第71話 ギューってして

 涼哉は5歳になった。今日は俺たち家族で、涼哉の誕生会をささやかに行っている。

「涼哉、お誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

雪哉と俺がそう言って、電気を消した。小さなケーキに乗った5本のろうそくの火が、チラチラと揺れ動く。

「さあ、フーってしてごらん。」

俺が涼哉に言うと、涼哉は思いっきり息を吸い、フーっと炎に吹きかけた。だが、一度では全部は消えず、

「あれー。」

と言って、涼哉はもう一度フーっと吹いた。やっと5本のろうそくの火が消えた。

「消えたー!」

涼哉がはしゃぐ。雪哉が電気を付けた。

「はい、プレゼント。」

俺がラッピングされた箱を涼哉に手渡すと、

「わーい!」

涼哉は大きな箱を頑張って受け取った。プレゼントは、仮面ライダーグッズだ。これを身につけて、テレビの真似をして「へんしん!」とか何とかやるのだろう。考えただけで微笑ましい。

「涼哉もそのうち、ゲーム機が欲しいとか、スマホが欲しいとか言い出すんだろうなあ。」

ケーキを頬張る涼哉の頭を撫でながら、俺がそう呟いた。

「ふふ、そうだね。ちゃんと考えて、話し合わないとね。」

雪哉が言った。子育ては難しい。これからもたくさん悩む事があるだろう。しかし、赤ちゃんの頃は心配で、たくさん手が掛かって、それは大変だった。ここまで大きくなってくれて、本当に感慨深い。

「涼哉、これからも元気に大きくなってくれよ。」

「うん!」

涼哉はニコニコと笑った。涼哉は、しゃべり方や仕草が、時々とても雪哉に似ている。誰が見ても親子だ。俺にも似ているところがあるらしい。保育園へ迎えに行くと、時々似ていると言われる。血は繋がっていないけれど、育てていれば、やっぱり親子だよなーと思う。

「あのね、あやか先生がね、お父さんのこと、かっこいいって言ってたよ。」

涼哉が何かを思い出したようで、そんな事を言った。

「え!?」

雪哉が驚いた声を出す。

「過剰反応しないの。俺がかっこいいのは当たり前でしょ。なあ、涼哉。」

「うん!お父さんはかっこいいよ。パパもかっこいいよ。」

涼哉は優しい子だ。因みに、お父さんは俺で、パパは雪哉だ。何となく、そうなった。

「だけどあれだな・・・涼哉には、どうしてママがいないのって聞かれたりしないのかな?」

俺は雪哉に言ったのだが、

「あのね、けんくんのおうちにも、ママはいないんだって。」

涼哉が言った。

「そうなのか?」

「うん。それでね、りなちゃんちには、お父さんがいないんだって。パパはいるけど。」

「は?」

あー、そういう事か。

「うちにはパパもお父さんもいるね!うらやましいって言われるんだ!」

「そうか、そうか。」

俺がそう言ってまた涼哉の頭を撫でると、雪哉がククっと笑った。

「ん?」

俺が言うと、

「その程度なんだよね。今の涼哉たちにとっては。でも、そのうち疑問を持って、色々知りたくなって、悩んだりするだろうね。」

雪哉がそう言った。

「時々話を聞いて、知りたいようだったら話してあげようね。」

そしてそう、付け加えた。

「そうだな。遠慮なんかしないで、何でも話して欲しいよなー。」

そう言って、俺は涼哉のほっぺについたクリームを指でぬぐった。

「ねえお父さん、またスキーに行きたい。」

涼哉が言った。

「お、またそり滑りやろうな。」

俺が言うと、

「ぼくもスキーやりたい。パパみたいにスイーって。」

と言う。

「パパみたいに?お父さんだって滑れるだろ?」

「えー、そうだけどぉ。でもパパみたいに滑りたい。」

子供は正直だ。そうだろうな、雪哉みたいになりたいよなあ。

「そうか、じゃあ今年はスキーをやろう。パパに教えてもらったら、きっと上手になるよ。」

「うん!」

涼哉は椅子から降りると、スイースイーとスキーをする真似をして部屋の中をぐるぐる回り出した。

「ほら、まだ食べてる途中だろ。」

雪哉が言うが、涼哉はスキーの真似を辞めない。

「ほら、涼哉。」

雪哉は立って、涼哉の後ろを一緒になってスイースイーとやり出した。涼哉はキャッキャッと嬉しそうに声を上げている。そんな様子を見ていると、微笑まずにはいられない。こんな平和な光景が、俺の目の前にあるなんて。奇跡だな。

「ほら、ギュー。」

雪哉が涼哉を捕まえて、頬をくっつけてギューっとした。涼哉は嬉しそうだ。二人は仲良しだなあ・・・と思っていたら、ちょっと妬けてきたぞ。そうか、これがたまに世間で聞く、息子に嫉妬する父親の心境なのか。

「雪哉、俺にもギューして。」

椅子から立ち上がってそう言ったら、

「えー、やだよ。」

雪哉が言う。

「いいじゃん、ギューってしてくれよー。」

俺が雪哉を追いかける。

「やだよー。」

雪哉が逃げる。

「キャハハハ!」

涼哉が笑う。追いかけっこでぐるぐる回る俺と雪哉を見て、涼哉も喜んで一緒になってぐるぐる周り出す。そして、俺は雪哉を捕まえた。そんな俺を涼哉が捕まえる。

「ギュー!」

三人でそう言って、ギューっとした。

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Snow Burst 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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