第32話 死霊の祟り ④
岡田遥香は泣きぼくろがある色っぽい美人だったのだが、彼女の実家は病院から電車を乗り継いで2時間、車だったら1時間半の距離にあり、山々に囲まれたのどかな風景が広がる田舎にあった。
小高い丘の上に檀家となっているお寺とお墓があり、岡田遥香は先祖代々の墓に納骨される事となったのだが、
「俺が別れなければ・・俺が別れなければ・・遥香は死ぬこともなかったのに・・・」
岡田家の墓の前で、精悍な顔付きをした若い男が膝をついて号泣している。
ラーメン屋でラーメンを食った俺たちは、岡田家に報告がてら線香をあげに行き、そこでたまたま出会した幼馴染とやらに墓場まで案内してもらったのだが、
「ごめん・・遥香・・本当にごめん・・・」
と、さっきから泣いている。
こんな時には、横山理奈には何が見えているんだろうなと思って、
「横山さん、もしかして何か見える系?」
と、質問したのだが、
「この人、ご先祖さまたちにめっちゃ怒られているわ」
と、霊感能力高め女が言い出した。
「見た目だけに惚れて、声をかけてきたという頭空っぽ女にまんまと引っかかって、あんまり会えない遥香の代わりにイチャイチャしたまでは良いものの、子供ができちゃったものだから近々結婚でしょう?田舎でそれやると総スカン食うってわからなかったのかなー〜って言ってるね」
はあ?
「子供が出来ても実家に入れば楽だろうとか考えているかもしれないけど、あんたの彼女に親との同居は無理だって。しばらくの間は実家を離れて別の街で暮らした方がいいと思うね。まあ、ジジババは孫には甘いから、時々顔を見せにくる孫を餌にしてお小遣い貰ったら良いんじゃない?」
泣き崩れていた男は、真っ青な顔で隣で意味不明なことを言い続けている横山理奈を見上げて言い出した。
「遥香はそこまであなたに俺のことを話していたんですか?」
「いや、全然。私たちは確かに同期なんですけど、遥香はイケてるグループ、私と理奈は彼氏もいないイケてないグループだったんで、あんまり私的な事を話す機会ってなかったと思いますもん」
横から補足するように宮脇が説明すると、
「え!でも!あなたは遥香が殺された事を証明するために、ずいぶん無茶な事をしたって言っていたじゃないですか?」
と、元彼は言い出した。
「いや、その、なんていうのかな〜、うちの病棟、遥香も勤めていた脳外科病棟なんですけど、心霊現象の発生率高めの病棟で、遥香が亡くなったその日から、私が変な夢を毎日見るようになったんですよね」
宮脇は困り果てたように手をあっちこっちに動かしながら説明する。
「遥香が殺されるところとか夢に見るようになったし、それを霊感強めの理奈、この子なんですけど、遥香のメッセージだって説明してくれて、それで、人も殺すような破廉恥極まりないクソクズ医者どもは何とか成敗しなくちゃって思って、クソ医者たちの罠にわざとハマるような事までしたんですけどぉ・・・あの時は本当に怖かったですー〜」
あの時は俺も怖かったですーー〜。
「壁の端の方からワッ!と黒い塊みたいなものが飛び出してきたんですけど、それが女性の無数の手とか顔とかで、二人の医者に絡み付いて離れないというか、地獄に引き摺り込むような形でどんどん、部屋のはじの方へと引っ張って行ったんですよー〜」
「あの時は俺もいて、その現象はこの目で見ています」
俺は手を挙げて発言しながら、膝をついたままの元彼を見下ろすと、
「女の呪い怖えと思ったし!万が一にも俺が呪われるような事になったら困ると思って!二人が線香をあげに行くって言うからついてきただけです」
と言って、奮発した菊の花束を墓の前へと置いた。
「え・・え・・え・・それじゃあ・・・」
真っ青になった元彼はその場に尻餅をついた。
