第34話 最終準備フェーズ
それから一時間ほどが経つと、一年Fクラスの控え室に一人の大人が入って来る。
「そろそろ準備してください」
大人にそう言われ、俺たちは部屋を出て、長い廊下をその人に付いて歩いて行く。
案内されないと絶対に迷う奴が出てきそうな長くて曲がり角の多い廊下を抜けると、目の前に上りのスロープが現れる。スロープの先からは眩しい光が差し込んできていて、その先に何があるのか目視では確認できない。
止まることなくスロープを登ると、その先には四月に見たものとよく似た廃墟街が広がっていた。
「では、こちらを受け取り、奥にいる別の職員の元へ」
長机の上に置かれたケースを指して大人はそう言う。
ケースの中身は障害物競走で使うゴーグル型の機械。ちょうど一人一つ分の八個がそのケースに入っていた。
一つずつ手に取ると、八人揃ってその奥にいた別の大人の方に向かう。
そこにはちょうど八人の大人がいて、一人につき一人担当となっているようだった。
俺は担当の人に案内され、一番端のフィールドに案内された。
見た感じだと、直径約2kmのフィールドが八面並んでいて、同時進行で競技が行われているらしい。
「ここだけの話ですが、一つ注意点を」
「何ですか」
確か、今回は学校外のミッションでは俺のいた施設の関連組織から人が派遣されていたはず。つまり、こいつは俺がMurdererであり、そのブラックリストであることも知っているはずだ。『ここだけの話』ということは、その上での注意点なのだろうか。
「今回は正攻法で、学校のルール通りにお願いします。前回は特例措置なので」
「わかってます。正攻法じゃなきゃ姉さんたちは三分台なんかじゃないですよ」
「それならいいのですが」
そう言ったところで、その人が持っていたトランシーバーから誰かの声が聞こえる。
俺から少し離れ、そのトランシーバーを通して誰かと話をすると、その人はまた俺に近寄って来る。
「準備ができたようなので、恒例の説明をさせていただきます。規則なので」
「ど、どうぞ」
必要は無いが、規則ならしょうがない。
「この塀を超えた先にはモンスターが現れます。そのモンスターを選択した武器で倒してください。武器は入る際に選んでもらいます。全てのモンスターを倒すと視界に『clear』と表示され、出口までの案内が開始されます。円滑な競技進行のため、できるだけ速やかにフィールドを出ていただけると幸いです。モンスターの数は申し上げられませんが、仕様として、モンスターから攻撃を受けたり、モンスターに触れたりすると脳に信号が送られて実際に触っているような感覚を感じます。驚かないために、覚えておいてください」
そういえば、設定上ではモンスターはAR空間上に現れるだけだったか。
正しく認識しやすくするためだけではなく、実際にいるという恐怖を払拭するためにもこのゴーグルが必要なのか。
ちなみに、このゴーグルには脳に信号を送るだなんて高度な技術は詰まっていない。
「以上です。何か質問はありますか」
全て知っているので質問などない。そもそも、わからないことがあっても大抵のことは対応できるようになった。
「大丈夫です」
「それでは、武器選択フェーズに入ります」
そして俺は塀を超える門のところにある建物の中に案内された。
その建物の中には、さっきゴーグルを取った長机と同じ机がいくつか置かれていて、その上にはスポーツテストの時よりも種類のある物騒な武器たちが置かれていた。
「自由に選んでください。一応、安全性は確認されていますので、ご心配なく」
安全性の心配などはしていないが、これも規則なのだろう。
俺はツッコミのような疑問を自己完結させ、武器を眺める。
銃がハンドガン、ライフル、ショットガン、マシンガンの四種類。剣が片手剣、両手剣、レイピアの三種類。その他、斧、ポールウェポン、弓矢、クローなど。
走る前提なのに、ただの一般人がどうやって持ち運ぶのかと思うような武器もあるが……
とりあえず、ここは無難にハンドガンを選ぶことにしよう。
俺は弾の入っていないハンドガンを手に取った。
弾の代わりに入っているのは特殊な燃料のようなものだ。詳しい中身は知らないが、普通の人なら何が入っているかも知らないだろう。
「結構普通なんだ……」
ぼそっとその人が呟いたことを俺は聞き逃さなかった。
悪かったな、普通で。と心の中で言いながら、聞かなかったことにして流しておくが。
「それでは、最終準備を始めてください」
向こうも言っていないことにしたのか、聞かれていないと思ったのか、すぐに次に進んでいく。
俺は指示通りにゴーグルを装着し、ハンドガンの誤射防止装置を外した。
「よろしいですか?」
「……はい」
俺は息をふっと吐き、そう答えた。
「それでは、スタートします」
その人がそう言うと、部屋の奥にある、フィールドへと続く扉の上にあった掲示板に三つの球体が表示される。
そして、一秒ごとに球体が一つずつ減っていき、全ての球体が無くなった時、奥の扉が音を立てて勢いよく開いた。
俺はそれと同時に床を蹴り、フィールドの中に入った。
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