続・パンドラの瞳 -魔性の花束-
第一話「親友」
わたしが生まれたとき、すでに世界にはたくさんの都市伝説が存在していた。
そのうちのひとつ────『パンドラの
わたしが一番好きな都市伝説だ。
§ § § § § § § § § § § § §
この世界には『パンドラの瞳』と呼ばれる赤い宝石のような輝きをもつ奇妙な石が存在している。
もしも目の前にその石が姿を現しても、軽はずみに触れてはならない。
触れてしまえば、すでに災厄が世界のすべてを覆いつくしている事実を知ることになるだろう。
それを知ったとき、必ずあなたは世界に絶望する。
だが──
もしあなたがたったひとつの希望と引き換えに世界の災厄を知る勇気があるのなら、覚悟をもって『パンドラの瞳』を手にしてみて欲しい。
その時にあなたがひとつの希望に辿り着くことができたならば、きっとその希望があなたの世界を光り輝くものに導いてくれるはずだから────。
§ § § § § § § § § § § § §
大半の都市伝説は怖いという印象が強く、実在しない物語である可能性も高い。
この『パンドラの瞳伝説』も一見怖いように感じるが、最後にひとつの希望が示されているところが、わたしは何となく好きなのだ。
「ま。どうせ、そんなもの存在しないんでしょうけど────」
我が家の門前。わたしがそう口にしたタイミング。
まるで示し合わせたかのように背後から声が聞こえてきた。
「おまたせ。
「遅いよー。
彼女の名前は『
彼女は「ごめん、ごめん」と笑顔で謝りながら、わたしの車椅子の手押しハンドルを握った。
「それじゃ、行こっか。寿々」
「うん!」
今日は日曜日。学校が休みの日だ。だから彼女も休みなのだ。
わたしは────
今は学校に行っていない。自主的に休んでいる。
別に学校で嫌なことがあったわけではない。いじめられたわけでもない。
ただ車椅子の人生になってから、何となく人の目を気にするようになってしまい、徐々に塞ぎがちになっていったわたしは、いつの間にか学校に行くことを放棄したのだ。
今は高校二年生の秋くらい。
わたしが車椅子での生活を余儀なくされるようになった原因は、一年前の交通事故だった。
通学の途中、自転車で横断歩道を渡ろうとした時、信号を無視して突っ込んできたトラックに跳ねられたのだ。
命まで失わずに済んだのは、不幸中の幸いだったと言うべきなのだろうか?
ただ──
あの時の事故のせいで、わたしは下半身麻痺という重い後遺障害を負ってしまったのだ。
わたしが学校に行かなくなっても、栞里だけは毎日のように連絡をくれた。
休みになると、毎週のようにわたしを外に連れだしてくれる。
学校に行くのは嫌だったが、栞里とふたりで遊びに行くのは楽しかった。
だから、わたしは毎週日曜日が待ち遠しくて仕方なかったのだ。
「ゆっくり行くね」
栞里が、やさしくわたしの車椅子を押す。
わたしの車椅子は自走用なので「自分で操縦できる」といつも言っているのだが、それでも世話焼きの栞里は「私に任せて」と押してくれる。いつの間にか、わたしは栞里がいるときは彼女を頼るようになっていた。
わたしは栞里とウィンドウショッピングを楽しんでから、栞里おすすめのパスタ屋でランチを堪能し、そのまま彼女とカラオケに行って空が暗くなるまで楽しんだ。
栞里に家まで送ってもらい、我が家の玄関前でお礼の言葉を言う。
「今日はありがとう、栞里。とっても楽しかった」
「私も楽しかったよ、寿々」
彼女はティッピングレバーを利用して、わたしを車椅子ごと玄関前の段差の上に乗せてくれた。
そこから一歩下がって「それじゃ、またね」と挨拶をくれる栞里。それに「またね」と返すわたし。
栞里は暗い夜道をひとり、自分の家まで帰っていった。
わたしは栞里が見えなくなるまで見送ったあと、家に入って夕食を食べて、お風呂に入る。
そして歯磨きを終えてから、そのあとは自分の部屋でくつろいだ。
寝るまでの時間、映画を観たり、小説を読んだりして過ごす。
夜の十時くらいになると、毎日わたしは寝るまえに栞里にメールを送る習慣が出来ていた。
少し早めの時間から長電話をすることもあるが、今日は一日中ずっと一緒に遊んでいたのでメールだけにする。
わたしは栞里からのメールを眺めながら寝るのが好きなのだ。
だが────
この日、いくら待っても栞里からメールは返ってこなかった。
どうして返事をくれないのだろう?
ちょっとしたことなのだが、わたしの胸が締め付けられるように苦しくなる。
今日は何か用事があってメールを返せないだけか、もしかしたら気づいていないだけかもしれない。
それでも不安になった。
得体のしれない感情がわたしを襲う。
思わず、わたしは栞里に電話をかけてみた。
もう遅い時間だったが、わたしは気になって仕方なかったのだ。
だが栞里の電話は通話中のようだった。
「な、なんで……? 誰と電話してるの……?」
よくわからない不安が押し寄せてくる。
その後。三十分くらいしてもう一度電話してみたが、やはり通話中だった。
時計の針は、まもなく零時に差しかかろうとしている。
通話中だったことから、まだ栞里が起きていることはわかっていた。
だが、いつ通話が終わるかもわからないうえに、もう時間も遅い。
少し迷ったが、わたしは諦めて布団に入る。そして目を閉じ、そのまま深い眠りについた。
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