第五話 ドレスは絶対必要
エイバディーンの有力者たちとの会談があった二週間後、優弥とソフィアたち五人は再びアルタミールの領主邸を訪れていた。前週はヴアラモ孤児院に行ったりと、何かと忙しくて来られなかったのだ。
その日は午前中から街を散策したいとのことで、転送ゲートを
(まあ、護衛に衛兵も付けたから大丈夫だろ。それにシンディーとニコラもいる。物騒なことは起こらないだろうし、起こっても対処は問題ないはずだ)
「ウォーレン、街の様子に変わりはあったか?」
「いえ、多少騒ぎにはなったようですが普段と変わらないと申しますか、幾分活気が出ているように思われます」
「やっぱりリベラ商会が消えたことが理由かな」
「はい。ひとまずのいくつかの商会の会頭に合同で取りまとめ役を任せましたところ、うまくやってくれているようです」
「ならソイツらにそのまま商会を起ち上げさせるというのはどうだ? アルタミール合同商会、我ながらいい考えだと思うぞ?」
「閣下は面倒なことを全て丸投げされようとなされますね」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。俺には商売の知識なんかほとんどないから、プロに任せようとしてるだけだよ」
「そういうことにしておきましょう」
「そうだ、竜の鱗を合同商会のシンボルにするってのはどうだ? もしソイツらが引き受けてくれるなら、一枚ずつくれてやっても構わん」
「なるほど。それなら断らないでしょう」
「だろ? そう言って話を詰めておいてくれ」
「かしこまりました。それはそうとお耳に入れなければならないことが二つ」
「なんだよその前置き。そういう時は十中八九いいことではないんだよな」
「仰る通りで」
「身も蓋もないな。で、何なんだ?」
まず一つ目が領境を接する二つの領地のうち、北に位置するロジャーズ伯爵からの面会の申し入れだった。新たにこの地に赴任した優弥と親睦を深めるために、会いたいということらしい。
実はこの伯爵、領境の西側にあるブルックス子爵とはあまり仲がよいとは言えないそうだ。わずかな期間でよく調べたものだと感心したら、エイバディーンの住民なら誰でも知っている有名な話とのことだった。
「で、俺と仲良くなってブルックス子爵とやらの鼻を明かしたいとか?」
「平たく言えばそういうことでしょう」
「却下だ、却下! そんなのにいちいち付き合ってられるか!」
「ですが断ったことを知ったら、次はブルックス子爵が面会を求めてくるかも知れません」
「そっちも来たら追い返してくれ」
「かしこまりました」
「で、もう一つの方は?」
「レイブンクロー皇帝陛下がお会いになりたいと」
「は? 今度は皇帝かよ。城まで来いってか?」
「いえ、その……陛下がこちらに来られるとのことです」
よくよく聞いてみると、万が一にも誤解などがあって優弥を怒らせてしまった場合に、城が壊されると困るというのがその理由とのことだった。
「軍事工場が破壊されたのがよほど効いたのでしょう」
「ああ、流れ弾に当たったってヤツね」
「あそこは元々至近距離で何発大砲を撃ち込まれてもビクともしない設計だったそうです。それが一瞬で壊滅されたのですから、皇帝陛下でなくとも怯えるのは無理からぬことかと」
「不可抗力だぞ、あれは」
「存じております」
「で、何しに来るって?」
「使者の話ではリベラ商会の件での礼と、今後の付き合いについて確認されたいとのことでした」
「面倒臭え、ウォーレン頼むわ」
「私の身分と立場をお考え下さい。とても私などが口を利いていいお方ではありません」
「それを言うなら俺だってモノトリスに帰ればただの平民だっての」
「ですがここでは伯爵のご身分であらせられます」
「魔王も余計なことしてくれたよなあ」
優弥が了承すれば、すぐにでも帝都エセクターを出発するとのことだった。
なお、その際は百人規模の護衛と多くの馬車が領内に入ることになるので、そっちの許可も出しておかなければならないそうだ。
「来週かぁ。礼なんかいらないし、妙なちょっかいさえ出さなければ何もしないって伝えて終わりにならないかな?」
「それでは皇帝陛下のメンツが潰れてしまいます」
「そんなのどうだっていいだろう」
「いえ、よくはありません。それこそ余計に面倒なことになりかねませんよ」
「仕方ない、分かったよ。しかしモノトリスに戻って厄介事に巻き込まれると、こっちに来られなくなるかも知れないからマズいよな」
「おそらく最低三日はかけてこられますからね。空振りはよろしくありません」
「それなら来週までこっちにいることにするか」
「よろしいので?」
「ソフィアたちも夜はこっちで過ごせばいいだろ。俺はとりあえずゆっくりと自分の領地を見回ってみることにするよ」
ということを戻ってきた彼女たちに話すと、仕事を休むわけにはいかないが、転送ゲートがあるので終わったらこちらに来るとの意見で一致した。
鉱夫の仕事をサボりまくっている彼は笑われたりしたが。
「それで、街の様子はどう感じた?」
「最初に行った時より活気があったと思うわ」
「ポーラもそう思ったか」
「税を安くしたんですよね。お店の数も増えていたように思います」
これまで諸々引っくるめた税が六割だったと聞き、さすがにそれではちょっとした贅沢も出来ないだろうと、ひとまず暫定だが四割に引き下げる通達を出したのだ。
今後の収支次第ではあるが最低でも一年はそれで通し、支出が多ければ再考することにした。しかしウォーレンの話では、前領主だったヘンダーソン家が私腹を肥やしていただけなので、税を引き下げても財政が逼迫することはないだろうとのことだった。
「もちろん、閣下が同じように私腹を肥やそうとされるなら別ですが」
「金には困ってないからそんな必要はないさ。皇帝からせしめたドラゴンの鱗代もあるしな」
「ユウヤ、こっちでしばらく過ごすなら、やっぱり服なんかは揃えておいた方がよくない?」
「ポーラよ、
「なんですかユウヤさん、そのしゃべり方。まるで王様みたいです」
「いやあ、一応ここでは俺は王様みたいなモンでしょ」
「それはそうかも知れませんけど」
「ユウヤ王、大っきなダイヤの指輪買ってぇ」
「もう、ポーラさんまで。あと、私も服には困ってませんよ」
「「「私たちもです」」」
「だめよソフィア。あっちでは平民だけどユウヤは王様は冗談だとしても、こっちでは伯爵様で領主様なんだからそれに見合った格好をしてないと」
ポーラの言うことも一理ある。少なくとも婚約者であるソフィアとポーラには、
シンディーとニコラにしても、ソフィアの護衛ならば品格を求められるだろうし、友人であるビアンカも同様である。たかが見た目、されど見た目ということだ。
「明日は日曜日だったな。たまには皆で買い物に行こうか」
「やったー!」
「ユウヤさん、本当にいいんですか?」
「俺の服もいるし、見物がてら街を見て回ろう」
翌日の行動が決まった優弥たちはその後、料理長ニコラスの料理に舌鼓を打ち温泉で体を温め、皆が眠りに就いたのは日付が変わる少し前の時刻だった。
――あとがき――
本日日曜日は18:20前後か19:20前後にもう一話更新します。
よろしくお願いします(^o^)
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