幼なじみの女勇者になぜか追放を言い渡されたんだが【読み切り版】
加藤ゆたか
幼なじみの女勇者になぜか追放を言い渡されたんだが
「アラン! あんたを追放する!!」
「なっ、なんで!?」
俺の目の前で女勇者エクレアは高らかに宣言した。
聞き間違いではない。アランは俺の名だ。
俺は我が耳を疑った。心当たりがまったく無かったからだ。
っていうか、俺とエクレアは同じ村出身の幼なじみ。幼くして勇者のジョブに目覚めたエクレアと共に育った俺は、勇者として人並み外れた身体能力を持ったエクレアに振り回されながらも、将来は勇者を支える騎士になるのが夢だった。
だからエクレアの旅立ちの仲間に選んでもらえた時は嬉しかったし、旅立ちからここまでずっとエクレアの力になれるようにどんな努力も惜しまず頑張ってきたつもりだ。
たしかに、ここ数回の魔王軍との戦いでは足手まといになってしまっていたかもしれない……。俺のジョブも結局騎士にはなれず、戦士どまりだ。でもだからって、追放なんてあんまりだ!
冒険者が追放される意味、それは冒険者としての死を意味していた。そりゃそうだろう。仲間から追放されるような奴を、仲間に迎え入れたい冒険者はいない。
勇者エクレアの俺を見る目は冷たい。これがあの幼なじみのエクレアの目だとはとても信じられない。エクレアの横には旅の仲間たち、僧侶シフォン、魔法使いココア、剣士マドレーヌが立ち並び、同じように俺を睨み付けていた。
いや、シフォンだけは俺と目が合うなり、頬を赤らめて目を逸らす。
「昨夜、あんたが何をしたか!? 胸に手を当ててよく思いだしなさい!」
エクレアが俺の胸のあたりを指で突き刺すようにして言った。
昨夜だって?
昨日は魔王軍直属の将軍マカダミアとの戦闘があった。俺は戦士としてみんなの盾になるべく前衛に立ったが、将軍マカダミアの激しい攻撃に堪えきれず深手を負ってしまった。結局、マカダミアは勇者エクレアと剣士マドレーヌの攻撃、魔法使いココアの魔法によって倒された。
俺は絶命寸前のところで、僧侶シフォンの回復魔法に救われた。
シフォンは町の宿屋に着いてからも、ずっと俺の横について回復魔法をかけ続けてくれたのだ。
もう少しで死ぬところだった……。俺はシフォンの前で情けないことに、おいおいと泣いてしまった。それは役に立てなかった自分自身のふがいなさもあったし、死の恐怖にかられてしまったショックからでもあった。
男が泣くなんて情けないよな? こぼすように俺がシフォンにそう聞くと、シフォンは首を横に振って俺を抱きしめた。
まるで聖母みたいだった。シフォンは白に近い黄色い髪、長い睫毛、美しく青い瞳で優しく俺を見つめてくれる。俺は再びシフォンの胸の中で泣いた。僧侶の服では隠せないシフォンの豊満な体が俺を優しく包み込む。俺はシフォンが赦してくれるのをいいことに、その胸に顔をうずめた。
さわさわと手を動かすと、シフォンは少し身をひねったが、特に逃げなかったので俺はシフォンの服の下に手を入れた。まるで聖母のようだ。俺はシフォンの服を脱がした。
シフォンは、ダメです、ダメですとか小さな声で言ってはいたが、強く抵抗してこなかったので、そのまま最後までやったのである。
これが昨夜の出来事だ。
「まったく心当たりがない。」
「嘘つけ、アラン! シフォン! 言ってやれ!」
「あ、あの……アランさん。昨日はつい流されてそうなってしまいましたが、やっぱり婚前交渉は良くないと。」
「そんな……、てっきり俺は……。」
シフォンも俺のすべてを受け入れてくれたと思ったのに。
一夜の過ち? そんなことで追放されたら堪らない。
いや、待てよ? 今、婚前交渉と言ったか? それならもしや……。
「俺が悪かった、シフォン! 俺と結婚してくれ!」
「え!?」
「結婚!?」
「そうだ、俺はシフォンのことを愛してしまったんだ。その美しい瞳に、その美しい心に、俺は惹かれてしまったんだ。だから、ついシフォンの優しさに甘えてしまった。確かに俺は取り返しのつかない罪を犯した。償えるとも思わない。でも、これだけは信じてくれ。俺はシフォンを愛してる。だから、もしもシフォンが赦してくれるなら。どうか俺と結婚してほしい。」
俺はシフォンの前に跪いて懺悔した。生き残るにはシフォンに赦してもらう以外にない。
しかし、すぐさまエクレアが俺とシフォンの間に立ち、言い放った。
「そんなの通るわけないだろ! お前はシフォンを汚したんだ! 死をもって償え!」
死をもってって……。追放だけではなくて俺はここで殺されるのか!?
