第33話  先輩のありがたいお話 ①

 その日、深夜勤務で御一緒することになった渡辺先輩に、私は遥香の実家までお線香をあげて来たという話をすることにしました。


 事件も一通り解決?したような感じですし(余罪がありそうな医者たちがブルブル震え続けてはいますけれども)今のこの時代に、薬を使って相手を酩酊させた上で性暴力を振うのは犯罪ですし、更には調子に乗って自殺に見せかけて殺しまでやっているんですからね〜。


 いくら本院に戻ってお偉いさんの娘さんと結婚が決まっていたとしても、フォロー出来ないレベルっていうか?病院を辞めるレベルの話ですよ。


 だけども、病院としてはお医者さんに辞められると運営が厳しくなるので、殺人事件の犯人である三人の医者は病院を辞めるのはもちろんとして、その後、映像データーなんかで発覚したお医者さんたちのお遊びについては・・・


 被害届を出されていない限りはうやむやにして乗り切ろうとしているみたいです〜!!世の中どうなってんのかな?と思いますけれど、いずれは天誅が降ると信じて神様、仏様に祈っておきましょう。


 そこで、ホラー案件から私を気にかけてくれるようになった渡辺先輩は、呆れた調子で言い出したのでした。


「それじゃあ、岡田さんの前彼っていうのはそいつが浮気をした上で別れることになっちゃったみたいな話だったわけ?」


「そうなんですよ!!なんか可愛い子に声をかけられてふらふら〜っと、避妊もせずに子供まで出来て!近々結婚だって言うんです!!」


「ああ〜、それで岡田さんは自暴自棄になって・・クソみたいな重岡先生の餌食になってしまったのか・・あの・・クソ耳鼻科のゴミクズ医者が・・」


 遥香は本当に可愛くて人気の新人だったので、とんでもない結果になって本当に悲しいです。


「それで結局、墓参りにまでついて来た・・てつ・・」

「てつ?」


 私は咳払いを一つしておきました。鉄串って言っても渡辺さんに通じるわけないんですって。


「その・・放射線科に勤める私の先輩が言い出したんですよ。顔目当てで近づいてきた女の誘いにまんまと乗って、子供が出来て、結婚て、相手は頭軽そうだし、結婚後働かなそうだし、自分がこれから稼ぐ給料、全部食い潰されるなんてかわいそ〜とか言い出して、そんな頭軽い女よりも看護師の方が給料稼ぐからいいよなー〜みたいなことを言い出したら、本気で元彼泣き出しちゃって」


「立派に『ざまあ』したんじゃない」

「『ざまあ』って『ざまあみやがれ』って事ですよね?きちんと出来たんでしょうか?」


「調子に乗りやがった医者3名を訴追して、更には埋もれていたクズ医者どもを一斉摘発できているんだから『ざまあ』以外の何ものでもないでしょう?」

「そうであって欲しいです!!」


 今日は、渡部先輩(私の面倒をみてくれる唯一の看護師の先輩)と久しぶりの深夜勤務だったので、先輩は私の前に、ケーキとプリンとゼリーを並べながら言い出した。

「とにかく、宮脇さんは頑張った!体を張って頑張ったんだから!先輩としてデザートくらいは奢ってあげないとね?」


 ナースステーションに置かれた大きなテーブルは、狂った辻元先生がジャンピングを繰り返したために壊れて、新しいテーブルに取り替えられている。


 私と先輩はこの新しいテーブルの上に並べたデザートを食べながら、お墓参りに行った時の話をしていたわけだけど、本当に男ってクズい奴が多いよなぁ。


「あのね・・私の新人の時の話なんだけど・・」


 渡部先輩が新人だったのは・・・何年前の事なのか怖くて尋ねる事は出来ませんでしたが、その時には部署を越えて新人看護師を集めた『新人歓迎慰安旅行』なるものがあったそうです。


 非番のお医者さんと新人看護師を集めて一泊二日のバス旅行。

 それで恐ろしいことに、

「え?食事の時にはブラジャーをしてくるな?」

 大座敷での食事の際に、温泉に入って浴衣姿だった看護師たちに、下にパンツは履いてもブラジャーはするなというお達しが下されて、

「それでは競馬ゲームをしまーー〜す!」

 と言って、競走馬となった四つん這いの医者の上に新人看護師が浴衣姿で跨って競争をするという(実にくだらない)催しまで開催。


 更には、

「お前!飲み過ぎだって!」

 酒を飲まされすぎた先輩看護師(女性)が全裸となって踊りまくり、

「そろそろ新人は寝なくちゃなー〜」

 と言って、十時になると新人看護師たちは、六人部屋の和室へと寝に帰る事となったわけなのですが、夜中の十二時すぎにマスターキーを使って部屋の扉を開けた医者たちが、寝入っていた看護師の布団に一人、一人侵入。


