第十七話 公開処刑

「セルビオ・ビスターチ・ローランベルク伯爵の謀反は明白。よってローランベルク伯爵家には反逆罪を適用し、家は取り潰し。領地及び領都邸を含む財産は一切を没収とします」


 ローランベルク伯爵家に対する裁定は旧イルドネシア王国王城、取り壊されたウラブド城跡地にて公開で行われた。一つには貴族に対する見せしめの意味を持ち、一つには市民に対する娯楽の意味を持つ。


 特に今回は反逆罪の断罪であり、ローランベルク一族が公開で首を刎ねられる残酷なものだ。むろん見物人は十五歳以上の成人とされたが、そもそも広さ的に入場可能な人数は限られていた。


 そんな中、領民から支持されていたアルフィーを襲った伯爵家には罵声が浴びせられ、伯爵家没落を当然とする者がほとんどだった。だから次のアルフィーの言葉は彼らを動揺させるのに十分だったのである。


「なお、本件に全く加担していないリレイア嬢についてはローランベルクの家名を名乗ることを許さず、身分を平民に改めることとします」


「つまりどういうことだ?」

「まさか令嬢は死罪にならないってか?」


「おいおい、反逆罪ってのは一族郎党死罪って話じゃないのかよ?」


 見物人から疑問の声が上がる。彼らにしてみれば高貴な元侯爵家令嬢の斬首は、当主のセルビオ本人よりもむしろメインイベントと言えたからだ。


 しかもローランベルク一族や、今回とばっちりを受ける関係者の中には彼女よりも年下の子供もいる。故にこんな憶測が飛び交い始めた。


「ご領主様も子供とはいえ男だったってことかよ」

「ああ、なるほど。あのご令嬢、顔はきれいだし体はエロいからな」


「いやいや、女には死ぬより辛いこともあるってことじゃねえのか?」

「何だよ、それ?」


「衛兵の慰み者にされるとかさ」

「あ、なるほど。それなら分からなくもないか」


 だが、そんな声を掻き消すほどの大声でリレイアが叫んだ。


「お待ち下さい!」

「リレイア嬢、発言を許した覚えはありませんよ」


「で、ではご領主様、発言の許可をお願い致します」

「分かりました。許可しましょう」


「何故ワタクシ一人が死罪にならないのですか!? ワタクシとてローランベルク家の者です! お父様の計画を知らなかったからといって許されるはずはありません!」

「そうですね。僕も悩みました」


「ではどうして……まさか見物されている方々が言われるようにワタクシを慰み者として……」

「そんなことをするつもりはありませんよ」


「でしたら他の計画を聞かされていなかった方々の死罪も……」


「ご領主様! 我が息子はまだ四歳、主家の謀反のせいで殺されるのはあまりに酷いと思いませんか!?」

「うちの子も六歳です! ご奉公に上がっていた私はともかく、娘には何の罪もないではありませんか!」

「ワタクシはただローランベルク家に出入りしていた商人です! なのに妻や子供たちまで関係者と見なされるなんておかしいです!」


「お黙りなさい! 貴方方に発言は許しておりません! そもそも、何故反逆罪が一族郎党死罪となるのかご存じではないですか?」


 大きな理由は、失敗すれば愛する家族や親族にまで死罪となるのだから、リスクを考えれば思いとどまるだろうという考えから。また、謀反を起こすような一族の身内や関係者は同じ考えに至る可能性があるから。


 さらにそのような者を生かしておけば仇討ちを考えてもおかしくないから、というのもある。


「そして、万が一謀反が成功していたなら、恩恵を受けるのは貴方方全員です。知ってと知らざるとです」

「「「「……」」」」


「ですがご領主様、先ほどからお尋ねしている通り、それなら何故ワタクシは死罪ではないのですか!? お答え下さい!」


「僕の身勝手と考えて頂いてかまいません」

「ご領主様の身勝手……?」


「リレイア嬢を生かすことは父上……国王陛下にも反対されました。法を曲げるべきではない、命を助けた貴女からも恨まれることになると……」

「でしたら……!」


「でも、僕はどうしても貴女を死なせる決定を下せなかったんです……」


 見物人たちから猛烈な抗議の声が上がり始める。それは罪人として並ばされている、ローランベルク伯爵夫妻以外の者たちも同じだった。


「静粛に! 静粛に!」


 アルフィーの横に立っていた領主代行のリアムが大声で叫ぶ。だが、見物人たちが収まったのはそれが数回繰り返された後だった。


 すでに裁定は下されたので、この後は一族の公開処刑が執行される流れである。なお一族以外の、いわゆるとばっちりを受けた関係者の処刑は非公開とされた。


「これより三十分後にローランベルク一族の公開処刑を行う! 血を見るのが苦手な者はそれまでにこの場から去るように!」


 リアムが言うと、一族を残して関係者たちは衛兵に連れ去られていった。


「リレイア嬢、もし辛ければ貴女もこの場から去っても構いませんよ」

「どうしても……どうしてもワタクシはお父様たちと共に首を刎ねては頂けないのですか?」


「裁定は下しました。自害は許しませんよ」

「ワタクシを生かせば先ほどご領主様が仰った通り、貴方様の命を狙うかも知れないのにですか?」


「先にこれを言っておきます。僕はあの竜殺しと呼ばれる父王陛下の息子です。貴女ではこの体に刃を通すことは出来ないでしょう」

「何を意味の分からないことを……」


「どうされますか? ここに残りますか? 去りますか?」


「ワタクシはローランベルク家の者としてお父様とお母様、そして一族の最期をこの目で見届けさせて頂きますわ」

「そうですか……」


 令嬢の悲痛な決意に、見物人たちが野次を飛ばすことはなかった。それどころかむしろ彼女に同情する者まで出てきたほどである。


 対してアルフィーは一部からではあったが、確実に不興を買っていた。彼らにとっては子供といえども領主である。それがただの身勝手で、まだ十二歳の娘に実の両親の無残な姿を見せるのだ。


 最初はその幼い娘の処刑シーンを楽しみにしていた者たちが、いつしか憐れみを向けるに至っていた。


 そして予定の時刻、ローランベルク一族は最期の言葉を残すことも許されず、目隠しされた上で次々と首を刎ねられていく。だが、そこには懸念されたリレイアの泣き叫ぶ声が響くことはなかった。


 彼女はただ歯を食いしばって体を震わせ、悲しみと苦しみに耐えるばかりだったのである。そんな彼女の両親は最後まで一言も言葉を、悲鳴さえ漏らそうとはしなかった。

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