第四話 新たなゲート
「すまんがもう一度言ってくれ」
「貴殿を利用させてほしいと言ったのだが、聞こえなかったか?」
皇帝の話はこうだ。最近属領の領主が、かつての王権を取り戻そうとしている節があるとのこと。つまりは求心力が低下しているというのだ。
そのため実情は異なるが、数々の称号を持っている優弥を国王に据えた上で属国に加えることにより、求心力を取り戻そうというのが狙いらしい。
レイブンクロー大帝国でもそんなことがあったばかりなので面倒この上ない話だし、何よりも利用されることを嫌う彼だ。一瞬これで帰ろうと思ったのだが、それほど悪感情を感じていないことに気づき、改めて皇帝の顔を見る。
(あっけらかんとしやがって)
「少し考えさせてくれ」
「おお! では検討の余地があるということだな?」
「一応条件を確認しておく。表面上はどうあれ、完全自治を認めるんだな?」
「むろんだ」
「税も納めなくていいんだな?」
「そう申したはずだ」
「旧モノトリス王国の貴族たちの扱いは?」
「国王ミシュラン・グランダール・モノトリスは謀反を起こした者たちに討たれた。城にいた他の法衣貴族は一部を除いて捕らえられ、王族と共に地下牢に幽閉されておると聞いている」
「ソイツらはいらんから、全員国外追放だな」
一人だけ召喚された時に同情してくれた者はいたが、助けられていない以上は何の恩義もない。
「ではそのように取り計らっておこう」
「待て待て、今のは俺が国王になるならって話だぞ」
「構わんよ。鉱山ロード殿がいらぬ人材というなら、我が帝国にとっても同じことだ」
「使用人はどうするんだ?」
「貴殿が国王を引き受けるならその後に決めればよい。ひとまずは雇用を続け、城や後宮の維持に務めさせる」
「帝国から人材補充はしないのか? 辞める者もいるだろう?」
「その辺りは現状の確認後だな」
「
「貴殿が統治するというならそれはせん。ただし目録は提出してほしい」
「先に作っておけばいいだろ」
「そうだな。承知した」
「俺が治めている領地にはそれぞれ魔法国と大帝国から領主代行を寄越してもらっている。いくらでも人材を貸すとは言ってたが、一つの領地ではなく国を治めろというなら、宰相職が務まる者と大臣が務まる者が最低二人は必要だぞ」
「大臣は最低三人は必要ではないか? 政務、軍務、財務などだ。他にも……」
「俺が言ったのは最低限ってことだが軍務大臣は必要ない。王国ともなれば軍隊は必要だろうが、他国から攻め込んできた兵力が千が万でも、俺一人いれば殲滅出来る。くだらない挑発は国を潰す口実にしてやるだけだ」
「恐ろしいな」
「ま、俺には他国を侵略しようなんて気はないから、友好な態度でくればこちらもそう返すさ」
「うむ。やはり鉱山ロード殿にあの国を治めてほしい。要望は可能な限り叶えよう」
「妻たちと相談してから決めるよ。返事はまた国境に行けばいいか?」
「貴殿がよければアルタミールに転送ゲートを設置させるがどうだ?」
「その方が早いか。じゃ頼む」
「ランドン、聞いた通りだ」
「承知致しました、陛下」
「皇子がゲートを開いたのか」
「はい。ではロッティ殿たちと合流して早速向かいましょう」
「今ならドラゴンの骨が見られるぞ」
「なんと!?」
冬になる前に片付ける予定だったのだが、思いの外見物客が途切れなかったため、雪が積もった今でも公開を続けていたのである。
「待て、ドラゴンの骨だと!?」
「陛下、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いてなどいられるか! 鉱山ロード殿、余も同行させてくれ!」
「あなた! 今日はこの後会議でびっしりですよ」
「うう……そうであった」
「まだしばらくは展示しておくから、そのうち時間が出来たら見に来ればいいさ。ただし、お忍びが条件だぞ」
「むろん、心得ておる。絶対だぞ! 絶対だからな!」
「分かった、分かった」
(何だか憎めないオッサンだな)
謁見の間を出た後ロッティたち三人と合流し、一行はまず旧モノトリス王国の借家に向かう。皇子の護衛として加わったのは、ゲートの定員の関係上一人だけだった。
二回に分ければ済む話ではあるが、わざわざ大勢を引き連れていく必要はないと皇子自身が判断したのである。
「こちらは?」
「王国にいた頃に住んでいた借家だ。今はアルタミール領で営業しているので閉まってるが、この近くに宿屋があってな。妻の一人、ソフィアがそこで働いていたんだ」
「思い出の場所なんですね?」
「そうだな。今となっては色々と懐かしいよ」
そこから転送ゲートでアルタミール領主邸に飛び、皇子は見物客に紛れながらドラゴンの骨を見て感動していた。
ちなみに優弥は顔バレすると面倒なので、展示場には皇子と護衛の二人で行かせたのである。そこから戻ってくると、彼に対して終始無愛想だった護衛の兵士が興奮した様子だったのには驚かされた。
「よい物をみせて頂きました!」
「首のところはちゃんと見たか?」
「はい! 竜殺しなんて嘘だろうと思ってました。失礼致しました!」
「ランドン皇子はどうだった?」
「これほど巨大とは思いませんでした。どのようにして魔法国から運んでこられたのかは疑問ですが」
「普通に船で、とは思わないのか?」
「ハセミ様にはその普通が通用しないと思っておりますので」
「何だそりゃ」
「ところであの壁には何の意味があるのですか?」
「ああ、あれはな……」
どうするか彼は考えたが、この際だからと魚人族について説明した。
「そのような種族が!?」
「北の海に住んでるから、こっちじゃ海沿いにいても出会うことはないだろう。さすがに領民に会わせるわけにはいかないので、今は週に一度のペースで深夜になってからメシを食いに来てる」
「食事を、ですか?」
「彼らは人族の食い物が大好物でな。特にバーベキューには目がないんだよ」
「聞いております。何でも一度味わったら忘れられないほどの魔性の食べ物なのだとか」
「ミリーとイザベルは何を喋ったんだか」
その二人はすでに邸に入り、これまでの経緯をウォーレンに報告中である。
「魚人族に会うことは叶いませんでしょうか」
「今日は食事の日ではないからな」
「そうですか……」
「それに悪いが彼らは見世物ではない。逆の立場になったと考えたら気分はよくないだろう?」
「仰る通りですね。失礼致しました」
その後は当初の目的だった転送ゲートの設置を終えて、皇子と護衛は帰っていった。
今は帝国との関係が希薄であるため、ソフィアたちに会わせるつもりはない。だから邸に招き入れなかったし、最低限の接待すらしなかったのである。
もっともそれは皇子も了承済みで、むしろドラゴンの骨を見られたことに感謝すらしていた。
(国王か……どうするかなあ……)
邸に入ると、ホールでメイドたちと戯れていたエビィリンが、彼に気づいて嬉しそうに走ってくる。
「パパぁ!」
それを受け止めて抱き上げると、彼はすっかり父親の顔になっていた。
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