エクレアが勇者の聖剣に手をかける。
しかし、それを制したのはシフォンだった。
「待ってください、勇者様。ごめんなさい。アランさんの気持ちも確かめずに私、勇者様に昨夜のこと相談してしまったんです。なにせ、初めてのことだったのでどうしたらいいのかわからなくて。でも、わかりました。」
シフォンが俺の手をとり、真っ赤な顔で俺の目を見つめて言った。
「アランさん、結婚しましょう。」
「お、おう……。」
やった。ひとまずこれで俺の首が繋がった……。さらにはこんな美女との結婚まで手に入れたのか……?
「な、何を言ってるの!?」
エクレアが信じられないという顔で俺とシフォンを見ていた。その口元はわなわなと怒りで震えている。
「あー、エクレア。そういうわけなんで、俺はシフォンと結婚するから。昨夜のことは問題ないよな? 夫婦のことだから。」
「そんなこと言ったって、つ、追放……いや、結婚……でも……。」
眉間に皺を寄せて何か俺を断罪する方法を見つけようと考え込んでいる勇者エクレアと、俺の腕を組んで幸せそうに微笑む僧侶シフォン。
その膠着状態を破るように、魔法使いココアが口を開いた。
「それじゃアラン……。あの洞窟でのことは?」
「え? 洞窟?」
俺たちは一斉にココアの方を見た。
ココアはもじもじとしながら俺の方をチラチラと見ている。
「洞窟って?」
「竜退治の時の……。」
「あー……。」
あれは半年前のこと。
俺たちは魔王軍との戦いの前に、伝説の聖剣を手に入れるため、竜の住む洞窟に足を踏みいれたのだった。しかし、当時の俺たちはまだレベルも低く大苦戦した上、パーティは離ればなれになってしまった。
俺とココアは落とし穴で一緒に下の階まで落ちてしまい、エクレアたちの救助を待つしかなかった。
松明も消え暗闇の中、凍える二人。いつ来るかもわからない救助。心許ないココアの火の魔法が二人を照らす。自然と寄り添ってお互いの体温にすがった。ココアのつやつやと美しい黒い髪、切れるように艶やかな瞳、ささやかな胸元にも、小さな光は陰影をつける。俺たちはお互いの不安をかき消すかのように求め合った。
ココアとはあの一回だけである。きっと特殊な状況下に置かれたことで、正常な判断を失っていたのだと思う。実際、ココアにはあの後、お互い無かったことにしようと言われたはずだ。
それなのだが……。
「私、忘れてなかったよ。ずっと待ってたの、アランのこと。いつか冒険が終わった時はって思ってたの。だって、アランは私の初めての……。」
「そ、そうだったのか。俺はてっきり……。」
瞳を潤ませたココアが、シフォンとは反対側の俺の腕を掴んだ。
それを見たエクレアが叫ぶ。
「アァラァン! やっぱりこれは追放ねぇ!! いや、違った、死刑ねぇ!! シフォンだけでなく、ココアともなんて!」
エクレアが勇者の聖剣を鞘から引き抜く。
ああ、くそぉ! シフォンとは結婚で乗り切ったが、ココアのことはどうやっても言い逃れる方法が思いつかない! 今度こそ、万事休すか!?
