第10話


 小人、それは人間の半分くらいの身長で、獰猛な牙を口に生えそろわせている。

 独自の文明を持ち、服飾文化に飛んでいて着ている衣服は派手で美しい。だが、知能は低く攻撃的で、人を食らう。

 俺は即座にコートの中へ手を伸ばす。杖を掴むのと同時に、やつも俺の腕に噛みついた。

「ぐっ!」

 小人の顎の力はすさまじい。少し噛まれただけで骨が折れそうだ。俺は咄嗟に蹴り飛ばし、距離を取る。

 そして怪我した利き腕で杖を持ち、構えた。

 小人が飛び跳ねながら、こっちへ寄ってくる。狙いが定まらない。

 俺はやつをギリギリまで引き付け、目の前にやつが来た瞬間杖を一気に傾ける。杖は先端から勢いよく火を噴いた。

 杖には振り方がある。伝説に描かれているような魔女の魔法とは違う。あくまで知識と技能の決勝で、俺たちサンタは戦う。急激に傾けられた杖は、中の油と鉱石が瞬時に反応し火を放つ。山斬り鳥の鱗で加工されているため、杖そのものが燃えることはない。

 火は激しく小人にぶつかり、やつを後退させる。


 それでもこちらへ向かってくることを止めはしない。

 俺は第二撃の炎を放つ。火だるまになった小人が悲鳴を上げながら体当たりしてくる。俺は近くの木を蹴って飛び、それを避けた。

 落ちていた拳くらいの大きさの石を拾い。気にぶつかってよろめいている小人を殴る。

 何度か繰り返すと、小人はやっと絶命した。


 息を整えていると、腕の痛みが強くなってきた。手当をしようとコートから包帯を取り出したとき、俺の足に何かが刺さった。

 いつの間にかいた別の小人だった。

 気づけば俺は十体以上の小人たちに囲まれていた。


 杖の火で、足元の小人を追い払う。

 俺は痛みに耐えかねて、膝をついた。杖を振って、自分を火で囲む。小人たちは少し離れたが、その熱さに俺はむせかえった。

 口を肩でふさぎながら、腕と足に雑に包帯を巻く。包帯に塗られた薬が効いてくれば、走れるくらいまで痛みは治まるだろう。しかし薬が浸透するまで五分程度はかかる。それまで、耐えきれるか。

 俺は奥歯を強く噛み、杖を握り直した。


 何度も杖を振り、火を出し続ける。しかしこれではむしろ火で焼け死んでしまう。

 そう思って炎を弱めるが、失敗だった。

 火の壁にできた隙間から、小人が一体飛び込んできた。

 再び腕を噛まれた俺は、杖を落としてしまう。杖は転がり、火は治まっていく。小人は何度も俺に襲い掛かり、殴っても離れない。そうこうしているうちに完全に火が消えた。

 一斉に小人たちが寄ってくる。

「うわあああ!」

 俺は必死に小人たちを殴り、追い払おうとする。しかし、数が多すぎて立ち上がることすらできない。

 そのとき、閃光がまたたいた。鋭く飛んできた炎は次々に小人をなぎ倒していく。

「ロディ! 大丈夫?!」

 リリイだった。



 彼女は俺に駆け寄り、杖の火で小人を瞬く間に追い払う。

「リリイ……」

「ロディ、顔が傷だらけ! すぐ手当てするからね!」

「どうして……戦闘用の杖を使っても石で叩かないと死ななかったのに……」

「街灯の着火用の杖を使ったの。あいつら、見たことない動きの火だから怖いみたい」

「なるほど、助かったよ」

「あまり喋らないで……口元も切られてる」

 俺はうなずき、彼女に手当てを任せた。



 森を抜けるところで、アルベルとジャックに合流できた。聞いた話によると、二人は迷うことなく帰ってこれたらしい。

 リリイも道を忘れることはなかった。なぜか俺だけが、帰り道を思い出せなくなっていたのだ。

 偶然リリイが近くを通っていなければ、小人たちに食い殺されるところだった。


 これは訳あって後から知らされたのだが、ジャックは帰り道に片眼を失っていた。

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竜の民とサンタクロース〜お前のせいで仲間が死んだと濡れ衣をかけられて追放されたけど、それでも俺は残った仲間を見捨てない。真の実力行使で最強リベンジ〜 @zamasu

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