第1話 少女逃げる
これはいじめだ。
ある日には、靴を隠された。
靴下で廊下を歩いた。
ある日には、着替えを取られた。
拡散された。
ある日には、男の子に襲われかけた。
運よく、逃げ切れた。
だが、服は破かれた。
救いはない。誰も味方がいない。
このままでは埒が明かない。そう思ったとき、私に妙案が浮かぶ。
「そうか、死ねばいいのか」
長く苦しみ、わからない回答を探し続けた。
その答えがようやく、導けたような気がする。
少しの高揚感と感動があった。
そう思った時だった。後ろから声がした。
「ねえ、あなた死のうとしている?」
この声がすべての始まり、私の人生の転換点だった。
見透かされたような言葉に私は戸惑いを隠せなかった。
なんせ、死を決意した直後に声をかけられたからだ。
そんなことあり得るのだろうか。
なにか奇妙なものを感じずには得られなった。
「あ…いや、別に、そんなこと思ってないです」
後ろを振り向いたが、顔が見れない。
見たくない、そういう方が近いのかもしれない。
「ふーん。ねえ、君このままでいいの?」
おそらく彼女の中で疑問が確信に変わった質問だった。
なにも知らない彼女に言われたくない。
何とかならないから困っている。
何とかなる唯一の方法をつぶされたくない。
私は少々怒りを感じていた。
「あの、私これで」
走って逃げようとした。
でも、服をつかまれて動けなかった。
「ねえ、私と駆け落ちしない?」
真剣な顔だった。からかっているというわけではなさそうだった。
少し考えた。。
この人をいい人だと決めつけるのは厳しい。
詐欺の類いかもしれない。そんなこと思うのは当たり前だった。
普通なら。
だが、私は普通ではなかった。もう麻痺しているんだ、普通という感覚が。
本当は死にたくなんかない、だから、彼女に救ってほしかった。
怒りなどすっかり忘れ、希望を見出した。
「行かせてください。私をここから連れ出して」
彼女の顔から笑みがこぼれた。
とても美しい笑顔だった。
ここで初めて彼女の顔を正面から見た。
蒼白な肌で整った顔立ちをしている。フリルのついた白いワンピースが彼女の肌の白さを強調しているかのように見える。
肘くらいまである髪は癖もなく、きれいなストレートだった。
「私はスズ。あなたは?」
「ランです」
「自己紹介も済んだことだし!さあ、行こう!」
「え?準備とかは?」
無視され、走って駅まで連れていかれた。
久々に走ったもんだから、息が切れて、汗が止まらない。
なのに、とても気分がよかった。
「えーと、次の電車は…」
「あの、どこまで行くんですか?あと、お金持ってないんですけど」
「そうだな~のんびりいろんなとこ回りたいね~、お金の方は気にしないで、
私こう見えて、結構持ってるから」
美人に加えてお金持ちときた。非の打ち所がない。すごい。
でも、二人分のお金を出してもらうのは悪い気がしてならない。
「あ、あの、後で返します」
「いいーよ、いいーよ。どうせ使い切らなきゃなんだし」
「それ、ってどういう?」
と言おうとしたら電車がやってきた。
まだ、ホームにいたので急いで電車に乗り込んだ。
―駆け込み乗車はおやめくださいー
怒られてしまった。気まずい。
「あはは、怒られちゃったね。次から気をつけようね」
そういった彼女は笑顔だった。
「う、うん」
凄く前向きだなーと思った。
電車に乗ること2時間。
その間におしゃべりをした。
最初は何をしゃべっていいのかわからなかったが、彼女の方から喋りかけてきてくれた。
どこにいくーだとか、こんなところに行きたいとか、そんな話だ。
どうやら日本各地を回って、一か月間くらい旅をするらしい。
その先はのんびり家でも借りるそうな。ほんとにすごいお金持ってるんだ。改めて思った。
家を借りるなら、私もバイトでもして、少しの足しにはなのかもしれない。
でもなんだろうか、なにか引っかかる。なんだろうか、この違和感。
気のせいなのだろうか、なにか忘れているような。
「ねえ、ついたよ」
「あ、はい!」
気のせいだ。そういうことにして、私は新天地に足を踏み入れた。
ゆりごけ レファ @yagyumituki83
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゆりごけの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます