第29話 地下より来る落とし子2
「行くぞ!注意を引き付けろ!!」
アリシアやエレオノーラ、女性騎士たちは、分散して落とし子にそれぞれ攻撃を仕掛け、落とし子の注意を引き付ける。
王家直系ではないが、分家であり大手貴族であるエレオノーラが今度は手首に針を刺して、その滴った血で落とし子に攻撃を仕掛けて、その肉体を粉砕させていく。
流石に、分家とはいえ王家の血を引く彼女の攻撃は、アリシアの攻撃に匹敵する威力だったが、それもアリシア同様一撃で肉体を吹き飛ばすことはできない。
落とし子は肉体を吹き飛ばされながらも、その粘液体から太い触手を作り出し、アリシアやエレオノーラに対して攻撃を仕掛けてくる。
その間に、エルは自分に対して呪文をかける。それは自分自身の精神に対しての呪文。精神に働きかけて、自分の肉体のリミッターを解除する呪文である。
人間は、無意識化のうちに自分の肉体が壊れないように自分自身にリミッターをかけている。それを解除すれば、肉体を鍛えていない彼でも、一時的に彼女たちのような動きが可能なはずである。
それと同時に、自分の感情を恐怖を麻痺させたり、勇気の魔術をかけたりして、じっと落とし子の様子を伺う。
「……今だ!!」
落とし子がアリシアたちに注意を引き付けられたのを見て、エルは身体のリミッターを切ったまま空へと跳躍する。
星の戦士の血を引く貴族や騎士たちは、並の人間からすれば超人的な身体能力を有している。貴族であるエルもその例外ではない。
3mもの高さを一気に跳躍したエルは、その落とし子の中心部、3mほどの高さにある魔術師の顔を目掛けて、自分の血を垂らした短剣を突き立てようとする。
「舐めるなっ!!」
とっさに、落とし子は魔術師の顔に対して自分の肉体で覆い盾替わりにして、その短刀を防御する。
その肉体は短刀の力ではじけ飛ぶが、もう武器はあるまい、と魔術師の顔はにやりと不気味に笑う。
「《精神剣(サイコ・ブレード)》ッ!!」
次の瞬間、エルは自分の数少ない攻撃魔術である精神剣を作り出し、魔術師の顔へと突き立てる。精神剣がダメージを与えるのは肉体ではなく、対象の精神である。
その刃は、魔術師の精神に対してダメージを与えていた。
「ぎゃあああああ!!」
エルは、何とか落とし子の肉体を足場にしながら、何度も精神剣で魔術師の顔面を切り裂く。すると、落とし子の動きに変化が生じ始めた。
今まで的確にアリシアたちを狙っていたその動きが、明らかに暴走し始めたのである。精神剣はその名の通り、相手の精神を直接攻撃する。それは顔面だけの魔術師であっても例外ではない。
これだけの怪物を制御するのには、非常に高度な精神力が必要である。それが精神剣によって阻害されたらどうなるか。答えは、暴走である。
エルはとっさに魔術師の顔面を足場にして、踏みつけながら跳躍し、落とし子と距離を取る。
「暴走してるぞ!逃げろ!!」
エルのその言葉と共に、アリシアたちはその場から逃亡するが、実際に融合している魔術師のほうはたまったものではない。
「ぐぁあああ!!落とし子よ!我のいうことを……!がああああ!!」
制御する精神力を失った魔術師の顔面は、そのまま落とし子の中に飲み込まれていった。おそらくは制御のための脳も完全に飲み込まれてしまっているのだろう。
制御を失った落とし子は、そのまま触手やカギ爪などを構築して暴れまわる……が、しばらくした後でエネルギーの無駄遣いだと感じたのか、そのまま罅割れから地の底奥深くへと戻っていった。
ともあれ、こうして何とか彼女たちは危機を乗り切ったのである。
「ふう、何とか無事に生き延びられてほっとした……ん?」
そんな中、エルは地面に一冊の本が落ちているのを発見する。恐らく魔術師が使用していた魔導書なのだろう。
その本の表紙には「エイボンの書」と本の題名が記されていた。
貞操逆転世界に転生した救世主願望持ちは、「おっぱいの大きい瞳ガンギマリ聖女」ポジになって皆の心の支えになるようです。 名無しのレイ @rei-rei
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