お友達 ②

「ねぇ眼鏡子ちゃん」

「どうしたの? 助手ちゃん」

 その日の夜。助手ちゃんは自室の机に携帯電話を立て掛け、眼鏡子ちゃんと通話を始める。

「今日の生物の宿題、解き方だけでもいいので教えてほしいのです! お願いします」

 先輩には聞けなかった。少しおかしくなっていたから。

「いいよ。けど、準備するから待っててくれる?」

「うん! 待つ! いやーほんっとうにありがとう! 眼鏡子ちゃん!」

 携帯電話の向こうからは、ドライヤーの送風音や、階段を駆ける音が響いた。どうやらお風呂上がりだったようだ。助手ちゃんは膝に手を当て、姿勢を正して眼鏡子ちゃんを待つ。間違っても、独力だけで宿題に挑戦するという選択はとらなかった。

「ごめんね、待たせちゃって。生物、でいいんだっけ?」

「そうそう! 先生ったらひどいんだよ! 「助手ちゃんはこれを、いかなる手段を使ってもいいので、必ず正解させなさい。できなければ補修よ」って! 私やだよ、夏休みまで学校行くの!」

「はは……。けれどどんな方法を使ってもいいなら助手ちゃんなら簡単なんじゃない? 先輩さんとか」

「今日聞こうとしてたんだけどね。先輩途中からおかしくなっちゃって」

「確か、鮫瓦ちゃんも生物得意だったんじゃない?」

「そうなんだけどねぇ。まぁいろいろあってね……。もう今の私には眼鏡子ちゃんしかいないんだよ!」

「そっか、わかった。じゃあ一緒に頑張ろう。それじゃ、まずは心室からやろっか」

助手ちゃんは、眼鏡子ちゃんに助けられ、ちまちまと、けれど確実に空欄を埋めていく。

かちりこちりと時計の針が進む、解いた問題も助手ちゃんの唸りの数もすでに二十の台に乗ろうとしていたとき。

「ちょっと休憩しよっか? 助手ちゃん。疲れたでしょ」

「ふぅ。ありがと眼鏡子ちゃん、この調子ならなんとか終わりそうだよ」

「ふふ、それならよかった。あ、そうだ。もし新しい悩みがあるなら、それについて話さない?」

「最近? そうだなぁ……。『友達』ってどんな人のことを言うのかなぁって。もちろん、眼鏡子ちゃんは友達なんだけど、なんだけど……さぁ」

「ありがとう。でも友達かぁ。うーん……。楽しい会話ができる関係、じゃないかな」

「例えば、どんな?」

「それは、今私たちがしてるようなこういう話なんじゃないかな」

電話の向こうから小さく笑い声が聞こえる。

「どうかな?」

「うん! ありがとう! 参考にしてみる!」

「それじゃ、小休憩おわり。ここから最後まで進めよっか」

「うっ……そうだね。眼鏡子ちゃん先生、お願いします!」

そして深夜の十一時、ついに助手ちゃんの宿題の空欄は埋め尽くされた。

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