、助手は猛禽類に狙われたチワワのようにびくびくしているキッドを見下ろし続ける。

「はぁ。大丈夫、大丈夫だから。鮫瓦ちゃんは今ちょっとここにこれない理由があるから来ていないんだよ」

「そう、か。よ、よかった……ぜ。そういえば、どうして助手はこんなところに来たんだ? 友人がいるからって、女子一人で来るような場所じゃねぇだろうに」

 落ち着きを少しだけ取り戻したキッドは、珍しく彼女を心配をした。

「キッド、ほんとに大丈夫? 普段なら私の心配なんてしないのに」

「ああくそ! 何か要件か相談があるから一人で来たんだろ! さっさと話して今日は帰れ!」

「『友達』の定義、それを聞きたかったの。キッドはどう思う?」

「決まってる。そいつを『友達』だと断言できるかどうかだろ」

「……それって一方的じゃない?」

「そんなもんだろうよ。……俺からすれば助手は友達。けど、別に助手からみてどうだっていうのは気にしても何も変わらないだろ。『友達』じゃないって言われて、関係が変わるわけでもないんだからよ」

「大丈夫だから、私もキッドを友達だと思ってるから。だからそんなに顔を赤くしないでよ。…………でも、ありがとう」

「どういたしまして。……鮫瓦さんが本当にいないなら、もう少し話そうぜ」

「そう、したいけど。私、今から行かなきゃいけないところがあるから、また今度! 今度は鮫瓦ちゃんも連れてくるから」

 言うや否や、助手はある人を探すため走り出した。先日喧嘩してしまった、お嬢様で変質者な『友達』に言葉を伝えるために。

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