どう使おう? ②

「あ、会長さん」

「やぁ、助手ちゃん。久しぶりかな?」

 翌々日の登校中、家を出てすぐの交差点で、片手にトーストを持った会長さんとばったりと出会う。

「ああそうそう。バイトお疲れ様、ありがとうね」

「いえいえそんな。ってどうして会長さんがお礼言うんです?」

「それがね、僕も先生に先生に教えてもらったんだけどね。君が彼の実験室に通うようになってから、彼の出席率が飛躍的に上がったそうなんだ。それで、彼の出席に多大な貢献をしてくれている君に感謝したくてね」

「なるほど? でもまだ一月ほどしか経ってないじゃないですか」

「去年の今頃での彼の出席数は八回だったらしいよ」

「あの先輩、よくそれで進級できましたね」

 会長さんは、合間合間にトーストに齧り付きながら会話を進める。

「先生たちは、あんまり学生間で金銭の授受を行ってほしくないらしいけど、今は特例として見守ることにするんだって。だから、できればこれからも頑張ってほしいな」

「まぁ、もちろんいいですけど。時給も結構いいですし」

「ああそっか! はじめての給料ってもうもらってるんだ。何に使うつもりなの? 教えてくれない?」

 会長さんがトーストを食べ終えたので、そのまま二人で通学路を進みはじめる。

「うーん。……それが、まだ悩んでるんですよねぇ。服とかいいかなーって思うんですけど。……会長さんなら何に使います?」

「何に使うって言うか、僕の場合はこれだったよ」

 会長さんは自身の頭に指を当てる。より具体的には、頭髪をぴこぴこと撫でる。

「初めてのお給料は、染めたり切ったりに使ったよ。助手ちゃんも髪の手入れのランクを上げるってのはどうかな? いきつけの美容院とかで奮発してさ」

「美容院、ですか」

「もしかして理髪店派だった? それならトリートメントとかさ」

「ああいや、そうじゃないんですよ。その、行ったことがなくてですね。昔からお母さんが切ったりしてくれていたので」

「へぇ! 助手ちゃんのお母さんは美容師なの?」

「そういうわけでもないんですよね。なんか、独学で頑張ったらしくて……。感謝はしてるんですが、「独学でできるものなの?」とも思うんですよね」

「ほえ……。……そうか、自分でってのもありだよね」

 会長さんは、呆けた顔を見せた後、すぐさま顎に手を当て、ぶつぶつと何かをつぶやく。

「会長さん?」

「僕ちょっと本買ってから学校に行くよ。また今度ね!」

 言うや否や、会長さんは風のように駆けだしていった。

 助手ちゃんは走り去る会長さんの背中を見つつ、自分の前髪を指でつまんだ。

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