真相は闇の中。バラ園で起きた未解決事件
秋雨千尋
バラは見ていた
全寮制の男子校。
その一角にあるガラス張りの広大なバラ園にて、三日月の夜に行われる儀式がある。
麗しき園芸部部長が一人でいると、バラのアーチをくぐって異空間から吸血鬼がやってくるのだ。
長い髪、長い耳、黒い翼を生やした、息をのむほど美しい男。
「顔色が悪いようだが」
「あなたに会いたくて、苦しくて、食事も喉を通らないんです」
「それは困る。君には元気で居てもらわなければ」
二人は抱擁し、口づけを交わす。
肩を寄せ合い色々なことを語り合ってから、吸血鬼は魔法でバラの花びらを躍らせて部長の指先から血を吸う。
儀式の最中の部長は、頰が紅潮し息は乱れ、非常に悩ましい。
傷口を手当てしながら吸血鬼は言う。
「君と永遠を生きたい。だが家族から引き離すのは忍びない」
彼はいつもそう言って涙ぐむ部長を置いて帰ってしまう。三日月の次の日は泣き腫らした顔をしているわけだから、不審に思う者も出てくる。
副部長がそうだった。
部長に想いを寄せる彼はバラ園にやってきた。
そして二人を見て激昂した。
部外者を連れ込むなんて不潔だ、下品だ、学園長に言いつけると醜くとわめき散らし、その結果──吸血鬼に心臓を抉られて殺されてしまった。
「すまない。このままでは……君が罪に問われてしまうな」
「人の道に外れた恋の代償です。僕は冷たい塀の中でも、ずっとあなたを想っています」
「君が罵声を浴びるなど、あってはならない」
吸血鬼は部長を固く抱きしめ、首筋に歯を立てた。部長はビクビクと体を震わせた後に、耳を尖らせて、背中から羽を生やした。
同族になったという事らしい。
部長はボロボロと涙を流して幸せそうに笑って、二人は身を寄せ合いながらバラのアーチをくぐって消えてしまった。
+++
という一連の流れを土に埋まりながらバラの下で目撃していたボクは、感極まって泣いていたところを警備員に見つかった。
警察に引き渡されて、めちゃくちゃ取り調べを受けたけど、証拠不十分で不起訴になった。
なんでそんな場所に居たんだと聞かれても『落ち着くから』しか言わなかった。ボクが見た事は秘密だ。言っても誰も信じないだろうし。
バラ園の殺人事件は今も未解決のまま。
別の世界で幸せに暮らしている事を祈りながら、ボクは今日も土に埋まる。アーチをくぐって吸血鬼の部長が遊びにくるかもしれないから。
終わり。
真相は闇の中。バラ園で起きた未解決事件 秋雨千尋 @akisamechihiro
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