第十一話 ロッティの秘密
「トニーとチェスターじゃないか!」
転送ゲートから借家の前に出た優弥は、警備員と話している懐かしい二人に再会した。過去にエバンズ商会が彼を相手に訴訟を起こした一件で、非常に協力的だった若い騎士たちである。
「お久しぶりです、ユウヤ様」
「久しぶり。あれ、でも二人は暴動を鎮めに行かなくていいのか?」
「そうなんですけど、ユウヤ様が危ないと思ったのでこちらに来たんです」
「鉱山ロード様に何かあれば王国の大損失となりますから」
「ありがとう。俺なら大丈夫だよ」
「よろしければ騎士団の本部に避難されませんか?」
「いや、それは申し訳ないからいいよ」
「そうですか」
「それより二人に話したいことがあるんだ。明日の今頃でいいからもう一度来られるかな」
「ユウヤ様のお誘いでしたらいつでも伺いますよ」
「じゃ、また明日だな」
「はい。どうか暴徒にはお気をつけて」
二人を見送ってからロッティが呟く。
「よい二人ですね」
「色々と世話になったからな」
「剣の腕も相当なもののようです。まだ成熟しきってはおりませんが」
「え?」
「そう言えばお話ししておりませんでしたね。私は人物鑑定のスキルを持っているのです」
「人物鑑定スキル!?」
言われてロッティのステータスを確認してみたが、そんなスキルはどこにも表示されていない。だが、彼女がクスッと笑った瞬間、彼がスキルスペースと呼んでいる部分に確かに『人物鑑定』の文字が浮かび上がったのである。
さらにそこには『隠蔽』と『甘言』というものまであった。
「失礼致しました。私は普段、隠蔽スキルで自分のスタツスを隠しているのです」
「そ、そうなのか」
「お館様も隠されているようですが、スタツスの魔法をお使いになられますよね?」
「ん? いや、俺は別に……」
(隠してるわけじゃなくて、どうして見えるのかは俺にも分からないんだよね)
「行き過ぎたことを申しました。お館様が明かされないことはお聞きするべきではございませんでした」
「いや、そうじゃなくて……何故俺がスタツスを使えると思ったんだ?」
「私が人物鑑定スキルを持っていると申し上げましたすぐ後に、少し怪訝な表情を浮かべられましたので」
(ロッティってめちゃくちゃ鋭いな)
「ですがHPなどの数字を隠されていなかったお陰で、私はお館様にお仕えする気になれました」
「うん? どういうことだ?」
「失礼を承知で申し上げるなら、お館様は人ではございませんよね……」
「面と向かって人外認定かよ」
「あの、お館様?」
「どうした?」
「その、以前に拝見した時よりずい分とお強くなられているようなのですが……」
ロッティと初めて対面したのは海竜を倒す前だったから、その時からだと四倍の値になっているということである。
そこで彼女に海竜討伐を果たしてレベルが上がったことを話すと、ようやく【海王】の称号にも気づいたようだった。ただ、他にも特殊なスキルがあるにも拘わらずツッコんでこないのは、それが不敬だと思っているからに違いない。
「お館様」
「うん?」
「私は絶対にお館様には逆らいませんので、どうか殺さないで下さい」
「大丈夫。敵対しない限りはお前も俺の身内だから」
心底ほっとした顔で微笑む彼女は、どう見ても殺人さえ厭わない密偵とは思えなかった。
余談だが、ロッティが次々と有能な配下を増やせるのは、おそらく『人物鑑定』の他に『甘言』スキルを使っているからなのだろうと彼は考えた。そうでなければいくら『人物鑑定』で相手の有能さが分かっても、易々と配下に加えたりは出来ないはずだ。
その後二人は彼女の配下、アリエッタという名の幻覚魔法使いと合流してからヴアラモ孤児院に向かった。途中何度か建物を無差別に破壊する暴徒に出会ったが、アリエッタの幻覚魔法のお陰で気づかれずに済んだ。
