第三話 お友達
お友達 ①
「ねぇ先輩」
「何だい助手君」
来週から期末テストが始まる暑い日。雇われ監視役の助手君は、一学年上の雇い主兼先輩の実験室でいつものように実験を監視していた。
「先輩って友達います?」
「もちろん」
助手君が素っ気なく放った質問を、先輩は手元の資料から目を離さずに答える。
「へぇ。意外です」
「流石に失礼だよ、助手君」
礼節を欠いた発言には、実験中毒の先輩も思わず顔を上げる。
「団長さんとか会長君とか、助手君も知ってるだろう?」
「知ってますよ。ますけどー」
冷たい理科用実験台に両腕を広げ、顔を押し当てる。
「ああそういうことか、なるほど」
「何がなるほどなんです」
助手君はぐんにゃりとした姿勢のまま問いかける。
「どこまでが友達か、何を満たせば友達か。今回はそういうのを考えたいんだろう」
冷たい実験台から顔を離し、少々赤くなったであろう頬を柔らかくさする。
「よくわかりましたね」
「雇い主だからね、従業員のサポートも万全じゃないと。……それにいろいろあってね」
「いろいろってなんです?」
「そうだね、僕にとって友達とは、互いに利をもたらし合える関係、かな」
「いろいろってなんなんです?」
「情報を、技術を、力を、共有できる間柄。それが『友達』じゃないかな」
「教えてくれないんですね、わかりました」
「だから、言ってしまえば、僕と出会った人間すべて。それが答えかな」
「んー、そうです、か……」
助手君は、珍しく歯切れの悪い言葉を返す。
「けれどこれは個人的な答えだよ。大抵の人間じゃ、全員覚えるなんて不可能だろうからね! あまり外出しない僕だからこそできるんだ!」
かなり珍しい語気強めの先輩がさらに付け足した。
「ふふふふふ。ふはーはっはっは! はっはァ!」
「やっば、先輩の暗黒面の扉開いちゃった」
腕を広げ、先輩は大きく高笑いをする。
十数枚の資料も舞上げられた。その姿はさながら、大実験を前にしたマッドサイエンティストそのものだ。
先輩はその後、終始ハイテンションで実験を続けた。
助手君はいつも以上に気を張り詰め、その様子を監視する。そんな中、「やっぱり先輩の答えは役に立てられそうにないな」とひっそりと考えた。
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