第35話 俺にそんなものは通用しない。
フィールドに飛び出すと、まず周囲を見回し、アイツらの特殊な気配を探す。普通ならフィールドをくまなく走り回るのだが、俺たちはこれができるからあれだけのタイムが出せる。それだけではないが、大きな要因の一つだろう。
そして判明した場所は、人工的に作り出されていることもあって均等に分かれていた。おそらく、攻撃を開始すればそれに寄って来るのだが、一か所にいてくれればよかったのに……と心のどこかで思ってしまう。まあ、そんな都合のいいことなんてないが。
俺はタイムも気にしながら、一番近くに感じた気配の元へ向かう。
廃墟なこともあって、今にも崩れそうな灰色の無機質で大きいビルが立ち並び、道にはそこから崩れ落ちたであろう大きな瓦礫たちが多く転がっていた。
その中であの時と同じゾンビのようなモンスターが俺を待ち受けていた。
俺の足音に気付き、後ろを向いていたモンスターは振り返って俺のことを睨んだ。
普通なら恐怖で動揺してしまうだろうが、俺は足を止めることなく突っ込んでいき、モンスターが向かってきたところで引き金を引いた。
放たれた銃弾は真っ直ぐモンスターを貫き、モンスターはすぐに消え去って行った。
この銃弾が放つ波動によってモンスターがかなり寄って来るだろうが、それを待っている間に一番近いモンスターまで走る。俺にはそれだけの速さがある。
数百メートルを十数秒で駆け抜け、少し遅いくらいの速度で移動してきていたモンスターと正面から鉢合わせる。
俺は躊躇なく引き金を引き、モンスターは一瞬で消滅した。
その後すぐに来た方向を振り返り、少しずつモンスターが集まってきているのを確認し、同じ道を引き返した。
そして、その道中の脇道から勢いよくモンスターたちが飛び出し、俺はそこに確実に銃弾を命中させていった。
「ふぅ……」
残りの気配はあと一体。一番遠くにいた奴だ。
だが、モンスターたちの移動速度はかなり速いので、もうすぐそこに来ているはずだ。
――後ろだ。
バレないとでも思ってわざわざ後ろに回り込んだみたいだったが、俺にそんなものは通用しない。
手を伸ばせば届く距離まで来ていたモンスターに銃口を突きつけ、俺は引き金を引いた。
ハンドガンの銃口が完全に届く前に銃弾が放たれたため暴発はせず、しかも超近距離での攻撃だったため、その威力や衝撃によって突風が起こった。
そして、それとほぼ同時に、視界に『clear』の文字が表示され、その後タイムが表示された。
「三分二十秒……」
目標通りのちょうどいいタイムだった。
おそらく、これで姉さんと兄さんの間くらいの順位にはなるだろう。本当なら兄さんと同タイムにするべきだが……自分で動かせるわけでもない奴らを相手にそんな高度なことはできない。ただ走るだけ、とかならできるんだが。
俺はそんなことを考えながら、視界に表示された案内通りにフィールドを出た。
武器を机の上に置きながら入口と同じ門を抜け、ゴーグルを外した。
視界が今までの薄暗い色から本来の色に戻り、なんだか日差しが眩しかった。
「お疲れ様です」
「あ……どうも」
さっきと同じ人が出口の門の外にいた。だが急なことで、そんな無愛想な返答しかできなかった。
「結構速いんですね。さすがです」
「まあ……」
どこまで知っているのか、他に誰が聞いているのかもわからず、それ以外に反応のしようがなかった。
「ゴーグル、回収します」
向こうもそれがわかっているようで、あっさり自分の仕事に戻った。
俺はゴーグルをその人に渡し、控え室に戻った。
今日は少し調子が悪かったのかもしれない、と誰もいない控え室で一人考える。
よく振り返ってみると、本当なら三分台なんてもっと余裕でできたはず。今でもかなり余裕はあったが、なんというか、余力を残してできたはずだと思ってしまう。
もしかして、黒の廻火の前兆か……?
いや、周期的にあり得ない。
俺の今の周期は約五か月。四月に来たのは驚きだったが、その前の周期だとしてもそれは七月のはずだから、四月がイレギュラーだとしても今来るなんておかしい。もう周期など関係ないと言うにしても、中一か月はさすがに無いと思いたい。
もし本当に周期がおかしくなったのなら、俺は冬まで生きられるのだろうか……と不安になってしまう。黒の廻火は、寿命を表すものだと言われている。高一で周期五か月も相当マズいらしいが……
やっぱり自分の寿命など考えたくない。そうなると、考えられる可能性は……
「……白か」
白の廻火。黒の廻火の下位互換と言われるものだが、現れるのは初期と末期(終期)に入る時だと言われている。
初期の場合は、白が段々黒に変わっていく。末期の場合は、黒の間に訪れる前兆とも言われるものだ。
症状としては、体調は悪くならない。影響が出ても少し。でも、Murderer特有の普通ではない身体能力などに制限が発生する。確か、そんなところだったはず。
黒だとしても、白だとしても、悪い方向に向かって行っているのは確かだ。
「マズいな……」
「何が?」
「え?」
いつの間にか、後ろに浦田がいた。
まさか、この俺が、後ろに来た誰かに気付かないなんてこと、あるのか……?
やっぱり、白の廻火が来たのか。
もし本当にそうなら、俺の寿命は平均であと四〜五年。年齢で言えば二十歳と言ったところか。まあ、Murdererで過去最高と呼ばれた上でそこまで生きられれば上等か。
「おーい、聞いてるー?」
「え? あ、ごめん」
「やっぱり、何か思い詰めてることでもあるんじゃないの?」
「大丈夫だから。本当に」
わざわざ突っかかって来るな。もう、段々ウザくなってきた。まだあんまり浦田のことは知らないが、そんな状況でも嫌いになりそうだ。
「……そっか」
そんな寂しそうに言われても困る。
「そっちも終わったのか」
「うん。結構速いと思ったんだけどなぁ……早見くんの方が速かったとは」
「お前も十分だと思うが」
「褒めてくれるんだ」
「別に褒めてなんかない」
謙遜に似た何かだ。少なくとも、褒めるような気持ちは少しもない。
「それにしても、早見くん二位なんてすごいね。しかも、
確かに独占はしたな。
そういえば、世間的に一年ごとに子供を産むというのはあり得るのだろうか。しかも、何年も続けて。そうじゃなかったら、俺たち早見家はかなりマズい。それに、少しでも誕生日に矛盾が生じたら……一応矛盾は無いが、なんだかんだ疑われそうだな……
そもそも、他の家にそんな疑問は持たないか。
◇ ◇ ◇
そして、約一時間半が経ち、やっと全員の競技が終わった。
さすがに、俺たち早見家の間に入るような化け物はおらず、姉さんが総合一位、俺が二位、兄さんが三位という結果で終わった。
それぞれ、学年では一位を確保し、ボーナスも稼いで、それなりにいい結果だったと思う。
ちなみに、兄さんから下の入賞ボーナス圏内には、三年生しかいなかった。
「化け物……だな」
誰かが順位を見てそう呟く。おそらく、それは俺に向けられた言葉だ。
俺は化け物と呼ばれても、なんとも思わない。
別に、コイツらにとってそれはプラスに働くことだと思う。少なくとも他のクラスにいるよりはマシだ。
俺自身、化け物と呼ばれることには慣れているし、施設にいた時からそう言われていたのだから、一般社会の中の一人になれば、もっとそう思われてしまうだろう。そんなこと、この学校に入る時からわかっていた。だからもう、今更傷ついたりはしない。
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