それは孤児院の敷地に不法滞在している者たちも同様で、旅芸人一家マロウテル親子を孤児院に連れ込むことにも無事成功した。なお、優弥が不法滞在者たちを排除しなかったのは、孤児院や旅芸人一家が住む小屋には立ち入らなかったからである。
「もはや王都で暮らしていくことは不可能だろう」
「あの、本当に私たちも助けて頂けるのですか?」
「向こうは言わば豪雪地域だ。特に今は冬だから、人の往き来があるところでも常に膝まで埋まるほどの雪が積もっている」
「……」
「まあ、雪が溶けるまでは衣食住の心配はしなくていい。何なら新しくオープンする宿屋で働く道もある」
「宿屋、ですか?」
「そうだ。ロレール亭は知ってるか?」
「はい。泊まったことはありませんが、ランチはよく利用しておりました」
「そこの主人と女将、それに料理人を避難させたんだよ。向こうで開業準備中だ」
「ええ!?」
「今は人材を募っているところだが、手伝うというなら口を利いておくぞ」
「是非! 是非お願い致します!」
他に今後の説明を終えてから、彼はずっと纏わりついている子供たち一人一人の頭を撫でた。
「お前たちも怖かったよな。でももう大丈夫だぞ。向こうでエビィリンも待ってるからな」
「「「「エビィリン!」」」」
「ユウヤ様、本当にありがとうございます!」
「荷物はこれで全部か?」
「はい。持っていきたい物をまとめておくようにとのことでしたが、こんなに大丈夫でしょうか」
「問題ない。ただちょっと魔法を使うので、一度この部屋から出ていてもらえるかな? すまないが見られたくないんだ」
「か、かしこまりました」
孤児院と旅芸人一家の荷物は、合わせると二十畳部屋の半分近くを占めている。それを瞬時に無限クローゼットに収め、優弥は再び彼らを呼び戻した。大量の荷物が跡形もなく消えてしまった部屋を見て、全員がしばらく絶句して固まっていたのは言うまでもないだろう。
建物を出た一行は、アリエッタの幻覚魔法のお陰で不法滞在者や暴徒に見つかることもなく、無事に借家に到着した。
「これから転送ゲートでアルタミールという領地に行く」
「アルタミール領……? 聞いたことがありません」
「こことは別の大陸にある魔法国の領地だからな。そこでは俺はユウヤ・アルタミール・ハセミという名の領主であり、魔王陛下から伯爵位を賜っている」
「ユウヤ様が……伯爵様!?」
「とは言え俺は俺だ。今まで通りの接し方でかまわんよ、マチルダ」
借家の玄関前にある転送ゲートで一度に運べるのは六人までなので、まずは優弥がシスターと四人の子供たちを運ぶ。屋敷の入り口ではソフィアら五人とエビィリン、それに事情を知って世話役を買って出た使用人たちが出迎えてくれた。
彼らにシスターと子供たちを任せて再び転送ゲートで戻ると、旅芸人一家がほっとした表情を見せた。彼らを運んだ後、翌日トニーとチェスターと会ったらしばらくここに戻ってくることはない。だから警備員も魔法国へと帰ることになっていた。
「長らくご苦労だったな」
「いえ。ありがとうございました」
「間もなく迎えが来るはずだ。魔王に会ったらよろしく、と伝えておいてくれ」
「なーにがよろしくじゃ。たまにはユウヤも遊びに来んか」
「ま、魔王!?」
「
「あ、ああ。分かった」
「それじゃの」
魔王が警備員を連れてゲートに消えると、突然の幼女(見た目)の登場に絶句していた一家に優弥が声をかける。
「心配しなくても大丈夫だ。さあ、行こう」
こうしてひとまず彼の懸念は解消されたのだった。
――あとがき――
分かりにくいと思いますので補足です。
スタツスとはこの世界で、いわゆるステータスを表示させる魔法やスキルの名前のことです。
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