第86話 いつも笑顔でうたいながら
「サクラがうたっているのって……」
ノオトがノイズを見ながら呟くと、ノイズは聞かないように少し顔を横に向ける。すると、ソナタもクスクスと笑いながら呟いた
「ノイズが小さい頃からよく一人でうたっていた曲ね」
「えっ……」
ソナタの言葉にノイズが驚き固まる。それを見てソナタがまた楽しそうにクスクスと笑う
「気づいてなかったの?ロンドも聞いていたし、リディやミクも聞いたことがあるわよ」
「えっ、うそ……」
「今、嘘をついてどうするの?」
ソナタの返事を聞いて、ノイズがあわてふためいていると、大きな本の一番上にいたモモがゆっくりと降りてきて、ノイズの周りをグルグルと回りはじめた
「うたを聞かせてほしいと言ってるんじゃない?」
「いや、それは……」
ノオトの言葉に嫌そうな声で返事をすると、禁書の部屋の入り口の方からバタバタと騒がしい足音と声が聞こえてきた
「ダメですよ!入れません!」
「なんでだよ!ノイズが入れるなら私も入れる!」
「ダメです!仮に入れたとしても入ってはダメです!」
騒がしいリディの声と部屋に入ろうとするのを止めようとするオンプの声が扉の向こうから聞こえてきて、ノイズ達が扉の方を見ると、バンッと勢いよく扉が開いてオンプやリズムに入るのを止められながらリディやミクが入ってきた
「あの子達が騒がしいから、禁書達も騒ぎはじめたわね」
ソナタが周辺を飛び回る本や小さな本棚を見つめながら言うと、オンプが慌てた様子で近くにある本を一冊取りページを開こうとすると、リリに手を叩かれ止めらていた
「サクラちゃんが危ないかも。魔力であるミナモかモモが気づいてくれると良いけれど……」
ソナタがサクラ達の様子を映す本を見つめながら言うと、ノオトも本を見つめ不安そうに呟く
「気づいてなさそう……」
リディやミク達がサクラを映す本に気づいて、ノオトの傍に来た時、本がリディの傍を勢いよく通りすぎていった
「禁書達が目覚めはじめたのね。これは大変ね」
「ちょっと他人事のように言っている場合じゃ……」
ソナタが横を通りすぎていく本を見ながら呟くとリリが慌てた様子で隣に来てソナタに話していると、ノオトが動かないノイズに気づいて心配そうに声をかけようとした時、ノイズが本の傍で浮かぶモモを見て手を伸ばした
「モモ、おいで」
ノイズに呼ばれてバタバタとページの音をたてて来たモモをぎゅっと抱きしめると、ふぅ。と一つ深呼吸をして、ノオトに微かに聞こえるほど小さな声でノイズがうたいはじめた
「声が聞こえる」
「私にも聞こえます。ノイズの声ですね。でもどこから……」
その頃、サクラが聞こえてきた声を探すため、辺りを見渡していた。ミナモも声の聞こえる場所を探すため、モモと一緒にサクラから少し離れ、飛びながら辺りを見渡す。これといって声がする場所が見当たらず、首をかしげながらサクラの元に戻ってくると、サクラが近づきミナモの顔にグイッと近づいた
「ねえ、私の魔力なんでしょ?」
「ええ、そうです。術を唱えたら私があなたの代わりに動きます」
「それならじゃあ……」
ミナモの耳元でヒソヒソと話し始めた。モモが話の内容が気になるのかグルグルとページの音をたてて動き回る。話しが終わりサクラがミナモから少し離れると、ミナモが困った顔でノイズを見た
「ミナモ、モモと一緒に頑張ってね」
「主の命令なら仕方ありません。モモ行くよ」
ミナモに呼ばれ慌てて後を追いかけるモモ。二人の姿がサクラやノイズから少し見えなくなると、サクラがふぅ。と一つ深呼吸をして、聞こえてくる声に合わせるようにうたいはじめた。すると、傍で佇んでいたノイズがゆっくりと動きだし、サクラのうた声と聞こえてくる声に耳を傾け、しばらくすると、サクラの声に合わせるように小声でうたいはじめた
「あら、禁書の魔力が落ち着いてきている?」
サクラが再びうたいはじめたその時、サクラの様子を映していた本がゆっくりと閉じはじめた
「ソナタさん、あの本が」
ミクの声にソナタやノオト達が大きな本や映していた本を見る。パタンとゆっくりと閉じられた本は大きな本と共に消えはじめ、ノオトやミク達が戸惑っていると、消えた本の代わりにサクラが禁書の部屋に現れた
「あれ?ここ……」
うたっていたはずが、急に真っ白な場所から見慣れた顔のノイズやノオト達の姿が見えて戸惑っていると、隣でミナモがふぅ。と深呼吸をした
「いやー疲れました。いくらなんでもさすがに禁書相手を封じるのは辛いです……」
「ごめんね、大丈夫?」
「ええ、おかげで戻ってこれたみたいですし、大丈夫といったところです」
エヘヘと笑って答えるミナモを見て、サクラがほっと胸を撫で下ろしていると、少し離れた場所でこちらを見るノイズと目が合った
「ノイズ、あのね……」
サクラが話しかけたその時、モモが二人の間に現れて、二人の間をグルグルと忙しそうに動き回り、その間にソナタが二人の傍に来ると、サクラとミナモを見て声をかけた
「サクラちゃん、戻ってきてすぐ悪いけれど、その子と一緒にオンプと話をしてもらってもいい?」
「あっ、はい……」
リディやミクと一緒に少し離れた場所にいたオンプとリズムを見つけると、ノイズの横を通りすぎていった
「モモ、ごめんね、お帰り」
