どう使おう? ③

「ねぇ助手ちゃん」

「何?眼鏡子ちゃん」

 教室の一角。最も東側の窓際の席にある机に助手ちゃん、一つ前の席の眼鏡子ちゃん。二人で机にお弁当を広げながら、悠々と昼休みを過ごす。

「どうだった? お給料もらえた?」

「うん! ばっちり! 金曜はありがとうね。向こうも忘れてたみたいでさ、ほんと危なかったよ」

 弁当の隅の卵焼きをつつきながら、助手ちゃんはエキサイトする。

「流石に駄目だよね。社会人としてやっていいことと悪いことの区別をつけてほしいよ」

「口座には入ってたんだよね。気づかなかったの?」

「口座なんてみなくない? 自分の口座があることだって私最近知ったんだしさ」

「お母さんに管理してもらっていたの?」

「そうそう。まぁ、預けたお年玉が全額入っているだけでもありがたいんだけどね」

「優しいね。助手ちゃんのお母さん」

「そうだよねー」

 弁当の中央を陣取る苦手なトマトを、助手ちゃんは器用に箸で掬い出す。

「眼鏡子ちゃんはアルバイトしてないんだよね?」

「うん。今はまだ部活にも慣れてないし、それに私の家って学校から結構距離あるし」

「だよねー。眼鏡子ちゃんの一日のスケジュールはこの前聞いたけどさ、アルバイトできる時間微塵もなかったもんね。……ねぇ、もしバイトできたらさ、何やりたい?」

「もしできるなら、喫茶店で接客とかやってみたいな。きっと大変だろうけど、いろんな人に会えると思うし」

「いいじゃん! 眼鏡子ちゃんそういうオシャレなカフェ絶対似合うよ!」

「えへへ、ありがとう」

 弁当箱の大部分を占める白米を白いお箸でせっせと口に運ぶ。そんな助手ちゃんに眼鏡子ちゃんが尋ねる。

「そうだ。助手ちゃんはお給料で何か買うの?」

「あー、それが、まだ悩んでるんだよねぇ。ほんとなににしよう。……眼鏡子ちゃんだったらはじめてのバイト代ってどうすると思う?」

「私は、……部活動の備品のグレードアップ? けど、どれも高いし。一月のお金じゃ変えそうもないし。……私だったら貯金しちゃいそう」

「貯金かぁ。私もそうしよっかなー。車とか買うとき必要だもんねー」

「さ、流石にそこまでじゃないよ。きっと私は三ヶ月目くらいで全部使い切っちゃうと思うし」

「どうしよっかなー」

「期限はないし、いっぱい悩もうよ。そんな時間も、きっと楽しいよ」

 助手ちゃんは最後まで残しておいた、好物のミニグラタンを器用に箸で掬いだし、手を合わせた。

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