第二十三話 リベンジ

「あれ? 国王様が何でここに?」

「言っただろう? 帰りのことは心配するなって」


「空でも飛んで帰ってきたんですかい?」

「ま、そんなところだ」


 海洋国家イルドネシアをジルポール領としてから、優弥はひとまず城内で国政を担っていた法衣貴族に内政を任せ、ロッティたちと共にミューポリシに戻ってきた。


 とは言っても将来的には彼らから爵位を剥奪することになる。戦争を止められなかったのだから当然で、そこは説明しておいた。


 なお、彼らに任せた主な内容は次の通り。


・イルドネシアがハセミガルド王国の属領となり、ジルポール領と名を変えたことを全領民に流布。ただし混乱を防ぐため王都シャーカルタンはそのまま領都とし、王城ウラブドの名も変えないこととした。

・全ての貴族の爵位降爵。男爵は準男爵へ。

・自身の後進の発掘と育成。ただし血族は不可。


 なお、公爵家は王家に繋がる家系故に王族と同じ処分としたため、ジルポール領の最高爵位は伯爵位となる。


 また、全ての貴族から租税とは別に領地や財産に応じた税を徴収することとし、不正な申告は家を取り潰す罰則も設けた。当然大きな反発が起きたが、宣戦布告もなしに戦争を仕掛けて敗戦し、属領となった領地の貴族に意見を述べる権利などないと一蹴した。


 それでも文句があるなら国家反逆罪を適用すると脅し、懲りずに反論してきたいくつかの貴族を実際に取り潰したのである。むろん旧王都シャーカルタンにあった彼らの邸は物理的に破壊した。これによって優弥の力と本気度を知り、黙らざるを得なかったというわけだ。


 それとは別に彼が思い知らされたのは、イルドア島の消滅と数百人の犠牲者、本島に来ていた二千五百人あまりの行き場を失った人たちの存在だった。懸念していた追尾投擲の流れ弾による被害者である。


 彼らには当面シャーカルタンの外れにキャンプを置いて、生活の支援を受けさせることにした。この財源は優弥の個人資産である。


 せめてもの罪滅ぼしのつもりだったが、島が消えた理由を知らない彼らは、図らずも新たな君主に感謝していた。実は真実を知らせて余計なわだかまりを持たせるより、前を向いて生きてもらう方がいいとロッティに諭されたのだ。


 いずれ本当のことを知った時に苦しむのではないかとも考えたが、帰還した兵は全て処刑されていたし、ジルポールの領民の中で消滅した理由を知る者はいない。元国王のルクセンも含めてだ。


 だから自分たちさえ墓場まで持っていけば、永遠に知られることはないだろうと説得されたのである。その日優弥は犠牲になった者たちへの申し訳なさから、ロッティの胸で声を出して泣いてしまった。


 ちなみに元凶を作ったルクセンは拷問の後に首を刎ね、王族男性は優弥がこの世界に来て初めて働いたグルール鉱山に奴隷鉱夫として送る。


 実は少し前にハセミガルド王国宰相のドミニク・キャンベルが、鉱山管理局のラモスより人手が欲しいとの相談を受けたと言っていたからだ。ラモスとは管理局が彼に『鉱山ロード』の称号を授けることを伝え、表彰状のような証を手渡してくれた人物である。


(彼にも世話になったからな。これで少しは恩返しになるだろう)


 王族女性については全員、ハセミガルド王国にあるハルモニア教修道院に送ることにした。


 男女とも家族がいる者もいたが、今回の戦争で命を落とし、家族と引き裂かれた者たちのことを考えれば生き別れは償いである。これは戦争当事国の王族として必要な覚悟だった。


「シェリフたちも無事に帰還出来て何よりだ」


「国王様、また何かあったら声かけて下せえ。そんで出来ればイズナちゃんとかメイリンちゃんみてえな可愛い女の子を紹介してもらえると……」

「あら、私は入ってないんですか?」


「ろ、ロッティ様は国王様の奥さんになられる方じゃねえですか。さすがに引き合いには出せませんて。それになんかおっかねえし……」

「何か言いました?」

「い、いえ、何も!」


「ふむ。イズナとメイリンか。本人たちがいいなら口説いても構わんぞ」

「ほ、本当ですかい!?」


「ただな、シェリフ」

「はい?」


「二人とも俺の護衛を務めていることを忘れるなよ」

「へ? も、もしかして……」


「気づいたことを何でも口に出すと命を縮めることになりかねん。俺のような身分の者の前では特に気をつけた方がいい」

「ひ、ひいっ! す、すんません!」


「冗談だ。まあ、イズナもメイリンも今のところ手放すつもりはない。それとも二人は嫁に行きたいか?」

「「いえ」」


「だそうだ。一応気にかけてはおくが期待するなよ」

「や、やっぱりさっきのは忘れて下せえ!」

「そうか? なら忘れるとしよう」


 こういうやり取りが嫌いではない優弥は、シェリフが期待通りの受け答えをしてくれたので大変に満足していた。


(気のいい男だ。他人に頼らずともいくらでも相手は見つかるだろう)


 ところで港湾国家ミューポリシの王スラハドルは、自らハセミガルド王国の属国となる道を選んだ。一度は敵対しようとしたことに対するケジメだという。


 実はこの申し出は属領としたジルポール領を管理する上で大変に有用だった。すでにミューポリシにもジルポールにもいくつかの転送ゲートを設置したので、優弥自身や密偵を送り込むことは造作もない。


 しかし船で片道五日かかるとはいえ隣国同士。情勢に変化があればいち早く対応可能なのはミューポリシである。当然スラハドルにも転送ゲートの存在を明かし、起動の権限も与えておくことにした。


「これで一段落ついたな」

「あの、お館様」


「どうした、ロッティ?」

「心残りがございまして」

「珍しいな。言ってみろ」


「スイフタン王国にあるレーンズヒルの酒場で頂いたニジマースの特上塩焼き御膳が……」


「ああ! レオンとかいうクソババアの手下のせいで不味くなったアレか!」

「もう一度ちゃんと頂きたいな、と」


 ロッティがそんなことを言うとは思ってもいなかった彼は、思わず笑ってしまった。しかしこんな時でもなければ再び立ち寄ることもないだろう。イズナも目を輝かせているし、メイリンも興味津々といった感じだ。


「よし、帰りに立ち寄るか」


 ソフーラ城に戻ればやらなければならない仕事がいくつもあるのだ。現実逃避ではないが少しの息抜きくらいは許されるだろうと、四人はミューポリシを出てレーンズヒルの酒場へと向かう。


 ただ、城に帰ってから料理のことをうっかり妻たちに喋ってしまったせいで、結局ソフィアとポーラ、エビィリン、アリアまで連れていくことになったのは誤算だった。


(ま、たまにはこんなのもいいよな)


 後日、魔王ティベリアにも知られてしまい、ソフィアたちもアンコールするので結局しばらくは十日に一度のペースで通うことになる。


 さらに護衛のロッティたちは常に同行するため、いつも複数の美女を侍らせているどこかの富豪として、優弥が酒場で名を馳せることになったのは言うまでもないだろう。




――あとがき――

先日書いた通り、これより二週間ほど更新が止まります。次回は8/1を予定してます。

しばらくお待ち下さい。

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