10話.[まあ待ちなさい]

「可愛いわね、あなたはやっぱり髪をまとめた方がいいわよ」

「ありがとう」

「ついでに柚莉愛の彼女でいることをやめて私の彼女になってくれたら嬉しいわね」

「そ、それはごめん」

「ちっ、あ、なんでもないわ」


 こ、これについては間違いなく続けない方がいい、続けたところで彼女の顔が怖くなるだけだ。

 とりあえず僕にとっての救世主である柚莉愛に助けを求め――なんであの子はいつもすぐに寝てしまうのか。

 二人だけで会話をすると絶対にこうなると分かっているのに何故か油断している。


「ちょっと柚莉愛、寝ていないで美森の相手をしてよ」

「んー、むにゃむにゃ、いまは眠たいから無理だぁ」

「ちょ、ちょっと――ひっ!? あ、あの、僕の両肩をそんなに思い切り掴んでもなにも出てこないよ?」

「なにをそんなに驚いているのよ、私はただあなたに構ってもらいたくてこうして触れただけよ」


 ふぅ、落ち着こう、なにも失敗をすれば殺されるという状況ではないのだ、普通に対応をすればまず失敗をしな――いということはないけどいちいち過剰な反応を見せるから彼女としては面白くないわけで、それさえ直せればなんとかなると思う。

 それにあくまでお友達として仲良くやっていきたいわけだから柚莉愛ばかりを優先するのは違うか、危ない、またよく考えずに行動をしてなにもかもを失うところだったよ。


「美森、また美森のお家に行ってもいい? ワンちゃんもあそこの雰囲気も気に入っているんだ」

「ええ、それなら行きましょうか、あ、そこで寝たふりをしている女の子を放っておいて二人で家に行きましょうか」

「まあ待ちなさい、それなら私も行くに決まっているじゃないですか」

「最初からちゃんと起きておきなさいよ」

「いいでしょー、学校は疲れるんだよー」


 ただ、空気を読んでくれたのか彼女のお家に向かっている最中は二人で喋りながら歩けていた。


「美森相手に油断したら駄目だからね、油断なんかしたらすぐに食べられちゃうよ?」

「そんな狼さんじゃないんだからさ」

「美森は狼だよ――ほらね、肉食獣さ」


 い、いや、それは言葉で煽るようなことをしているからであって普段の彼女は優しくていい子なんだけど……。


「柚莉愛は駄目ね、和音だけ来なさい」

「ははは……」

「はい独占禁止ー、というかね、付き合ってから何故か美森との時間が増えているけどこれって浮気じゃない?」

「浮気じゃないわよ、和音は私にも優しいというだけのことだもの」

「だからそれが浮気に該当するんだよ、二人ともそこに座りなさい! 今日はちゃんと理解できるまで帰さないんだからね!」


 柚莉愛が楽しそうだったから言うことを聞いておいた、比較的奇麗な場所だったから地面に直接座ることになっても構わなかった。

 それよりもこうしてお友達らしく一緒にいられているということが嬉しかったのだった。

 

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