第29話 騙された

「二人とも、どうした?」


 俺はあのカフェに七条と市川を呼び出たのだが、そのカフェに向かうと、二人はカフェの前で立ち尽くしていた。


「早見くん……」

「ん?」



 そして俺は、何があったのかを聞いた。二人もよくわからないようだったが、まあいいだろう。他のクラスの揉め事には手を出さないことが一番だ。



「それで、何か話があるって、何?」


 市川がそう聞いたちょうどその時、タイミングを見計らっていたかのように雷が落ちる光と音が発生した。


「ひゃっ!」


 七条はそう声を上げたが、市川は全く動じていなかった。


「で、何?」

「いや……雷も降って来たし、また今度にする」

「もしかして、雷怖いの……?」

「んなわけ。雨も強くなるだろうしって。わざわざ呼び出しておいてって感じなんだけど」

「そっか。わかった。じゃあ帰ろ」


 俺と市川の会話に、七条は少し安心した様子だった。



  ◇  ◇  ◇



 桃山たちは、誰もいない校舎に入り、自分たちの教室で集まっていた。


 早速ついさっき奪い取った赤いリボンの縫い目を解くと、中から小さなSDカードが出てくる。


「それ、どうしたの?」


 桃山にそう聞いたのは、Fクラスの内通者である女子生徒だった。


「新たな協力者ができた。そいつから貰った情報」

「えっ……?」

「お前より詳しい情報が得られる。お前より優秀だ」


 内通者は信じていた桃山にそう言われ、一気に裏切られた気分になる。


「っ……もういい」


 そして内通者は、悔しがりながらEクラスの教室を後にした。


 そんな内通者を特に気にすることも無く、桃山はそのSDカードをパソコンの中に入れる。


 SDカードのデータを確認し、桃山は中にあった一つのファイルを開いた。


「な……」


 桃山は、そのファイルの中身に唖然とした。


 ファイルの中には、以前黒塗り状態で貰ったFクラスの情報が黒塗りが外された状態で保存されていた。


 だが、現れた欄は『内通者』以外は空白で、新たに得られた情報なんて全くなかった。


「意味わからねぇ……」

「どうしたの?」

「見てみろ」


 天風がパソコンの中を覗き込む。


「え……?」


 その後他の二人も同じようにパソコンを覗き込み、やはり同じ反応をする。


「裏切られた……?」

「いや、騙された……?」

「ハメられたのか……?」


 天風、松原、北山がそれぞれそう言う。


「真相はわからない。とにかく、事情を聞いてみる」


 桃山はそう言って、急いでI-Iに連絡を取る。


『どうして、あんなものを?

 こんなことして、俺たちを弄んで楽しいか?

 ただでは済まないぞ』


『まだ何もわからない相手に、簡単に情報を渡すわけないじゃないですか』


『じゃあ、無事奪ったってことは、ちゃんとしたものを提供してくれるんだよな?』


 すると、無言であるファイルが送られてきた。


 どうやら動画のファイルのようで、桃山は早速そのファイルを開く。


 急に流れ始めた動画の内容は、どこか見覚えがあった。


 というか、そこに映っていたのは桃山たちだった。


 視点の場所からして、山風のリボンに仕込まれていた小型カメラから撮られたもので、桃山たちが山風に暴力を振るう様子がしっかりと収められていた。


「何だよ……これ……!」


 桃山はそう言うと、山風から奪ったリボンをよく見る。


 すると、雨で濡れて壊れてしまっているようだったが、カメラが仕込まれていると知らなければ気付いていなかったと思うくらい小さいカメラがリボンに仕込まれているのが見えた。


「くそっ……」


 そう吐き捨てながら赤いリボンを投げ捨て、桃山はI-Iにメッセージを送る。


『俺たちはお前を許さない。絶対にお前を潰す』


『動画を見て、そんなことが言えるのか?』


 そんなこと言われても、ここで引き下がるわけにはいかなかった。


 でも、桃山には返す言葉がない。


『文句があるなら直接来い。相手してやる』


 I-Iは余裕そうに桃山にそう言った。


 あれだけの暴力を振るった動画を見た上でそんなことが言えるということは、I-Iは相当な実力を持っているのか、それとも相当な見つからない自信があるのか……


 桃山はI-Iという人物を探ろうとするが、全く人物に心当たりが無かった。


「どうするの? 光」

「必ず潰す」


 天風の質問に桃山はそう短く答える。


「この動画だって、アイツがこうさせたのに……」

「誰か見つけて、それがコイツだって証明するのは難しそうだしな……」


 今のところ、I-Iには桃山たちがやった証拠と山風の証言がある。おそらく、桃山たちを潰すためなら七条たちも協力するだろうから、向こうには立証できるだけの情報がある。


 だが、桃山たちには、それをI-Iからの指示だったという証拠がない。正確には、I-Iという人物が指示をしたが、その奥に隠れている人物が誰か、そしてその人物がI-Iである確実な証拠がない。


 だから、学校に突き出されたら終わりだ。


 桃山たちも、四月に二年生の何人かがそういう理由で脱落したという話を風の噂で聞いている。


 脱落なんてしたくないし、このまま大人しくしておけばいいのか……?


 でも、それならいつ突き出されてもおかしくない。


 それなら、自分たちの手でねじ伏せればいい。


 桃山はそう考え、I-Iが誰なのかを探すことにした。


「アイツを探すぞ」

「大丈夫なの……? 何をしてくるかわからないんだよ?」

「アイツを潰さない限り、俺たちに明日はないかもしれない」

「それもそうだけど……」


 松原は不安そうだった。


「やりたくないならやらなくていい。代わりならいくらでもいる」


 そう言われると、松原は自分のプライドが傷つけられたような気がした。


「代わりがいるとか、私に向かっても言うんだね」

「やりたくない奴に無理強いはしない」

「ふーん。優しさなんだ」

「まあ……」

「だったらやる。光を止められるのは私だけだから」


 実際、桃山に何か意見を言えるのは松原だけなのかもしれない。それくらい、この二人の間には対等な信頼関係があった。


「僕は光についていく。できることならやるから」

「俺も。ここまで来たら引き下がれない」


 天風や北山はそう言って桃山に賛同する。


「引き続き尾行でアイツを見つけ出す。詳しいことは伝えないが、怪しい人物がいたら報告するように伝えろ」

「了解」



 そして、その情報はすぐにクラス中に知れ渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る