第五話 決意
「ユウヤさん!」
「ユウヤ!」
「「そこに正座!!」」
「あ、あのさ……」
アルタミール領主邸の優弥の部屋では、怒り眉のソフィアとポーラが仁王立ちで正座した彼を見下ろしていた。
「ミリーさんとイザベルさんを助けに行ったことはこの際
「そこは私もソフィアに賛成。だけど、どうして私たちに黙ってアスレア帝国に行ったの!?」
「何か後ろ暗いところでもあったんですか!?」
「いや、言うと反対されるかと思ったんだよ」
「私たちがそんなに薄情だと思われているとは思いませんでした」
「悲しいわよ、ユウヤ。ミリーとイザベルだって身内なんでしょ? だったら見捨てろなんて言うわけないじゃない」
「ま、まあ、向こうの出方も分からなかったし、心配をかけたくなかったと言うか……」
「私たちは夫婦なんですよ。なのに夫の心配もさせて頂けないんですか?」
「ねえ、ユウヤ。ソフィアのお腹には貴方の子がいるの。この子のパパは貴方なのよ。その自覚はある?」
「もちろんだよ!」
ソフィアの懐妊が判明したのはつい先日のことだった。体調が優れない彼女を気遣った魔王が、自国から魔法医を連れてきて判ったのである。ちなみに魔王は暇さえあれば遊びに来るようになっていた。
「それで、話って何だったんですか?」
「ああ、それを二人に相談したかったんだ」
彼は皇帝から国王にならないかと言われていることを、掻い摘まんで説明した。
「こ、国王ですか!?」
「ユウヤが!?」
「うん。今は暫定でアスレア帝国の第一皇子が取り仕切っているんだが、俺が了承すればすぐにでも城を明け渡す予定らしい」
「ユウヤはどうしたいわけ?」
「正直なところ迷ってる。面倒だからと断ってもいいんだけど、あの国の人たちは俺を慕ってくれているようだからさ」
「ユウヤのことだから、どうせ引き受けたってここやハセミ領みたいにほとんど人任せにしちゃうんじゃないの?」
「確かにそうなるかも……」
「ユウヤさんは大きなことはちゃんと決めるのに、後はほったらかしですもんね」
「人聞きの悪いことを言わないでくれよ、ソフィア。俺は適材適所をモットーにしてるから、それぞれ得意な人に仕事を振ってるだけじゃないか」
「うふふ、そういうことにしておきますね」
「ユウヤが国王様かあ。そうなったら私とソフィアは王妃様になるのよね」
「当然だな」
「私、貴族様の立ち居振る舞い方なんて分からないし、まして王族って普通の貴族とはちょっと違うんでしょ?」
「俺に聞かれても知らん」
「私も分かりませんから、もしユウヤさんが国王様になってもこのお邸にいようと思います」
「あ、それいいわね。私もそうするわ」
「後宮が他国領にあるって……てか二人とも反対じゃないんだ」
「ユウヤさんが決めることですから」
「そうね、ユウヤがしたいようにすればいいと思うわよ」
「分かった。少し考えてみるよ。ところでさあ」
「「なあに?」」
「正座っていつまでしてなきゃいけないの?」
「「あっ……」」
二人が部屋に戻ってから、改めて国王を引き受けるかどうかを考えてみる。
まず自分が王族になることについてだが、そんなもの日本にいた頃にラノベやアニメで聞きかじった程度の知識しかない。普段何をすればいいのか全く想像がつかないのである。
諸々の行事も然り。年末年始の王国祭だの建国祭だの、分かりやすいものはまだいい。しかしテレビでたまに見かけたりした夜会などは、どんなタイミングで何を行えばいいのかさっぱりなのである。
アスレア帝国の皇帝ジョセフは彼の政治手腕を買っているような口ぶりだったが、これまでは単に二つの領地を統治していたに過ぎない。しかもそれだって仕事のほとんどを領主代行に押しつけていたほどである。
そんなアルタミール領やハセミ領統治の延長で良いなら、政治のことは宰相や大臣に丸っと投げてしまえばいい。ウォーレンもバートランドも、どうしても彼の裁量が必要なこと以外は勝手に進めてくれているからだ。
税についても領主であれば税率を決めて、領民から収税し国に納めるだけで済む。しかし国王ともなればそうはいかない。領地によって収入に格差があるはずだし、現金か作物等かで納税方法も異なってくるだろう。それらを適切に管理しなければならないのだ。
さらに軍関係も同様である。敵が現れても自分が出張れば早く片づくが、国王ともなれば前線に赴くわけにはいかないだろう。
これらを踏まえると、およそ自分には国王など務まらないように思えた。だが、ふと大帝国皇帝のトバイアスや魔法国の魔王ティベリアの顔を思い浮かべてみる。
(分からないことは聞きゃいいんじゃないか?)
そして彼は決意する。
(日本ではただのサラリーマンだった俺が国王とか、笑っちまうよな)
ただ、夜考えたことは冷静な判断が欠けている可能性があるため、一晩眠ってから改めて決意を確認し朝食へ。
優弥のただならぬ雰囲気を感じてか、エビィリンまでもが黙々と食事を済ませた。そんな彼女を抱き上げるとソフィアとポーラ、ウォーレン、家令のモーゼスを執務室に集める。
「ソフィアとポーラには昨日の延長になるが、俺はモノトリス王国の国王になることを決めた」
「そうなんですね」
「いいと思うわ」
「閣下が陛下になられるのですか」
「お館様がお治めになる国の民は幸せ者ですね」
「パパぁ、おうさまになるの?」
「そうだよ、エビィリン。パパが王様になったら、エビィリンはお姫様になるんだぞ。今でも十分にお姫様だけどな」
「おひめさまぁ? わーい、おひめさまだぁ!」
「あははは。そうそう、ソフィア」
「はい?」
「ソフィアはアスレア帝国に住んでたんだよな?」
「はい。そうです」
「まさか本当は皇族だったなんてことは?」
「なんですか? 薮から棒に」
彼はアスレア帝国の皇妃がソフィアに似ていたことを思い出したのだ。もっともこれまで彼女を見てきた中で、本来の身分を隠しているような素振りは微塵もなかった。
「そんなことあるわけないじゃないですか」
「そうだよな。悪い、忘れてくれ」
シンディーとニコラ、ビアンカには妻たちが伝えておいてくれるとのことだったので、彼はそのまますぐにアスレア帝国城ノルディックに向かう。
ほとんど待たされることなく皇帝ジョセフと皇妃マルティーナが謁見に応じ、国王を引き受けることを告げると大変に喜んでいた。
「ではぜひ一度、鉱山ロード殿の奥方にも会わせてくれ」
「二人とも元は平民だから作法なんて知らないぞ」
「構わんよ」
「彼女たちは俺と違って何の力もないから、前みたいに兵士が敵意を向けたら容赦しないがいいのか?」
「ふむ。その折には無粋な兵は下がらせておこう」
「分かった。ただソフィアは身重だから、医者と相談して日程を決めさせてくれ」
「ソフィア……珍しいこともあるものです」
「マルティーナさん、この国ではソフィアって名前は珍しいのか?」
「いえ、そうではありません。今から十五年以上も前になりますが、市井の民と恋に堕ち、子をなしてしまったせいで家を追われた従妹がおりまして」
「はあ」
「無事に子を産んだことを知らせるために一度だけ文をくれたのですが、その子にソフィアと名付けたとあったものですから」
それはあり得ないとの結論に至っていた、ソフィアが皇族の血を引いているという可能性が
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