オフ会(後編)
「なー、姫香。マジで彼氏いないなら俺とちょっとだけでいいから付き合おうぜ?」
「こら! 姫香はみんなの姫香だって決めたでしょ、エイジ」
「そうそう。アタシ達み~んな、姫香ちゃんの事が大好きなんだから!」
ゲーム内のチャットでも同様の会話は度々されていた。
元々ゲーム内でもギルドのメンバー達からかわいがられるマスコット的存在として扱われていた姫香にとって、この会話はいつも通りのメンバー達のおふざけとして受け流せるものに―――なるはずだった。
(もうヤダ……帰りたい)
円卓に並べられた4つのティーカップ。
男の前に置かれたカップ以外は、一度も手が付けられておらず中身が減っていない。
先程から姫香の前では、中年の男が一人でしゃべり続けている。
イチルの時は、気が強そうなハキハキとした女性の声で。
ミナホの時は、裏返った様な鼻にかかる声で媚びる様に。
エイジの時は、男の素の声なのだろうか。何故かわざと舌先を下の歯の裏側につけたような舌ったらずな喋り方をしている。
(誰か、助けて………………!)
テーブルの脚と姫香の足を繋ぐ鎖は頑丈で、どれだけ暴れても千切れる事はなかった。
この部屋に監禁されてから、一体何日経ったのだろうか。
姫香にはもう、言葉を発する気力も残っていない。
男は器用に三台のパソコンを使い、ゲーム内で三人分の人格を使い分けていた。
世界中に1800万人もプレイヤーがいるオンラインの世界で、姫香と出会い、自分の中の人格全員が姫香を好きになり、共有を受け入れる。
その確率が奇跡でなくて、何だというのだろう。
――――男は、この恋こそが運命なのだと確信していた。
【短怖】オフ会 栖東 蓮治 @sadahito
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