第10話 障害物競走

 障害物競走は、帝国学院高校がある学園都市から離れた場所にある、廃墟となった都市で行われる。


 これは確か当日になってから知らされることだが、なんとなくそんなことだろうと思っていた。


 障害物競走は、別名:実戦力テスト。


 何を測るためにやっているのかは、普通の生徒にはわからない。どれだけ探ろうとしても、全くわからない。憶測でさえもすることができないような、謎に包まれたものだった。


 来見の運転する普通の車で数十分走ったところにある廃墟は、もちろん帝国学院の管理下にあり、表向きには廃墟とはなっていない。ただの誰も住んでいない街だ。


 ついでに、この廃墟を囲っている森や、その近くにある廃墟など、この一帯は帝国学院の所有する土地だ。


 来見が入り口の門で教員証を見せると、あっさり門を通り過ぎて中に入ることができた。


 中に入ってすぐに見える廃墟が、今回の会場。


 来見は近くに車を止め、会場の入り口に立っていた警備員のような人と話をした。何を話しているのかは読み取れない。


 話を終えると、来見は振り返って手招きをした。


 それに応えるように俺が来見のいる場所に駆け寄ると、来見はその廃墟の中に入って行った。


「ここでは、あるサバイバルゲームを行う」


 廃墟に少し入ったところで、来見は説明を始める。


「その専用ゴーグルを着けると、そこにいるかのようにモンスターが現れる。それを、あの中から選んだ銃で撃ち抜く。それがこの障害物競争、別名:実戦力テストだ。順位に関しては、現れたモンスターを全て倒すまでの時間で競い合うことになる」


 来見が指を差した平らな瓦礫の上に、VRゴーグルとヘッドホンを合わせたようなゴーグルと、様々な銃がいくつか置かれていた。


「……というのが普通の説明だが、君には本当の説明をする。隠していても無駄だろうから」


 まあ、そんなことだろうとは思っていた。真実を隠してあることくらい、よくあることだ。俺にとっては。


「この先は特殊な空間になっていて、特定の条件下でモンスターが発生する。そのモンスターを銃で撃ち抜くタイムアタックだ」


 そんなファンタジーなことがあっても、俺は驚かない。だが、他の奴らは絶対に信じないだろうし、変な噂を立てられても困る。だから隠していたということか。


「……単純だな」

「まあ、そうだな」


 俺にだけ説明したのは、俺がブラックリストだからだ。学長と特別な関わりもあるし、来見にとって俺は普通の生徒ではないのだろう。


「どうする? 今回に限って、これは着けなくてもいいが」


 来見はゴーグルを手にして、そう聞いてくる。


「……じゃあ、着けないで行く」


 元々、これが現実だと思わせないためのゴーグルだ。確か、モンスターの視認をしやすくするためのものでもあった気がするが、俺には必要ない。


「わかった。それじゃあ、準備できたら言ってくれ」

「もうできてる」

「そうか。なら行くぞ」


 来見がそう言うと、来見から感じられる気配が一気に変わった。


 それから、この廃墟のあちこちに、妙な気配を感じる。例のモンスターたちの気配だ。


 この感覚は久しぶりだった。


「……面白い」


 俺はそう呟くと、瓦礫の上にあった銃たちの中から一つ銃を選ぶ。小型で、それなりに威力がある、そんな銃だ。


「行くぞ。よーい、スタート!」


 来見の合図でタイマーがスタートし、モンスターたちが動き回るのを気配で感じる。


 俺は少し来見から離れ、片膝をついてしゃがみ、銃を持っていない左手を地面に付く。


 その状態で目を瞑り、息を吐く。


 すると、俺を中心に波動のようなものが発生し、廃墟の建物たちが揺れる音がする。来見は少し後退りし、モンスターたちは俺に近付いてくる。


 約数秒後、モンスターたちが一気に姿を現し、俺に襲い掛かる。


 目を開いて立ち上がり、俺はモンスターたちに銃口を向ける。


 モンスターは主にゾンビのような見た目をしていて、真っ向からこれと対峙すれば、ミッションどころでは無くなるくらいの恐怖を感じるだろう。


 まあ、俺はそんな恐怖は感じないが。


 俺は銃を連射し、襲って来るモンスターたちを一撃ずつで撃ち抜いた。


「ふぅ……」


 全てのモンスターを撃ち抜き、俺は来見の方を見る。


 来見は少し引いたようでもあったが、黙ってうなずいた。


 俺はそれを見た後、瓦礫の上に銃を戻し、来見の元に戻った。


「さすがだな、早見」

「どれくらいだ?」

「三十秒。学校レコードタイってところかな」

「へえ」


 おそらく、そのレコードは姉さんのものだろう。


「もう夜遅い。今から寮に戻れば、マイナスな評価を受ける」

「じゃあどうしろって?」

「奢るよ。食欲も戻って来ただろ? 聞きたいこともあるし」

「……わかった。ありがたく奢ってもらう」



 そうして障害物競走を終え、来見に連れてこられたのは、学園都市の外にある二十四時間営業のファミレスだった。


「何名様ですか?」

「二人です」

「こちらへどうぞ」


 店の中は、もうすぐで深夜帯という時間も相まって、ほとんど人がいなくて貸し切りのような状態だった。


「ご注文、決まりましたらお知らせください」


 そう言って店員は下がっていく。


「こういう所、来るのは初めてか?」

「そう……だな」


 ずっと施設に閉じこもっていたこともあって、ほとんどの場所には行ったことがない。正直な話、学校すらも初めてだった。


「何食べる?」

「何でもいい」

「じゃあ、同じのでいい?」

「ああ」


 っていうか、まだ夕飯済ませてなかったのかよ……もしかして、ずっと保健室に……?


 ……俺のこと好きかよ。


 いや、ブラックリストの俺を保護し、利用したいだけか。


 そんなことを考えていると、来見はテーブルに設置されていたボタンを押す。すると、店内にそれを知らせる音が響き、店員がすぐにやって来た。


「はい。ご注文をどうぞ」

「ハンバーグステーキ二つ。Bセットで」

「かしこまりました」


 注文を受けると、すぐに店員は下がっていく。


「早見、今日は奢る代わりに色々聞かせてもらうからな」

「……答えられる範囲で、な」

「ああ」


 何を聞きたいのかはなんとなくわかっている。どうせ施設のことだろう。だが、たとえ運営が同じ施設の職員であっても、話せないことはある。逆に、俺でも知ることができないことがある。そんなものだろう。

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