「ご先祖さまって・・俺のご先祖さまって事ですか?もしかして、さっき言っていた親との同居はやめろと言うのも遥香の心のこもった優しい意見とかじゃなくて、ご先祖さまのお言葉ってこと?」
「何その、遥香の心のこもった優しい意見って」
「浮気したクズ男なんか即、脳みそから消去するに決まっているだろうに」
二人は元彼を蛆虫を見るような目で見下ろした。
「ごめん、ごめんとか言って、泣いてんじゃねえよって感じですよ」
「泣くくらいなら浮気すな、浮気するなら避妊はきちんとしろっつうんだよ」
塵芥を見るような目で元彼を見ながら、宮脇と横山莉奈はカバンから線香や饅頭を取り出した。
「遥香って、まんじゅう好きだったかなー〜」
「いや、知らないけど、墓といえば和菓子じゃない?」
「うちは墓参りのときに、ビールかけたりするんだけどやるべきかな?」
「アホじゃない?クライマックスシリーズ優勝したわけでもなし?ビール?墓にビール?」
「瓶ビールぶあーーっとかけるんじゃないよ?缶ビールちょろって感じで?おじいちゃん、ビールは好きだったわよねーっておばあちゃんが」
「それはやめよう。普通に線香をあげるので良いと思う」
「一応ビール持ってきたんだけどなぁ」
「かけずに供えてやろう、酒好きの先祖もきっといるでしょう」
ようやく立ち上がる事に成功した元彼は、尻についた土を叩き落としながら俺の方へ近づいてくると、
「一体どういう事か理解できないんですけど・・・」
と、言い出した。
「理解できないってどのあたりが?」
「どのあたりっていうか・・全部?」
でしょうね。
「さっきも言ったけど、俺たちは岡田遥香さんと同じ病院に勤めていて、あっちの髪の毛を緩く結った可愛い系が『霊も見れるし声も聞ける人』で、あっちのすらりと細くて美人系が『なんだかわからないけど霊障によく出くわす人』なわけ。あなたがさっき言われていたのは、多分、本当に、先祖があなたに対して言っていた言葉だと思うから、俺も嫁と一緒に親と同居っていうのはやめた方が良いと思う」
「え・・・え・・・え・・・・・」
精悍な顔付きをした男前って感じの人だったんだけどなぁ。
腰砕けになって小刻みに震えながら、自分の後ろを振り返ったり、雲ひとつない青空を見上げたりして、自分の腕で自分の体を抱きしめた。
「それじゃあ、遥香も今はすぐ近くに居て、裏切った俺に対して、恨みとか妬みとか・・」
「それはないですよー〜」
「成仏しているからそれはない」
二人にそんな事を言われたけど、元彼はブルブルブルブル震え続けている。
まあな、怖えよな、俺も怖えと思うもの。
「だけどさ、幽霊も怖いかもしれないけど、俺としては貴方の年でデキ婚、相手、顔が目当てというだけで近づいてきた女で、子供もかっこいい子が生まれるかも!なんて思っているような子なんでしょう?そんな奴と一生添い遂げる方が怖いかも。だって、頭軽そうだし、子供が生まれてからも働きそうにないし、これから、自分の給料を一生を嫁と子供に食い潰されるわけでしょ?だったら俺、そこそこ給料がある看護師の方がいいと思うけどなー〜」
俺の言葉がトドメとなったのかな・・・
元彼はシクシクとその場で泣き出したのだった。
*************************
看護師はお休みが土日にならないことが多いので、恋人が出来てもすぐに別れちゃったりとか、他所の女に持っていかれたりとか多いです。
何でも婚活業界ではこの業種、60代以降の男性にとーっても人気があるんですって!!自分の老後の面倒を見てもらいたい気満々ですよね!!
でもでも!!例えあなたが会社で働けなくなっても、資格ですぐに働けるという業種なので、恋人(妻)にするのなら!お得だと思いますよ〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます