第十章 王国新生
第一話 面会要求
結婚式が終わって約半年、十二月に入った頃にロッティが戻ってきた。
「ご苦労だった」
「お館様、アスレア帝国がモノトリス王国に対して宣戦布告致しました」
「そうか……」
「アスレア帝国は総勢五千の軍勢で王都グランダールに進軍。ただし無抵抗の民を傷つけることはなく、略奪も行われておりません」
「ほう、なかなか紳士的じゃないか」
「お陰で戦死した軍人の家以外の民は帝国軍に好意的で、王城はあっさりと包囲されてしまいました」
「なるほどな。すると陥落も時間の問題ってとこか」
民の被害が少ないなら、いっそのことバカ国王など滅びてしまえとさえ優弥は思っていた。アスレア帝国が聞いた通りの紳士的な国だとすれば、どう考えてもそちらに治められた方が民も幸せに違いないからだ。
「はい。加えて王都閉鎖の弊害で各領に状況が伝わりにくくなっており、援軍も間に合いそうにありません」
「愚かな国王だ」
「王国は同盟国だった魔法国アルタミラに援軍を頼んだようですが」
「一方的に破棄しておいて今さらかよ」
モノトリス王国はレイブンクロー大帝国の脅威がなくなってしばらくすると、あろうことか魔法国との同盟を破棄してしまったのである。ところが王城に設置されていた転送ゲートがそのままだったため、それを勝手に使って援軍要請したらしい。
「魔王陛下は激怒されて一切取り合わず、使者を追い返して転送ゲートも撤去なされたようです」
「あの魔王が激怒するとは、よほど腹に据えかねたんだろうな」
「お館様、実はよくない報せがございます」
「うん?」
「ミリーとイザベルが捕らえられました」
「何だと!?」
「申し訳ありません。私のミスです」
ロッティによると以前捕らえたルテイン公国から来ていた間諜が、アスレア帝国の命を受けていたと分かったそうだ。それを知らされた二人が帝国に向かい、捕らえられてしまったらしい。
「二人の安否は?」
「無事です」
「何故そう言い切れる?」
「あちらがお館様との面会を求めているからです」
「ん? つまり二人を返す代わりに俺に会えと言ってるってことか?」
「はい。申し訳ありません。このままお見捨てになられても、決して二人がお館様を恨むことはございませんし、自害をお命じになられるなら……」
「ロッティ、俺が前に言ったことを忘れたのか!?」
「覚えております。もちろんミリーとイザベルもです。ですから二人は命を繋ぐため、お館様が鉱山ロードであると漏らしました」
「待て。そう言えば前に、例の間諜が鉱山ロードについて嗅ぎ回っていたと聞いた気がするんだが」
「申し上げました」
「するとあちらさんはお前たちを送り込んだ俺ではなく、鉱山ロードとしての俺に会いたいってことなのか?」
「言われてみれば、その可能性もございますね」
面白い、と彼は思った。相手が鉱山ロードについてどの程度知っているかは分からないが、その正体は敵対する者には一切容赦しない彼だ。もし奴らがさらに二人を訊問していたとするなら、怒りに任せて夜盗を殲滅したことも知られているだろう。
その上でなお、配下のミリーとイザベルの引き渡しを面会の交換条件にするというなら、それは彼に対する明確な挑戦とも受け取れる。紳士的と思われていたアスレア帝国に対する彼の印象が地に落ちた瞬間だった。
「あちらとの連絡は取れるのか?」
「はい。国境警備隊の一人が連絡係となっており、私の顔も覚えられております」
「なら話が早い。時間と場所を指定しろと伝えろ」
「お館様、まさかミリーとイザベルを救うためにお会いになられるのですか!?」
「当然だ。約束したんだからな」
「危険です! 私の『甘言』スキルも通じなかった相手なのです!」
「俺にも通じなかっただろ」
「それはそうですが……」
以前試しにスキルを使って物を
「いいか、これも伝えるんだ。面会場所にはミリーとイザベルを連れてくるようにと」
「かしこまりました」
「もし連れてこなかったり二人に少しでも拷問した形跡が見られれば、その瞬間から鉱山ロードは敵となり必ず皇帝なり帝王なりに責任を取らせるともな。それはロッティ、お前が一週間以内に戻らない場合も同様だ」
「お館様……そ、その責任とは……?」
「命に決まってるだろ」
彼女はすぐにモノトリス王国とアスレア帝国の国境に向けて旅立っていった。そして四日後、モノトリス王国の敗戦の報せを持って無事に戻ってきたのである。
「もう負けたのか。ずい分と早かったな」
「王国軍と騎士団の一部が謀反を起こしたようです」
「とうとうバカ国王は自分の臣下にも裏切られたってわけか」
「間諜に掻き回されて、ろくに対策もしていなかったようですから落ちるべくして落ちたのだと思います」
「トニーとチェスターは無事だろうか」
「あの二人の騎士ですね。確認が必要でしょうか」
「いや、今はいい。彼らならきっと無事だろう」
「私もそう思います」
「それで、面会の日時は?」
「お館様の都合でいつでも構わないそうです」
「ん? それはロッティをもう一往復させて時間稼ぎをしようってことではないだろうな」
「いえ、違います。あちらにも転送ゲートがあって、私がお館様をお連れ次第、帝国城に向かうとのことでした。それと、二人は拷問などせずに丁重に扱っているので心配はいらないそうです」
「そうか。それなら早いとこ迎えに行ってやろうじゃないか」
転送ゲートは魔王ティベリアの専売特許ではなかったということである。
すぐに彼はウォーレンを呼び、モノトリス王国の敗戦とアスレア帝国からの面会要求に応じてくることを伝えた。理由を言うとソフィアたちが知ったら心配するので、適当に儲け話だと言って誤魔化したのだが。
「閣下、くれぐれもお気をつけて。お帰りの際は奥方様たちからの叱責を覚悟されておかれた方がよいでしょう」
どうやらウォーレンには通用しなかったようだ。
ともあれ彼は一刻も早くミリーとイザベルを取り戻すために、ロッティと共にアスレア帝国に向けて旅立つのだった。
――あとがき――
本日は夜(時間未定)にも一話更新します。
お時間ありましたら読みにきて下さい(^o^)
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