第26話 種目決定
そこから、枠を埋めていく作業が始まる。
主に溢れていたのは100m走、足りないのは玉入れと障害物競走。
まずそれぞれで考える時間を設けることになり、自分でどうしたいか考えたり、友人とどうするか話し合ったり、そういう自由な時間になった。
七条や市川はどうするのだろうか。特に考えることもないが、そう思い浮かんだ時、恵口が七条の元にやって来た。
「七条さん、ちょっといいかな」
「何?」
「もしよければなんだけど、玉入れに移動してくれないかな……」
「え……?」
七条はかなり驚いていた。
七条はクラスの中でもかなり足が速い方で、そのまま100m走に決まっても文句は出ないと思っていた。だが、恵口もそれはわかっていると思うし、わざわざ言ってくるということは、何か特別な理由があるのだろう。
「理由を聞かせてもらっても?」
「うん。玉入れはチーム競技だと思うんだ。だから、リーダーのような人が必要だし、作戦とかそういうのもあるだろうから、それを七条さんに任せたいと思った。……どうかな?」
適任には思えないが、それは普段から一緒にいる俺だから言えることで、恵口にはそういうことが向いていそうに見えているのだろうか……?
「何で、私なの?」
「うーん……初日にさ、クラスを説得してくれたっていうか……」
「な、なるほど……」
七条は恵口から目を逸らし、俺のことを睨む。
俺はとりあえず片手でごめんとジェスチャーで伝えた。
「でも、私にリーダーなんて……とても引き受けられない」
「リーダーじゃなくても、とりあえずチームがまとまるようにしてほしいんだ」
「それをするのがリーダーじゃないの?」
「そうだけど……」
恵口だって、七条に友達がほとんどいないことはわかっていると思う。だが、あんなことを言って場を一気に治めた力を見てしまったら、もうできないということはないだろうと期待してしまうところもあるだろう。
「……わ、わかったって。やればいいんでしょ」
「本当に!?」
「クラスのため、だからね。でも、結果は保証しないから」
「ああ。本当に、ありがとう」
そして、最終的に枠を埋めていく段階に入った。
まず100m走は、スポーツテストの印象が強かった人たちが男女六人ずつ選ばれることになった。男子では今井や服部、西園寺、榎本などが当たり前のように選ばれていった。女子では市川が選ばれていた。
そして、余った人たちが障害物競走と玉入れに流れた。流れた先はほとんど障害物競走だが。
クラスの作戦として、玉入れには恵口や七条といった戦略担当を優先的に入れた。これで、一人ではポイントが取れない人たちにポイントを取らせたいと考えているのだろう。脱落者を出さないことが目的ならそれでいいだろうが、結果が伴わなければそういう優秀な人間まで道連れにされてしまう。恵口が自ら入っていくのはわかるが、なぜあまり関係性も無い七条を巻き込んだのだろうか。
俺にはクラスで何人落ちようが関係ないし、気にしたこともない。だが、七条を落とすのは見過ごせない。
今まで人を騙してまで上に立とうとする奴らばかりだった施設にいた経験からすると、恵口に悪意はないように見える。それなら、誰かがそそのかしたのか……でも、あの裏切り者が恵口と接触した様子はない。
まだ別に内通者が……?
可能性として頭の片隅に置いておく必要はありそうだ。
「じゃあ、最後に代表リレーの選手を決めようと思う。代表リレーには、クラス全員の未来が懸かっている。その責任に潰されないような実力とメンタルを持ってる人に頼みたい」
恵口が説明した後、これは男女で分かれて決めることになった。
「代表リレーは、100m走の選手を中心に決めた方がいいと思ってる」
そう言った後、恵口は一人一人に出てもいいか聞き始める。
「今井くんはどう?」
「俺はもちろん出る。体育祭以上に輝ける場所なんてないしな」
今井はあっさり承諾。
「西園寺くんは?」
「……面倒くさいな。俺は俺で、自分のポイントを稼ぐ。それ以上はいらないし、他の奴に分けてやった方がいいだろ?」
西園寺はそう言うが、正直出るのが面倒くさいのだろう。クラスに協力するということも、一般人のために頑張るということになり、プライドが許さない。そんなところか。
「服部くんはどうかな」
「まあ……出てもいい。今まで迷惑かけたし、少しはクラスのためになることをしたい」
「司さん……!?」
「ありがとう、服部くん」
服部の答えに西園寺は驚いていたが、恵口はそれをあっさり受け入れ、二人目が決定。服部は、俺との取引をそれなりに守ってくれたようだった。クラスに協力し、なんなら今までの分まで返したいだと。これを見て、西園寺も変わってくれればいいのだが。
それから何人かに聞いたが、自分には荷が重すぎると拒否。
「榎本くんは?」
「僕は……僕でいいなら、って感じかな」
「ありがとう、榎本くん」
三人目が決まった。だが、100m走組はこれで最後だ。
「あと、足が速そうって言えば……」
「早見くんとか?」
「藤原くんも」
などと、自分は走れない組から他にも何人かの名前が挙がって行った。
「藤原くんも早見くんも場所が違うからリレーに出るのは厳しいだろうし……二人はどう?」
他に名前が挙がった二人に恵口が聞くが、二人ともできないと答えた。
俺は正直出てもよかったが、周りに合わせて走らないといけないのもちょっと面倒くさい。
それにいくつも出るということは、その分七条を一人にするということ。周りにクラスの人たちがいるから大丈夫だろうが、七条が心配で競技どころじゃ無くなったらそれはそれでマズい。まあそもそも、障害物競走も離れた場所だから、それを考えても意味は無いが。
「……じゃあ、俺が出てもいいかな。決まらないなら、俺が出る」
誰も恵口に文句は言わなかった。むしろ歓迎と言うか、恵口がそう言ってくれて助かった、という雰囲気になった。
これで四人、メンバーが決まった。
それとほぼ同時に女子も決まったようで、七条と市川、浦田ともう一人スポーツが得意そうな生徒がメンバーに決定していた。
こうして、無事に種目決めが全て終わった。
クラスでは、この種目決めの結果を他クラスに絶対に明かさないというルールができた。相手が何をしてくるかわからないこともあるし、Eクラスとの点差もまだ近い。そのルールを決めることは妥当だが、どうせ裏切り者はEクラスに情報を流すのだろう。
結局、裏切り者がいる限り、Fクラスは勝てない。
もちろん、手は考えてあるが。
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