第六話 ロイコック集落へ
結局あの後ドラゴンに遭遇することはなく、予告通り優弥は夕飯前に帰宅した。ティベリアもこちらに残りたがったが、城から兵士が迎えにきたので帰ってもらったというところだ。
「魔法国はけっこう小さな村にも転送ゲートがあって、ドラゴンが出たらすぐに何人かは避難出来るんだってさ」
「それでも全員は無理なんですよね」
「うん。ゲートの維持に必要なMPの問題もあるし、大きくしてドラゴンが飛び込んだら目も当てられないからね」
「ね、魔法国ってどんな感じだったの?」
「うーん、俺が招かれたのは城だけだからあまりよく分からないかな」
「だったらさ、次の週末連れてってよ」
「あっ! それなら私も行ってみたいです!」
「ドラゴン討伐が終わってたらね」
もし二人を連れていった時にドラゴンが現れたら危険極まりない。だが討伐後なら問題ないだろう。
魔法国に旅行するならゲートを使わずに旅の風情を味わいたい、などと思っていた矢先の要望だ。一瞬どうしようかとも考えたが、海外旅行なんて日本にいた時も彼には経験がなかった。新婚旅行さえ国内だったからだ。
(二人がそれでいいならいっか)
知らない土地に行けば色々と楽しめることもあるだろう。観光スポットはティベリアにでも聞けばいい。もちろん泊まるのは城ではなく旅先の宿だ。美味い物があればそれも食いたい。
ところがそんな風に考えていたにも拘わらず、その週はついぞドラゴンは現れなかった。もっとも頻繁に現れていては魔法国もたまったものではないだろうが。
そして迎えた土曜日。
「狩りをせぬか?」
朝、優弥宅を訪れたティベリアが開口一番そう言い放った。扉をバーンと開けて挨拶もなしにである。朝食を終えて、三人でソフィアが淹れてくれた茶をのんびり啜っていたところにだ。
「な、なんだ、魔王か。驚かせるなよ」
「ユウヤ、狩りに行こう!」
「狩り?」
「エルマリー村から少し離れたところにロイコックという集落があってな。人口は三十人ほどなんじゃが、住民がラプレスに襲われたんじゃ」
「ラプレス?」
(そもそもエルマリー村ってどこだよ)
「我が国があるエシュランド島にのみ棲息する鳥の魔物じゃ。今回確認されたのは体長十メートルを超えておってな、奴には魔法が効かん」
それだけの巨体が空を飛ぶために魔法が使われているとのこと。また、その肉は美味で魔力を帯びているため腐りにくいらしい。
「魔法が効かないんじゃ、確かに魔法国の住民は分が悪いか。しかしドラゴンといいそのラプレスとかといい、魔法国の魔物は魔法が効かないのが多いな」
「効く魔物は余裕で倒せるからの」
「ああ、なるほど」
「奴の首は剣で落とせるが、届かなければどうしようもないのじゃよ」
「捕食のために首を下げたところを狙えるんじゃないのか?」
「あのクソ鳥は狡猾でな。獲物は鋭い爪で引っ掛けて飛び去り、どこか安全な場所に行ってしまうんじゃ」
「そうなんだ」
また人口三十人の集落とは言っても中には戦力外の子供もいるため、彼らを護りながらの戦闘はかなりの無理を強いられるとのことだった。実際子供を庇った男性が一人、犠牲になってしまったらしい。
「ソフィア、ポーラ」
「「はい?」」
「鶏肉、食いたいかー!」
「バーベキューしたいでーす!」
「バーベキュー! 私も賛成!」
「バーベキューとはあれか! 外で騒ぎながら食べるあれか!」
「魔王も知ってるのか?」
「城で馳走になった。美味じゃったな。勇者殿が泣いて喜んでおったが、元の世界の物と同じだと聞いたぞ」
「俺が工房に頼んで作ってもらったんだよ。それが広まったみたいだな」
「なんと!」
「セットが欲しいならやるぞ。ただし絶対に外でやれ。寒いとか雨とかでも室内でやったら死ぬ」
「そ、それほどに恐ろしいものなのか!?」
「外でやれば問題ないさ」
「うむ、分かった」
「よし、なら報酬はそのラプレスとかいう魔物の肉でいいや。量はそうだな……日持ちするみたいだから五キロくらいもらおうか」
「ん? 全部でなくて構わんのか?」
「死人も出てるんだろ。残りは集落で分けるなり売るなりしてくれればいいさ」
「そうか、恩に着る」
「ああそれと、魔王は狩りを楽しみたいように見えるが、俺と一緒だと面白味はないと思うぞ」
なにせ追尾投擲スキルで一発必中である。視界から外しさえしなければ、追いつめたりする必要もない。
「実害が出ておるのじゃ。ああは言ったが、さすがに狩りを楽しむ気にはなれんて」
「じゃ、早速行くとするか」
「ユウヤさん、がんばって下さい!」
「ユウヤ、お土産期待してるわよ」
「任せとけ!」
そうして彼はティベリアと共に魔法国に渡り、さらに転移ゲートを使ってエルマリー村に飛ぶ。ロイコック集落へはそこから徒歩とのことだった。
なお、魔王の護衛として近衛騎士二十名と弓兵五名が同行している。彼らは優弥を警戒していたが、親しげに接する魔王を見て、粗相があってはならないということだけは理解したようだ。
「一時間ほどで着くじゃろ」
「もう少しまともな道はないのかよ」
「まあ、そう言うな。集落の者は週に一度はこの道を通って村に行き来しておるのじゃから」
彼がぼやいたのも無理はない。一行が進むのは木々が生い茂る森の中の獣道だったからである。そこを三十人以上の団体がほぼ縦列で歩かなければならず、護衛が役目を果たしているとは言えない状況だった。
もっとも魔王は物理攻撃も魔法攻撃も自力で防げるようだし、優弥も
(あれ、コイツらいらなくね?)
そんなことを考えていたが、集落に着くまでの間に弓兵が何頭かのサーベルウルフを狩ったと聞いて、丸っきり役立たずというわけでもなかったと思い直した。
そうして一行は無事にロイコックに辿り着いたのである。
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