ノイズの声に、モモがほんの少し光を放ち、ノイズが眩しそうにぎゅっと目を閉じる。それを見てノオトとリリが顔を見合わせ、ふぅ。とため息混じりに微笑んだ
「お母様、さすがにちょっと仕事が多くないですか?」
「あら私を助けたいのでしょう?なら頑張って働いてくれると助かるの、ほら動く」
数日後、施設の一室で大量の資料と本に囲まれたノイズがぐったりとした顔で机に顔を伏せた。ため息混じりにちらりと横を見ると、ノオトが険しい顔をして、本を読んでいる
「サクラちゃんをこの世界に呼んでくれたのは色々助かるけれど、問題も増えたのだからノイズとノオトちゃん達が頑張ってもらわないとね」
そう言いながら新たな大量の資料をノイズの側に置くと、リリがノイズの肩を軽く叩いて起こそうとする
「しばらくしたら、休暇に入れるからみんなでどこか行きましょう」
「はい……」
ソナタからの提案も、浮かない顔で大量に来た資料を手に取りながら返事をする。それを見て、ノオトがふぅ。とため息をついていると、ソナタが部屋にある時計を見てフフッと微笑んだ
「そろそろ休憩しましょうか。二人も休んでね」
そう言うとリリと一緒に部屋を出ると、ノイズがうーんと一つ背伸びをして部屋を出るため椅子から立ち上がる。ノオトも休憩をするために持っていた本を机に置くと、二人一緒に部屋を出た。あまり会話も弾むことなく施設の廊下を歩き着いたのは、禁書の部屋。ゆっくりと部屋の扉を開けると、飛び回る本を避けながら、そーっと部屋の中を歩いていくと、本棚の前で本を読むミナモを見つけると、ミナモも二人に気づいて持っていた本を本棚に戻した
「ミナモ、サクラはいる?」
「いますよー。でも奥で禁書と喧嘩しているので今は入らない方が良いですよ」
「本と喧嘩できるの?」
「はい。元の術者の皆さんが、意思の強い方々なので多少喧嘩しないと本が片付かないのです」
ミナモが、はぁ。とため息混じりに言い、ノイズが少し驚いた顔で話を聞いていると、困った顔をしたサクラがこちらに歩いてきた
「どうしようかな、オンプさん呼ばないかなぁ……」
そう呟いていると、こちらを見る視線に気づいて顔を上げると、エヘヘと微笑みながら駆け寄ってきた
「ノイズ、ノオトさん。こんにちは」
サクラが挨拶をしながらペコリと勢いよく頭を下げると、メメとモモもつられてペコリと頭を下げて挨拶をした。その様子にミナモがクスクスと笑い、ノイズもつられて笑う
「相変わらず大変そうだねぇ」
「はい。でも楽しいから平気です」
ノオトの問いかけに、近くに飛んで来た本を受け取りながら答えると、ノイズも小さい声でサクラに話しかける
「……もとの世界に帰らなくて良いの?」
「うん、今はソナタさんやオンプさん達にこの部屋の管理を頼まれているし、今、ミナモを残しておくわけにもいかないからね。いつか落ち着いたら帰るよ」
ニコッと微笑むサクラを見てノイズが少し顔をうつ向むくと、サクラが慌てた様子でノイズに近づいた
「ノイズは悪くないよ。楽しいから気にしないで」
こう言うサクラの言葉にもノイズは顔を上げないまま。ノオトがメメと顔を合わせ、ふぅ。とため息をついていると、ノイズやサクラの周りで浮かんでいた本達が、二人の周りをグルグルと動きはじめた
「お二人にうたってほしいと言ってますよ」
「えっ、それは……」
ミナモの言葉を聞いて、ノイズがうつ向いていた顔を上げ嫌がる。それを見てサクラとモモが少し寂しそうな顔をしていると、そーっと禁書の部屋の扉が開いて、ミクが恐る恐る部屋の中を見渡しサクラ達を見つけ声をかけた
「二人とも、リディがご飯食べようって」
「じゃあ、私の家で……」
ノイズがミクの言葉にほっと胸を撫で下したように返事をする。ご飯と聞いて、メメやミナモが小走りでミクのいる入り口の方へと向かっていく。後を追いかけるようにノオトも歩き出す。ノイズも部屋を出ようと一歩踏み出した時、サクラに右手をぎゅっとつかまれた
「ノイズ、私をモモとミナモに会わせてくれてありがとう」
「えっ、なんで今?それに、私はサクラの為じゃなくお母様の為に……」
エヘヘと笑うサクラの言葉を否定するように、そうノイズが言うがうまく否定も出来ずに、左手もぎゅっとつかまれた。すると、入り口に着いたミナモが二人がまだ動いていないのを見て手を振り大きな声で叫んだ
「私もお腹すきました。早く行きましょう」
「すぐ行く!」
ミナモに大声で返事をすると、ノイズの手をつかんだまま走り出したサクラ。急に引っ張っられ少し転けそうになったノイズに気づいてサクラが少し振り向いた。体勢を立て直したノイズが心配そうなサクラの視線に気づいてフフッと微笑むと、サクラを追い越すように走り出した。慌ててサクラも走り出し、モモが二人の後ろを追いかける。その様子をノオトや遅れてきたリディやミク達が見てフフッと微笑む。その間にノイズを少し追い越したサクラがつかんでいたノイズの右手を少し強くつかんでまた振り向いて笑顔で声をかけた
「私とミナモ、それにモモとノイズが居れば大丈夫。だからこれからもよろしくね」
こねくとノイズ シャオえる @xiaol
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