弾けろ！ポップコーン！

第5話 第三戦「ダンス動画バトル」及び結果発表

　昨日のカラオケ以来、犬猿の仲という雰囲気から、同じ志を持つ良いライバルと言った雰囲気に変わりつつある両同好会は、放課後の文化祭実行委員会の事務室（空き教室）に集まっていた。

　「間もなく17時になります。こちらのタブレットで二組の動画の視聴回数を見ますので、見える位置にお集まりください。」

　相変わらず無表情な隅田は、温度の無い声で教室の中央にある机にみんなを誘導する。

　「それでは、最後の勝負です。正々堂々、悔いなく戦えましたでしょうか？では、参ります」

　隅田は17時ピッタリに、スケボー同好会の動画を再生した。

　夜の公園で、キャップとパーカーとジーンズという服装の4人がスケボーを前に並べ、Ｈabitダンスを踊っている。センターに立ってるのは長身の佐々木。運動神経が良いのかリズム感が良いのか、4人の中では一番上手く踊っている。その上、長い手足を存分に生かし、癖のあるダンスをより癖強に踊っている。他の3人は何とか踊れてはいるが、視線は佐々木にばかり吸い寄せられる。もう一度見たくなるような、ちょっと癖になる仕上がりだ。

　「再開数は、364回」

　何とも微妙な数字に、どう反応して良いのか分からないと言うのが正直な感想で、反応は薄い。

　隅田は、次にｅスポーツ同好会の動画を再生した。

　教室で黒板をバックに学校の制服姿で、ゲームのキャラクターのお面を付けた4人がキレッキレのダンスを踊っている。センターは恐らく、杉本。普段は恐ろしく地味だが、顔が隠れているせいか、ダンスは誰よりもキレが良い。

　ｅスポーツ同好会が正統派なら、スケボー同好会は個性派というところだ。

　「再生回数は、2217回」

　「えぇ！スゲっ！」「嘘だろ？」「スゲー大差」「負けたぁ」と各方面から声が漏れ、ため息とざわめきが広がり出した。

　「ご覧の通り、364回と2217回で、ｅスポーツ同好会の勝利。2勝1敗で、飲食ブースの残り一枠は、ｅスポーツ同好会に…」

　「ちょっと待ったぁ！！」

　隅田が結果を改めて発表していると、渡辺が大きな声で遮った。

　みんなは驚きながら、渡辺に注目する。

　渡辺は驚く顔を見渡してから、自らは顔を歪めながら、隅田の言葉を遮った理由を話した。

　「正々堂々がルールなのに、俺、どうしても勝ちたくて、この動画、インスタのストーリーズに上げたんだ。ごめん」

　渡辺の告白に、一同は言葉を無くしたが、伊藤が空気を変えるように声を出した。

　「そんなの、俺だって知り合いに見てくれるように頼んだし。それに、渡辺のフォロワーって言っても、100人くらいだろ？」

　「いや。俺のフォロワー1000人はいる」

　「へっ？何でそんなにいるんだよ」

　「昔の仲間とか後輩とか、後その他諸々のヤツらがフォローしてて」

　渡辺の昔の仲間と聞いて思い浮かんだのは、きっとみんな同じで。噂では中学時代は近隣数校の頂点に立つほどのヤンキーぶりで、地元では知らない人はいないらしいとの事。

　「でも、まぁ。負けは負けだから、ｅスポーツ同好会の勝ちだよ」

　伊藤が佐々木、長沢、森田の目を一瞬だけ見てから負けを認めると、それに同意したスケボー同好会の一同も大きく頷いた。

　「嫌、正々堂々戦ったスケボー同好会が勝者に相応しい」

　阿部が渡辺の隣に並び、渡辺と同じ思いを告げると、勝利を譲った。渡辺は阿部の目を見ながら深く頷くと、ｅスポーツ同好会の残りのメンバーを見た。杉本も前田も頷いて笑った。

　「そういう事で、飲食ブースはスケボー同好会が使うから。隅田」

　渡辺が隅田の右肩に手を置いて言うと、間髪空けずに、伊藤が隅田の左肩に手を置いて言った。

　「いや。俺たちは負けたんだから、ｅスポーツ同好会が使うんだよ」

　「いいから、そっちが使えよ」「何、カッコつけてんだよ、そっちが勝ったんだろ」「何だよ。好意はありがたく受け取れ」「ありがたくないから、受け取れねぇ」と、隅田を挟んで譲り合いが始まった。

　「ストーップ！！」

　二人に挟まされた隅田が表情一つ変えずに、大きな声を出すと、全員がピタッと動きを止めて、隅田に注目した。

　渡辺と伊藤も驚いて、隅田の肩から手を離し、隅田を見る。

　「正々堂々のルールは、この時点で両者守られた事とし、私から一つ提案があります」

　隅田の突然の提案に静かに耳を傾ける一同。

　ドラムロールは鳴っていないが、きっとそれぞれの頭の中では鳴っている事だろう。その音が隅田も聞こえているかのように、たっぷりと間を取ってから、口を開いた。

　「ｅスポーツ同好会とスケボー同好会の共同出店にしてはいかがでしょう」

　一同はポカンとした顔で隣の人と顔を見合せる。

　「いや、いや、いや、いや。共同って作る物が違うだろ。俺たちｅスポーツ同好会はポップコーンだし」

　渡辺がいち早くツッコむように否定すると、語尾を被せて伊藤が言った。

　「いや、いや、いや、いや。俺たちスケボー同好会もポップコーンだけど」

　「え？」と二人同時に顔を見合わせてから隅田を見る。

　「そういう事です。お互い会員も少ないですし、協力しながら出店する方がいいと思うのですが。いかかでしょう？」

　「なるほど」「ありかも」「確かに」「良いんじゃね」とそれぞれから声が聞こえ、伊藤と渡辺は再び目を合わせて頷いた。

　「よっしゃー！やるか」伊藤が元気に声を上げると、「売り上げ一番を目指すぞ！」と渡辺がそれに応えた。そしてがっちりと握手をすると、ｅスポーツ同好会とスケボー同好会がお互いに握手を交わした。

　「最初はいがみ合っていた者同士も、勝負を通してお互いを知った事で認め合え同志になる。青春は正に、弾けるポップコーンのようですね」

　隅田が、がっちりと握手をしている伊藤と渡辺の手に、自らの手を置き目を細めながら言うと、「何だよそれ」と渡辺がツッコんだ。

　「種は固くてとても食べられないけど、熱く熱するとはじけて美味しくなる」

　相変わらず表情を変えずに説明する隅田に「ちょっと何言ってるのか分からないんですけど」と伊藤がツッコむと、みんなが笑った。

　隅田は、その笑い声に目を細めた。

　隅田は同時に提出された申込用紙を見た時から、こうなる事を願って、3本勝負を提案したのだ。

　表情は乏しいが、この中の誰よりも、このはじける青春を楽しんだのは、間違いなく隅田だった。

了