最終話 これからの出来事

「さて、どうしようか?」


 そこには、ぐちゃぐちゃに破壊された現代ダンジョン部がある。

 秋津衆による襲撃。戦いの跡。魔神が浮上した時の穴。そして落下した時の衝撃。

 そして、しゃがみこんだ魔神がそこに鎮座されている。


「どうしようなの☆」

「……まあ、そこらへんはこいつらが何とかしてくれるだろう」


 汀良田が親指を刺した方向には、ぐるぐるに縄で巻かれた秋津衆らの5人がいる。


「無茶言うなよ」

「は? 都武ごちゃごちゃいうんじゃねえ。お前が直すんだよ。責任取ってな」

「まあ、あたしたちも手伝うから……」

「それが、是なれば……」

「全く……大変なことになったね」

「どうして他人事なんですかねえ」


「それだけじゃないぞ」


 汀良田先輩が腕組みをして言う。


「ここの修繕はもちろん、クリスタル化した全員の復帰費用、超電磁カタパルトの稼働費用……全部払ってもらうぞ」


 そんな彼らに、管埜が紙を渡す。


「はい請求書よ」

「……こんなに」

「許してもらえるだけ寛大だと思え」


 はぁ、と鋼がため息をつく。


「あんだけ大暴れしておいてさ、金と人働きで許すってのは筋が通ってないんじゃないか?」

「そうだぞ! おれなんてクリスタル化して後の方の事情全然知れてないのに!」

「それはやられた方が悪いのよ?」

「マリア先輩!? なんでそんな血の気の荒い方に……」


 汀良田先輩が、サングラスをかちりとあげる。


「そうもいかんだろ。ここの事は知られちゃならないんだからこのまま放免して言いふらされるわけにもいかないし……結局は許すしかないんだよ」

「ここにとどめておくなら契約魔法で縛れるしね」

「そんなものまであるんでやがりますか」


「そーれと、あとやってもらうことがあるだろ」


 俺は歩き、都武に指を突きつける。


「なんかほら、秋津衆とやらに俺たちの事を報告しないようにも契約しないとな」

「……ああ、わかっている。あの魔神とやらはここに封印しておくのが合理的だ」


 都武が、眼鏡を光らせる。


「その口癖。戻ってきたな」

「ああ、ツキが落ちたよ」

「まあ、あんなの報告したら魔法世界も大騒ぎになるでしょうしね」


 聖さんが話に入ってくる。


「聖さんも、魔法協会とやらのスパイじゃなかったか?」

「ええ。でも放置する方針は前々から変わってないわ。報告だけで済ませるわよ。それで手は出さないはずよ」

「それはよかった」


 ふう、と息を吐く。


「さて、これで全部片付いたか」

「あの、ちょっと一つやってもらいたいことが……」


 板野が、口を出す。

 と、その時。


「織、わが妹よおおおおお……」


 先生が、地面から這い出てくる。


「あ、結局放置するだけして何もできなかった人だ」

「事態の悪化を招いたのは先生のせいですしね……処す? 処す?」


「あの……先生、こちら魔神の中で見つけたんですが……」


 板野が、先生にノートを渡す。

 そこには、綿鍋織と書かれている。


「これは……織、おりいいいいい!!!」


 中身をぴらぴらとめくり出す。すぐもしないうちに、はらはらと涙を流し始める。


「ううう、織、織……」

「ああ、ノートが濡れ……」


 すすり泣く声だけが、そこに響いていた。


 ***


「……ふう、落ち着いた」

「先生……みっともない姿でしたが」

「そんなことはどうでもいい……大事なのは、織が今も生きているってことだ」


 やれ、と腰を下ろす先生。


「くそっ織の奴め俺に顔も見せずに……だが、生きているとわかったのならいい。どんな手を使ってでも探して見せる。それだけだ」

「まあ、落ち着いたならいいです」


「あの、それでみなさん頼みたいことがあるんですが……」


 板野がいう。なんだろうか。


 ***


 墓場。

 魔神から運び込まれた棺が、地面の中へと埋まっていく。


「えっほ、えっほ」

「ふう力作業ね」


 神舞先輩が巨大な腕を使って、穴を掘っている。


「……それ、大丈夫なんでやがりますか?」

「ちょっと痛くて苦しいだけよ。このくらいできるわ」

「なんか見た目が……」


 俺と板野も、それを手伝う。