「ちょっと待て!」
その時、剣士マドレーヌが沈黙を破った。
「それなら私はどうなる?」
「……どうって?」
俺たちはマドレーヌの言葉の意味を図りかねた。
マドレーヌは真剣な顔で続けて言った。
「私はアランと週二で床を共にしていた。言っておくがアランのせいではないぞ。私の性欲が強すぎてな。ハハハ、いわゆるセフレという奴だ。」
「セフレ!?」
マドレーヌはその長い髪をさっと掻き上げて言う。そうだ。マドレーヌの鎧の下には程良く鍛え上げられた弾力のある胸、引き締まった足、俺はマドレーヌの体の全てを知っている。意外と弱いところを責められると可愛い声を出すことも知っている。
最初、夜中にマドレーヌが俺の部屋にこっそり入ってきた時は驚いたが、理由を聞いてみて俺はマドレーヌに協力することにした。剣士としての強さと引き換えに、抑えきれなくなり暴走してしまう性欲。定期的に発散しなければいつか恐ろしいことになるという。しかし、このパーティには男は俺だけだった。ならば、俺が相手をするしかない。もちろん俺の方も毎度同じでは飽きるので趣を変えたり、マドレーヌには人に言えないようなことをさせたりして楽しんでいたわけだが。
「そういうことで私はアランの方につく。今更アランを手放すことはできない体になってしまった。」
「な、な、なっ、なんで!?」
気がつくと、追放されるはずだった俺の側には、僧侶シフォン、魔法使いココア、剣士マドレーヌがついていた。
女勇者エクレアは剣を落とし、その場に崩れ落ちた。
「なんで……なんでなの?」
ぽろぽろとエクレアが涙を地面に落としている。
「……アランは私が最初に好きになったんだもん。村で一緒にいた時から、ずっと好きだったんだもん。勇者の旅にだって、アランと一緒じゃなきゃいかないって言って連れ出したの。魔王との戦いも辛かったけど、アランと一緒だったから乗り越えられたのに……。それなのに……、アランは、シフォンともココアともマドレーヌとも関係を持っていたっていうの!? そんなのって無いよ!!」
「……エクレア。」
そうだったのか、エクレア。エクレアの気持ちに気付いてやれなかった俺は、心が締め付けられるように痛んだ。そう、俺だってエクレアと一緒に育って、エクレアを目標にして生きていたんだ。俺だってエクレア無しの人生なんて考えられない。
思えば、だからこそ追放されるなんてどうしても受け入れられなかった。いつもエクレアの横には俺が立っていたかったんだ。
勇者という殻を脱ぎ捨て本音を打ち明けて、ただの一人の少女になったエクレアに、シフォンが手をおいて声をかけた。
「勇者様……いいえ、エクレア。主は、重婚を認めてらっしゃいます。」
「……え?」
勇者パーティのために用意された宿の最高級の部屋。四人が並んで寝てもまだ余っている特大のベッドの上で、下着姿のシフォン、ココア、マドレーヌが手招きをする。
ベッドの真ん中には、やはり下着姿の勇者エクレア。
俺は恥じらうように体を隠そうとするエクレアの手を優しく取って、その体に指を沿わせた。
「あっ、アラン! 私、初めてだから、……優しくしてね?」
「ああ。キレイだよ、エクレア。」
周りで俺とエクレアのやり取りをニヤニヤと見ていた他の三人が手を伸ばしてきて、そっとエクレアの下着を脱がせた。
幼なじみの女勇者になぜか追放を言い渡されたんだが【読み切り版】 加藤ゆたか @yutaka_kato
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