3話目:帰ってきてしまった日常
「ただいま〜」
普通なら幸せなカップルの時間が始まるこの挨拶もうちは違う。
「翔太!遅い!フツー彼女が動けないって言ってんだからもっと急がない?」
「走ってくるとか!遅くなって申し訳ありませんでしたとか、そういう一言とかプレゼントとか!なにもないワケ?」
「あと財務分、稼いできたの?社長さんの家なんでしょ?ボランティアとか甘いこと言ってないで!お金くらい持ってきなさいよ!」
よくまあ労いの言葉より我欲が出るもんだ。
あれだけ説明してお金はサラリーマンとしてしか稼がないと言って
それでも良いよと言ってくれたというのに・・・。
「何に不満があるんだよ。今買い物も行ってくるから食べながら待っ・・・」
「アタシの話、聞いてくんないの?ご近所さんにも支部長にももっと財務してるすばらしい人もいるし、何言われても自分が悪いと振り返ってすぐに謝る人もたくさんいる。これが常識人ってものなのにアンタときたらさ。」
「ホント、あの爺さんと一緒で常識知らず。アタシがいなかったらアンタは野垂れ死になのよ?」
「お前、先生まで悪く・・・」
「とにかく翔太!アタシテレビから目が離せないから早く買い物済ませて家事してよね!」
流れているのは明日香が信仰している宗教のDVD。
いつも思うがこの金欲にまみれた爺様をよくまあ尊敬できるものだ。
神様とやらも聞いて呆れてる。はずだ。
そんな事を考えていると明日香は
「ほら、早く行ってきて!」
と俺に財布とマイバックを投げつけてきた。
言葉を遮られることにも麻痺して慣れを感じてきた今日このごろ
放り出されるように追い返された俺は沈みかけた日光が皮膚をジリジリと焼いていく中、買い物リストとお金を見比べる。
渡された?財布の中には一万円とA5メモにびっしりの食べ物の数々。
到底二人で食べる量ではない。あるいは冬眠でもするのだろうか?まだ夏なのに。
自慢ではないが俺も大食いな方だ。肉体労働者だし。
しかし明日香はそれ以上に食べる。
食いっぷりが良いといえば聞こえは良いが実際はバランスを考えずただ好きなもの(主に高カロリー系)ばかりをむしゃむしゃ食べる。
病気にもなるさそりゃ・・・。
「・・・これじゃなんのために生きてるんだろう・・・。」
(考えても無駄だ。諦めろ。こう生きるのがまだ幸せだ。)
・・・頭に響くその声をかき消せない。そりゃそうか。
俺の声であって俺の声ではないその声に対してため息を付きながら近所の大型スーパーへ行く。
自転車は明日香の要求に答えられるだけのカゴの大きさをしておらず、それこそ行きは良い良い帰りは怖い。になりかねない。
要は足手まといになるのだ。本来は便利な文明の利器なのに・・・。
はぁ・・・。とため息をつきながら足は確実にスーパーへ。
都内某所にあるこのスーパーは常に人でごった返している。
コロナ禍だというのに三密だとかソーシャルディスタンスはどこへやらと言わんばかりの人の山。
こういう所にお祓い師はあまり近寄りたくない。
理由はいくつかあるが、感情が周りの負の感情に持っていかれやすく、万一変なものを連れ歩いている人とすれ違ったとき、押し付けられてしまうからだ。
・・・同棲直後の明日香は一緒に来てくれたり代わってくれたのにな・・・。
いつからだろう。なぜなのだろう。明日香からお互いに気遣うという感情がなくなってしまったのは。
買い物を済ませると街はすっかり夜の様相になっていた。
あれだけ混んでいればそうもなるか・・・。
時計は19時を指していた。
「イベントまであと2時間・・・。」
効率よく家事をこなすための逆算をしつつ10kgはあるだろう荷物を持って500mほどの距離を歩く。
いくら肉体労働者といえど、しんどいものはしんどい。
「ただいま〜」
・・・今度は返事がない。奥の部屋から何やら聞こえる。
念仏だ。宗教の儀式的なもので慣れたとはいえ、やはり不気味なことこの上ない。
俺はさっさと家事を済ませ21時から始まるイベントに心躍らせながら狸寝入りを決め込むのだった。
僕が恋した人はツインレイ @tuki-roxas
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