第17話 予想通り

 テストの翌日、今日は中間テストの結果が出る日となっていた。


 朝からクラスはそわそわとしていて、いつもよりざわついていた。


 それを制圧するように、いつもより早く来見が教室に入ってきた。


「はい」


 もう、何も言わなくてもクラス中が静まるようになっていた。その方が、来見の負担は明らかに少なくなっているだろう。


「今日は、結果発表がされる。今から。個人の解答なんかは、個人のページで見てほしいんだが……クラスの順位は、黒板ここに映し出される」


 来見は前のモニターを指で軽く叩きながらそう言った。


「……それじゃあ、クラス順位を発表する」


 来見がそう言うと同時に、一気に順位の一覧表がモニターに映し出された。


 その順位表によると、一位は七条、俺は十位となっていて、最下位は服部。


 服部が脱落を免れたかどうかは聞く必要がありそうだが、あれだけやって無理なら何をやっても無理だったと思えるくらいにはやったと思う。これで失敗しても、文句は言われないだろう。


 そして、それぞれのスマホに獲得ポイントが通知される。


 俺の獲得ポイントは960ポイント。点数は800点で、しっかり満点だった。四月のポイントと合わせると1884ポイント。やはり、四月の分はかなり響いているような気がした。


 今回の獲得クラスポイントは628ポイント。これはクラス平均点となっているだろう。


 最後に、現在の総クラスポイント。


 Aクラス:1949

 Bクラス:1713

 Cクラス:1428

 Dクラス:1227

 Eクラス:875

 Fクラス:884


 四月の終わりに俺が七条に宣言した通り、FクラスはEクラスを抜いて五位となっていた。


 クラス中がそのことに驚き、どよめいていた。


 それは七条も例外ではない。


「早見くん、こんなことって……」

「だから言っただろ?」


 俺は冷静に、自分がしたことを見せつける。


「やっぱり、何者なの? 早見くんは」

「何者って言われてもなぁ……」


 そんなもの、答えられるはずがない。


「えー、」


 クラスを静めるように、来見がそう声を発する。


「本当によくやったと思います。このクラスから脱落者が出ず、Eクラスを抜かした。しかも、この段階で」


 珍しく、来見が褒めている。


「だが、まだ五位だ。減点の範囲には入ってしまうだろう。Eクラスとの差は九点しかないし、Dクラスとは100点以上の差があり、状況は厳しい。これからも君たち次第だが、頑張ってほしいと思っている」


 来見の言う通り、今のEクラスとFクラスはどんぐりの背比べだ。どうにかこの状況から抜け出したいところだが……それは本当に、クラス次第といったところだった。


 そもそも、Eクラスに脱落者が出れば、クラスポイントは抜かれてしまうだろう。



  ◇  ◇  ◇



 ホームルームが終わり、クラスはまたざわつき始める。


「まさか、本当にこうなるとは思ってなかった」

「だろうな」


 僅差だったとはいえ、普通あの段階であんなこと言われても、誰も信じないだろう。


「七条も、あんだけ謙遜していたが……結局一位じゃないか」

「あんなのたまたま。今回運が良かっただけ。これからはきっと、みんなもっと頑張って来るから、次はもっと下になる」

「ほんとかー?」


 俺は煽るようにそう言ってみる。


「……確かに、頭良い自覚は湧いてきたけど」

「だろ?」


 認めた。認めたぞ……?


「何でそんな嬉しそうなのよ」

「別にいいだろ。得点の稼ぎ頭がいるってことがわかったんだから」

「稼ぎ頭って……」


 誰かが稼がないと、今の状態ではマイナスになってしまう。下の方の誰かが脱落すれば話は別だが、それが反映されるのはいつになるのやら……


 俺が取れるだけ取って、七条も取る。他にも同じように高得点を取る人はいると思うし、それでどうにかバランスが取れれば、今はそれでいい。



「あ、そういえば」

「ん?」

「ナポリタン、どうだった?」

「あー……」


 七条はさらに声を潜めてそう聞いてきた。


「……まあ、普通に美味しかった」

「よかった……」


 俺の答えに、七条はほっと胸をなでおろした。


「それにしても、作りすぎたにしては多かったな。どれだけ作ったんだ?」

「三日分……とかのつもりだった」

「三日?」

「そう。三食同じでいいかなーってくらいに」

「そうか……」


 まさか、そんなつもりで作っているとは思わなかった。


「それで、料理得意じゃないから、作りすぎたの」

「なるほど」


 やっぱり、料理はできる方じゃなかったのか。


「料理とか、面倒くさいじゃん?」

「じゃあ作らなきゃいい」

「そうはいかないし……毎日コンビニ飯できるほど、仕送り無いから。バイトもできないし」

「それもそうだな……」


 施設からいくらでも仕送りがある俺とは違う。そりゃそうか。


「早見くんはどうしてるの?」

「料理なんてしてないな」

「そうなの?」

「ああ。決して料理男子なんかではない。この学校では珍しいと思うが」

「そっか」

「うん」


 やる必要がないだけであって、できないとは思っていない。


「また作りすぎたら貰って」

「作りすぎるなよ」

「わかってる」

「あと、ナポリタン食べ続けるのもやめておけ」

「わかってるって」


 七条は料理しないくせに……と漏らしながら、移動教室のために教室を出て行った。


 実際、コンビニの弁当というものは、そこまで体に悪いものではない。


 自炊の方が安く済ませられるというのもわからなくはないが、むしろ栄養が偏るというのはよくない。稼ぎ頭ともなっている七条に体調を崩されたくないから、ちょっとウザがられてでも言う必要があった。


 俺が他人を気に掛けるというのは、そうそうあることではない。それほどまでに、七条のことを大事に思っているのかもしれない。もちろん、生き残る術として。



 俺も移動教室で教室を出ると、スマホにメッセージが届いた。


 送り主は服部で、放課後に話がしたいという内容だった。俺はわかったと短く返信し、重い足取りで特別教室棟に移動する。


 もしかしたら、そろそろ黒の廻り火が来るかもしれない。俺はなんとなくそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る