第28話 地下より来る落とし子

 上がった歓声は次の地鳴りによって打ち消された。ズズズという地面から伝わってくる不気味な振動。地震か?と思ったが、狂魔との闘いでは何が起こるか分からない。

 そんな風に皆が警戒していると、砕け散ったツァトゥグァの落とし子の一部、魔術師の顔の生えている部分のひと欠片が、そこから無数の足を生やしつつ、ガサガサと動いているのが目に入る。


「皆!あそこに!!」


 エルのその注意も遅く、その欠片はぴょいっと地割れした地面に向けてダイブする。

 そして、さらにゴゴゴ、と地響きが轟きわたり、次の瞬間地面が盛り上がり、罅割れ、その下からさらに巨大なスライム状の粘質状の存在が姿を現す。

 それは、先ほどよりもさらに巨大なツァトゥグァの無形の落とし子だった。


「まさか!これが本体だったというの!?」


 高さおよそ5mほどの巨体の粘質状の存在であるツァトゥグァの落とし子。

 その中心部で、あの魔術師の顔面は女性騎士やエルたちを見下ろしながら高笑いを響かせた。


「ははははは!!どうだ!これがツァトゥグァ様から与えられた真の力だ!きさまらごとき、これで踏みつぶしてくれるわ!!」


「このぉ!!」


 それに対して、アリシアはさらに手首から血を滴り落としながらも、落とし子に対して切りかかっていく。その刃がめり込んだ瞬間、再び落とし子は大爆発を起こすが、それも5mはある巨大な存在を完全に滅ぼすことはできない。

 爆発した部分は、次第にほかの粘液に包まれて再生していく。アリシアはさらに切りかかって粉砕させていくが、それでも落とし子の再生能力を超えるものではない。

 やがて、血を流しすぎた彼女はがくりと膝をつく。

 いかに彼女といえど、体内の血を失えば力が失われていくのも当然。

 一撃で吹き飛ばせない以上、相手の急所を突かなければならない。


 しかし、こちらには手が必要だ。……この神聖王国の貴族たちが皆、星の戦士の血を引いているとなれば、自分も引いているのではないか?とエルは思い至る。

 自分の護身用の短剣を引き抜き、そこに自分の血を垂れ流し、それを構える。


「……!?聖者様!危険です!おさがりください!!」


 女性騎士の静止する声。彼は戦闘訓練も受けていないただの修道士のため、彼女たちの言葉は至極正論である。だが、エルは精神魔術の応用、テレパシー能力で女性騎士たちに自らの考えを言葉に出さずに伝え、協力を促す。


「あ、頭の中に声が!?これが聖者様のお力か!!」


「そ、それは危険すぎます!……し、仕方ありません。私たちも全力で守りますので……!!」

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