第34話 先輩のありがたいお話 ②
私の同期となる岡田遥香は重岡医師と交際する事を決めたわけです。
高校の時から交際していた彼氏に浮気をされて別れたばかりの遥香は失恋の痛みを抱えていたので、重岡先生が彼女を転がすのは簡単なことだったでしょう。
病院で働くほっとんどの看護師がそうなんじゃないのかな?と思うんだけど、あわよくばお医者様とお付き合い・・からの結婚で、幸せセレブな医者の妻生活!!を夢見ることってあるんじゃないのかな?
今は昔ほど医者は儲けられないって言われてはいるけれど、医者の妻!響きが良いもんね〜。二人の仲は順調だったし、何度も楽しいデートを重ねたけれど、ある時、二人の友人を紹介するからと言われて飲みに誘われて、そこで薬を盛られる事になったらしい。
三人は何度も、何度も、昼近くになるまで遥香の体を交互に楽しみ、笑いながら撮影をして、
「俺、八月に結婚するんだけど、結婚した後も相手をしてよね」
と、重岡医師に言われたらしい。
警察に訴えると言い出した遥香を殺したのは脳外科に勤める辻元医師で、こいつは、高齢者の患者さんが自分の不手際でお亡くなりになるのが早くなったとしても、反省の一つもないような人だったもんな〜。
私が佐々木さんを探しに行くように仕向けて、レイプされるって分かっているのに病棟で自分の仕事をしているような鬼畜だもん。とんでもない奴なのは間違いない!
「辻元先生たちは、遥香を殺しても捕まらないと思ったんですかね?」
私の問いに、先輩は大きなため息を吐き出した。
「実際問題、警察もそこまで真剣に捜査をしているようには思えなかったわよね。看護師が自殺、最近恋愛もうまくいっていなかったみたい、じゃあ仕方がないって。宮脇さん達が動かなかったら、きっとそのまま三人の医者は逃げ切ったと思うもの」
「先生達って精神科に運ばれたあと、どうなったんですか?」
「正気に戻ったらしいわよ、でも殺人だからね。懲戒解雇処分を受ける事になったし、確実に実刑をくらうでしょうね」
まだ裁判が始まってないから何とも言えないんだけど、私と鉄串先輩は証人として呼び出される可能性が高いのです。
「重岡先生も婚約は破談、田辺先生は離婚調停中だそうよ?辻元先生は独身だけど、医者家系だから親族一同、激オコ状態らしい」
「はあ」
「他のクソ医者どもも警察で冷や汗かいているみたいだけど、表に出てこない分はうやむやで終わるでしょ」
「性犯罪で医師免許剥奪とかしないですもんね〜」
幼児性犯罪で罪を犯しても、他の場所で教員になれる教員とまるきしおんなじですよ。
「あのね、宮脇さんにも注意しておくけど」
唯一私の面倒をみてくれる渡部先輩の『ご注意』きました〜。
「過ぎた欲の果てには破滅しかないの」
はい?
「食欲、睡眠欲、性欲、独占欲、欲には様々あると思うんだけど、食べ過ぎれば肥満となり、眠りすぎれば体内時計のバランスを崩し、強い独占欲は相手を辟易とさせて別れの結末を引き寄せる」
はい。
「この病院には過ぎた性欲に振り回されるアホが山ほどいて、結果、破滅に導かれていったけれど、あなたも過剰な欲は持たずに、ほどほどが一番なのよ」
「過剰な欲は持たず・・ほどほどですか・・そもそも私、性欲とかあったかな・・」
「若いのに、何を言っているの?」
「だって、性欲って言われても、今まで一度も彼氏が出来たことがないから分かんないんですよねー」
「えええ?宮脇さんは放射線科のイケメンと付き合っているんでしょ?」
「いやいや、部活の先輩、後輩の腐れ縁が続いているだけで」
「重岡先生と田辺先生に襲われた時に助けに入ったって!」
「あれ、めちゃくちゃ怖かったですよーー!」
「そりゃ、二人の男の人に襲われたら・・」
「部屋の隅からこう、黒い墨を垂れ流したような何かが溢れてきて、そのうちに女性の無数の腕になったんです!それで腕から顔、顔も結構な数があらわれて」
「・・・・・」
「恐ろしい事に、私だけでなく鉄串先輩も見ているんですよ!一人だけだったら目の錯覚かな〜とも思えるんですけど、二人でばっちり見ていて、重岡先生と田辺先生が引きずられるようにして部屋の隅に移動していくのをみて、慌てて逃げ出して、ドアの鍵を外から施錠しちゃったんですよね。あの時は怖かったなー〜」
「・・・・・」
先輩はナースステーションの四隅を眺めると言い出した。
「今はないわよね?」
「はい?」
「今は墨みたい黒い何かは出てないわよね?」
「ない・・ですけど?」
「何人か逮捕したって、長年続いた医者の女性蔑視マインドなんて変わるはずがないし、今後も被害が続くわよ」
「ど・・どうしたんですか?」
「最近、薬を使った性犯罪が摘発されまくっているけど、病院ではそんな事、太古の昔から続いているの!犯罪医者が山のようにいるのよ!被害を受けた女性達の怨念が!今も!残っていたらどうするの!怖いじゃない!」
いや、どうするって言われてもなあ。
「とにかく医者とは飲みに行きません。医者に出された飲み物は飲みません」
「そうね、そのほうがいいかも」
「っていうか、今まで私、医者に誘われて飲みに行ったり、食事に行ったりする看護師さんたちを、山のように見ているんですけど〜?」
「ろくな医者がいないってのは分かりきっているのに、もしかしたら、私だけかも、万が一ってこともあるっていう想いに引きずられて、ついつい誘いに乗っちゃうのよ」
鉄串先輩と同じことを言っているなぁ。
「ちなみに看護師と結婚している医者は、そのほとんどがサラリーマン家庭よ!医者家系は、看護師?はあ?お前、(性の)道具と結婚するのか?みたいな目で見られるからお遊び限定ばかりとなるのよ。ちなみに親がサラリーマン家庭の医者ってどれくらいのパーセンテージだと思う?」
「少ないと思います」
だから医者と看護師の夫婦って、思ったよりも少なかったりするんですかね。
その後、脳外科病棟にも新人の看護師さんが配属されてきたのですが、
「宮脇と夜勤につくときにはくれぐれも気をつけるように」
と、新人に説明するのは何故だろう。
「何かが見えたとしても、動いたとしても、それは無視、無視するの」
え?どういうこと?
「つまりは幽霊みたいなあれって事でしょうか?」
先輩看護師さんは、うんうんと頷きながら、
「そういう事もたまにある」
と言い出した。
「そうそう、宮脇には注意だねー〜」
と、同期の横山理奈が言い出した。
自分こそ霊感高め女のくせに!
意味が分からないんですけどー〜―。
ちなみに鉄串先輩がいる放射線科にも新しい放射線技師(女性)が配属されてきて、やたらとボディタッチが多いわ、食事の誘いが多くてウザイと不機嫌になっています。
そのうちセクハラで訴えると言っているけど、女子が訴えられる側な訳?
意味が分からないんですけどー〜。
まあ、最近うちの病院はコンプライアンスに厳しいから、話くらいは聞いてくれるかもしれないけれど。
〈 完 〉
*************************
これでこのお話は終わりとなります!!最後までお付き合い頂きありがとうございます!!このお話は、私が病院で経験した話、人から聞いた話を混ぜ込んで作り上げているようなお話となります。近況ノートにあとがき的なものを書いておりますので、そちらも覗いて頂ければ幸いです!!
欲の果て もちづき 裕 @MOCHIYU
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