「いやー、私の所にきた医者はおさわり程度でやめてくれたから助かったんだけど、実際にいたしている子とかもいて、声とかもね、聞こえてきたりするのよ。本当に危なかったし、居た堪れなかったし」


「いやいやいやいや!それ!犯罪ですよね!犯罪ですよ!絶対に犯罪!」

「今だったらねー〜、コンプライアンスに引っかかる案件なんだけど、昔はねー〜、平気で行われていたんだよ〜」

 先輩が新人だったのは何年前になるのだろうか?


「当時は、部長とかが若手の医者にお金を渡して、これで看護師と遊んでこいとか言っちゃうような世の中だったのよ。遊んでこいって、性的に発散して来いって事よ?」


 何それーー〜!信じられないーーーー〜!


「本院から移動してくる医者は、どこどこの科の誰々だったらすぐに寝てくれるとか、あそこの科の誰々はすぐに寝るとか、あっちの具合はアイツが良くて、初心者狙いならあの科がいいとか申し送りしていたりするのよ」


はいいいいいいい?


「そ・・そ・・そういえば・・・」

 話はコロッと変わるかもしれないけれど、問わずにはいられない。


「遥香が病棟に来なくて、寮に行ってみたら自殺している所を発見したっていう時に、病院中に『行方不明になった』とか『誘拐されたかも』という感じで噂が流れたそうなんですけど、あれにも何か意味とかあるんですか?」


「私の新人の頃にも、医者に弄ばれた看護師が一人自殺したのよ」

 はあ・・・


「その時にも同じように『行方不明になった』って流れたの。これはね、普通じゃない事が起こっているから注意しろっていう合図の枕詞でもあるんだけど」

へえ・・・


「これから医者絡みで問題事案が発生するから、注意しろ、大騒ぎはするな、精悍すべし。医者は私たちよりも立場は上、看護師の地位なんて、うちの系列病院のマインドでいったら性の道具でしかないのよね。だから、黙って様子をみていろって事なんだけど・・・」


 渡部さんはケーキを食べてにっこりと笑いながら、

「今回ほどスッキリした事ってなかったわー〜―」

 と、言い出した。


「山岡師長さんに黙っとけって言われてカルテを投げつけられても、夢を見たとか何とか恐ろしい事を言い出すし、ゲス三人衆を誘き出して、発狂させて、婦長の電話も無視して警察に飛び込んで、殺人犯の犯人を捕まえてしまうんですもの!レイプ犯も芋づる式だったし!これほど痛快なことってなかったわ!」

 おお・・おおおおお。


「病院の経営側もお医者さんの確保が難しいのは今に始まったことじゃないし、お医者さんが働き続けてくれるのなら、ちょっとしたお痛程度だったら目を瞑るって事を長年続けてきたんだけど、女性差別、女性蔑視、男尊女卑のマインドのまま!!何年も何年もきちゃっているものだから!!今のお医者さんたちも私たちを道具以下としか思っていないんでしょうね!!」

「そ・・そうなんですかねー〜」

 でもそうかも。


 簡単に私を呼び出して、鮮やかな手口で備蓄倉庫に引っ張り込んだ、あの人たちの顔は今でも鮮明に思い出せる。


 人を人とは思わない視線、口元に常に浮かぶ嘲笑、自分の性の昂りを赤の他人にぶつける事に対して何の罪悪感も持たない。

「俺らに相手してもらってラッキーだろ?」

という理解できないマインド。





     *************************


 ここが書きたくて、このお話を書いていたのです。

むかーしむかし、本当に医者に対する新人看護師の接待旅行なるものが存在し、本当に、マスターキーを利用して、医者たちが侵入してきたわけですよ。


 どーいったことだと思うけれども、全ては男尊女卑の精神がなせる技ですよね。

 そしてそのマインドは脈々と受け継がれていいるのは間違いないわけです。

 もちろん、人の命を助ける崇高なる仕事にお互い就いているので、お互いを尊敬し合い、尊重しあって働ければそれにこしたことはないんですけれども・・・というお話になりますかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る