病んだ異世界の住人の前に現れる医院を取り巻く、ヒューマンドラマ作品です。
この医院のお医者様はどこか適当で、さえない独身のおっさん医師。
けれど腕は確かで、身体の上から下まで、何なら心の病すらも一目で言い当ててしまう力量を持っています。
彼の前に訪れる患者は、いずれも異世界の医療レベルでは匙を投げられる者ばかり。
そんな患者を丁寧に、時に長期療養が必要な相手であれば現地の品々で代用出来るように。知恵を回して治療を施します。
そもそも彼の医院が異世界に出現し始めたのはどうしてなのか。救われた彼らはどんな運命を歩んでいくのか。
ぜひ読んでみてください。
普段はありふれた町の診療所だが、夜間だけ異世界に繋がる不思議な診療所「本多医院」。さまざまな種族が暮らす異世界のユーパン大陸では「白亜の建物」と呼ばれ、難病で苦しむ者の元に現れ、すべての病を癒すと言い伝えられていた。現代医学を用いて異世界の患者を治療する医療ファンタジーです。
各話は異世界の住民たちの視点で描かれ、治療困難な謎の奇病や心の病を現代医学の力で解決していく展開が明瞭にして明快です。
本多医院の医師の本多は、見た目は不真面目でボサボサ頭の四十男ですが、病気の診断に関しては炯眼の持ち主。内科、外科、精神科を問わず、患者の症状を見ただけで病名を看破し、適切な治療を施していく。
異世界の住民たちの抱える不可解な病気や症状は、実は私たちにも身近な病気ばかり。原因から治療法、予防法まで、専門用語を使いながらもわかりやすく解説されています。種明かしを見てみれば「何だそんなことか」と単純明快に感じるのは、作者に確かな医学知識の裏付けがあればこそ。
病によって人生を狂わされた人々が、病を治して新たな人生を歩み始める。人々の人生を変える医療の素晴らしさを実感できます。
(「異世界で働こう」4選/文=愛咲 優詩)
異世界の医療ものということで、どんなファンタジー世界が待ち受けているのかとドキドキしながら読みましたが、なんと舞台となる診療所は私たち地球の常識から考えると非常に一般的な診療所でした。
しかし、それを異世界の住民の視点から描くので面白い!
やってくる患者は異世界住民、けれど病名及びその原因は現代知識から導き出される。一章からそのギャップに引き込まれました。
しかも作者さんの医学知識がとても豊富。解説が細かく、とても勉強になります。
(もしかして専門家の方でしょうか……?)
中でも好きなのは吸血鬼のエピソード。一見病とは関係なさそうな内容から始まるのに、実は病気に繋がっており、悩み解決も全て現代の知識で行う。その発想に脱帽です。
異世界ファンタジー好きは勿論、医療ものに興味がある方にも是非とも読んでもらいたい一作。オススメです!