「やれ、最後にこんな作業が残っているとは。しかしどうしてこんなことを?」

「きっと、魔神は私に、皆さんにこれをやってもらいたかったんだと思います。これを弔うようにって……」

「……まあ、魔神の頼みなら断れないな。この現代ダンジョン部の守り神様だし」

「下手に手を出したらまた暴れられるかもしれないからな」


 汀良田先輩は働く皆の姿を見ながら椅子に座っている。


「それにしてもなあ、なんで魔神とやらは板野を出口に誘導しながら外に出ようとしたんだろうな。板野に逃げ出されたら飛べないっていうのに」

「魔神は二つの意志で動いていた」


 先輩は言う。


「一つは、魔力を貯め、外へ出ること。もう一つは……適合者の意志に沿うことだ」

「前者は、魔神の意志、後者はこの石の意志って感じだと思うでやがりますよ」

「矛盾しつつも、矛盾してないって言うことですか。……なんかそのせいで救われた気もするけど納得しねえなあ」

「まあ、神のすることだ。納得いかなくてもそう思うしかない」


「それにしても、なんで私が適合したんでやがりますかねえ」

「織さんって人も適合してたようだが、先生はそうじゃなかったッぽいしな。血縁でもなさそうだし……」

「それこそ魔神のみぞ知るってな。まあ偶然ってことでいいだろ」

「そんな適当な……」


 しばらく。掘り続けて、埋めて、運んで……それを繰り返してようやく埋葬が終わる。


「終わりましたねえ」

「これで、全部解決か」

「どうか、古代の人たちが召されますように……」


 と、その時だった。

 ごごご、ごごごと地面が揺れだす。


「!? いったい何が……」

「見て、あれ、魔神が!」


 うずくまっていた魔神が立ちだす。

 そうして、上を向いたかと思うと、天井に向かって光を放ち始めた。


「なっまず――」


 と、思いかけたその時。


 光は天井で分裂して現代ダンジョン部に降り注いでいく。

 建物に当たった瞬間、その光は建物を元の姿に戻していく。

 地面に空いた穴を埋めていく。

 そうしてまもなく、現代ダンジョン部は元の姿を取り戻した。


「……」

「ええ……」


 その、神の御業に、皆呆然とするしかなかった。


「……もう、わかんねえな」

「また、動き出さないだろうなあれ?」

「さあ?」


 もはや、神のすることは訳が分からない。

 そういうものだといえば終わりだが。


 ***

 

 しばらく、呆然として元の姿に戻った現代ダンジョン部を眺めていた。

 その時、先生が言う。


「……そうだ板野、お前の体は大丈夫なのか?」

「え?」

「長くいた織が成長しない体になったっていうし、しばらくいたお前ももしかして……」

「え、えええ……! 不安です……」


 と、その時だった。


 板野のおなかからぐーと腹の音が鳴ったのは。


「……」

「あら、恥ずかしい」

「……よし、飯でも食いに行こうか。先生のおごりで」

「焼肉行きましょう焼肉」

「おまえらなあ勝手に決めやがってなあ……まあ、俺も責任を取らんとならんしな。そのくらいはしてやろう」

「やったー」

「全員分ですよ全員。22人分」

「ったくお前なあ……食べ放題な」

「わーい」


 最後にふと後ろを見る。そこには大きくそびえる魔神の姿がある。

 あれが、現代ダンジョン部の守り神。その名もピリオド。

 今回大騒動を巻き起こしてくれた奴だが……これから、どんなことをしでかすのやら、わからない。

 だが、きっと俺たちを守ってくれると信じたい。ずっとこのダンジョンに魔力を供給してくれた、神様なのだから。


「井荻くーん早く早くー」

「はいよー」


 そうして、俺たちは現実へ、現代へ戻っていく。

 このファンタジーあふれるダンジョンから、現代へと――


 ......See You The Next Time.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代ダンジョン部の魔導鎧使い~最強の鎧を拾った俺、幼馴染とパーティ組んで冒険者になりダンジョン探索無双しながらレベル上げ~ 秋津幻 @sorudo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