三人の王子達

ひるなかの

▼▼▼

私は長らく王家直属の使用人をさせていただいている。

流石に最年長まではいかないが、かれこれ二十年は経っている。

隣国との戦争はあるもののこの国の王様は穏やかな方で何不自由なく城で暮らせていただいている。


なのだが。




「これは僕のだ!」


「いいや、長男であるこの俺が相応しい!」


「いやだ!これは僕のだよ!」



思わず洗濯物を運ぶ足を止めた。

この国の三人の王子様達は生まれてから一度も喧嘩が絶えず、必ず一日一回は争いが起こってしまう。

他の使用人たちは当たり前の風景というように立ち止まりもせず仕事をこなしているが私はいつも足を止めて一部始終を見てしまう。

私は所詮使用人で、止められるような権限なんてないけれど。

今は陛下が他国から輸入した羅針盤を巡って喧嘩が起きている。



「いっつも『長男だから』ってずるいよ!」


「そりゃあそうだろ長男は次期国王だ!」


「僕だって兄上と同じ王子だぞ!」



と、突然、三男のルイ王子が飼っているフェレットが取り合いをしている彼らすり抜けて羅針盤を盗んでいった。

言い争っていた彼らは流石に喧嘩をやめてフェレットを追いかけ始めた。


今日の喧嘩は終わりと言ったところらしい。




ほっと胸をなでおろしたと同時に何かが私の中で引っかかった。








「これは長男であるこの俺が存続するべきだ!」


「否!長男だからという考えは間違っている!」


「そうだ!兄上達は年上だからって散々生前、贈り物を頂いていたじゃないか!」




私は扉の隙間に見える王子様たちの喧嘩にため息をついた。

数年前王様が崩御され、これで彼らも団結して少しは仲が改善されるだろうと期待していた。

だが、少しもそうなることはなかった。

むしろその喧嘩も激化して今日も話し合いをすると言いつつ、先代の残した土地は誰のものになるかを言い争っている。

流石に止めないとまずいと感じたのかこの城で最年長の侍従が毎回間に入っているが

止まる気がしない。



「いいや、習わしでは長男が存続するんだ!」


「それは父上の仰ってた仲良く分け与えるという方針に反していると言っているじゃないか!」


「『長男』は存続の理由にならないんだよ!兄上!」


「そう言うお前らだって全部領地を独り占めすることしか考えてないだろうが!」




長年どんな仕事も成し遂げていた私でさえもこれには呆れてしまう。

他の使用人がもはや見向きもせず仕事を優先する気持ちもよく分かる。


ふと、七年前のある日の喧嘩の内容が脳裏をかすめた。

別に他の喧嘩となんら変わっていないはずなのにどうして私は印象に残ってしまっているのだろうか。






突然、カチャカチャという金属をこすりあわせるような音が宮廷の外から、聴こえてきた。

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