1‐4 激突、ユルシカ島攻防戦
第30話 ユルシカ島の攻防(1)
ユルシカ島は混乱していた。
明け方、唐突に島全体が闇の帳に包まれたのだ。
昇りかけた暁が、コリント島の幾多の灯が、白んだ空の星の光が、ユルシカの中から見えるはずの、あらゆる光が消失した。
島は、真夜中に戻ったかのように、闇に閉ざされる。
同時に、あらゆる電波通信が遮断された。
それに気づいたのは、通信士のトトリ・ストリクスだった。
時を同じくして、基地のいたる場所で爆発が起きた。
オレンジ色の炎を灯し、飛来する物体。それが地表に届くと大きな衝撃が巻き起こる。
常時展開されているはずの、魔防壁で防げない攻撃に、基地は大混乱に陥った。
だが、百戦錬磨の兵が集うユルシカ島にいるのは、特殊部隊『コレクターズ』なのだ。ラブリス不在のまま、主要なメンバーは半地下の指揮所に集まっていた。
砲撃が始まってからおよそ三十分後のことだ。
『――ああ、この現象なら知ってるぜ。ディムが作ったやつだ。お前たちが言う、遺産だな。どこのどいつかしらねーけどよ。メンドクサイもん、持ち出しやがって』
月光は語る。
高濃度の魔粒子を用いた極小のチャフを散布、高度な電波妨害および、局地的な光学迷彩を実現させる攪乱兵器があることを。
その名は『
「コリント市への海底ケーブルも切断されている。無線が使えない状況を合わせて考えると、ユルシカ基地は完全に孤立した」
「コリントから基地の異変は察知できないのか? この暗闇は島全体を包んでいるんだろう? さすがに目立たねぇのか?」
「光学迷彩ですよね。外からも見えないんですか?」
みなの中央に浮かぶ月光は、瞬きを繰り返しながら答える。
『無理だなぁ。冥界の兜の光学迷彩は生易しいもんじゃない。散布時の光の屈折を記憶して再現するんだよ。外からはいつもと変わらない平和な島に見えてるだろうよ』
事も無げにいう月光のそばでステラが青ざめていた。
「あの、エドガーさんと姫がどこにもいないのも、関係あるんですか?」
「二人の失踪。そしてこの攻撃。関連づけないわけにはいかないでしょう」
ラブリス不在の今、基地司令を代行しているのはクラウス・オーレンだ。
静謐の騎士は考える。
ラブリスとエドガーの突然の失踪。
現在攻撃を仕掛けている連中の仕業であると考えるなら、捕虜になっている可能性が高い。
仮にも一国の王女。人質としても価値があるし、宣戦布告もなく軍事行動を起こしたうえで殺害などしようものなら後々、国際世論をすべて敵に回すことになる。
であれば、ある程度は安全な場所に保護されているはずだ。
だが、彼の懸念はそれだけではない。
(もし姫様が、海上に連れ出されていたら? かなりまずいですね)
クラウスは彼の知る、幼少期のラブリスを思い出した。
あの頃の姫様は毎日怯え泣き暮らしていた。
陸の上でなら普通に暮らせるようになったのはここ数年だ。
苦手とする海の上で主は大丈夫だろうか?
とはいえ、感傷に浸っている時間は無い。指揮所には断続的に衝撃が走っている。
すぐに頭を切り替える。
「状況はなかなかにひっ迫しています。月光、防衛状況は?」
『相棒が俺様ちゃんのネットワーク作っといてよかったなぁ! 飛んできやがるデカい爆弾は、電磁加速砲で対応できている。珍しい奴だぞ。飛行誘導弾ってやつだよ。鉄の塊に火薬詰めてぶっ放すんだ。早打ちができる電磁砲と相性がいいのが救いだな。しかもよぉ、アイツら海の中にいやがる。海中から撃てるんだな。もしかしたら、魚雷もあるかな? ディムの時代にはあんなの無かったな。新しい兵器ってやつかなぁ』
「エドガーが設置した設備が私たちの命をつなぎましたね」
本来なら遺産『冥界の兜』は指定範囲の通信を完全に遮断するものだ。
有線接続はまだ使えるが、それでも、遠隔の砲台は無力化されかねなかった。
そこで、エドガーの設置した無線標識だ。
魔導コア月光の放つ、グラナダの遺産を用いた霊子通信だけは機能した。
指揮所に現れている月光の仮想情報端末も、時おりノイズが混じるものの機能している。
『俺様ちゃんも相棒が心配だ。この状況、何とかできるか?』
「愚問ですね」
クラウスは笑う。
「通常通信は使えませんが、こちらには月光がいます。あなたの仮想情報端末を小隊ごとに分散配置させてください。こちらの要は月光です。お願いします」
『おっけー! 俺さまちゃんにまかせとけぃ!』
威勢いい言葉と共に、激しく明滅する月光。
彼の仮想情報端末は複数同時出現も可能である。総計十体程度の月光が出現する。
『俺さまちゃんも、やつら気に入らないしな!』
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