第18話 八八式 試作電磁加速砲(1)

 とはいえ、軍人である限り仕事はしなくてはならない。 


 ラブリスにいざなわれ訪れた場所は、海岸線だった。


 魔導機関が魔素オード魔導光エーテライトに変換する独特な金切り音があたりに響く。


 午前中に凪いでいた海はあっという間に荒れて、暗雲が立ち込めようとしていた。


 基地の地下から引っ張ってきた動力ラインで稼働する、仮設の魔導光炉エーテライトファーネスが二基、翠色の光を浜辺にまく。


「やたらと大層ですね」


 雷撃陣にこれだけの大出力を流すと、大気にまで影響があるのか。


 やはり現場に出ないとわからないことが多いな――と感心しながらエドガーは、隣に立つラブリスに話しかけた。


「決戦兵器かって思うわよね。実戦で使うにはちょっと手間がかかりすぎる代物ね」


「先進技術というのはえてしてそんなものですよ」


 二人の視線の先には、光をまとう異形の砲身が荒れる大海原をにらんでいた。


 八八式 試作電磁加速砲ライトニングレールガン


 全長九Ⅿ 口径四〇ⅯⅯ 無骨かつ長大な異形の砲身内に埋め込まれた、四八対の小型雷撃陣が砲身内のレールに磁場を形成する。


 電導性に優れるケラウノス鋼でコーティングされた、アダマンタイト弾体は秒速三〇〇〇Ⅿまで加速され、高い初速砲撃が可能だ。


 弾丸が小型であっても、莫大な運動エネルギーが得られ、高威力、高射程な攻撃力を保持することができるのだが――


 過剰な動力を流された雷撃陣が、砲身のところどころでアーク放電をひき起こしていた。


 近づこうものなら感電し、命の危険すらあるかもしれない。


「ひめー、発射シークエンス完了。出力はギリ安定しているし、いつでも撃てる。でも、早く打たないと魔導光炉が壊れる」


 裏方で操作をしていた、短髪で小柄な少女が手を振り合図をする。


 ユルシカ基地の通信士であるトトリ・ストリクス軍曹だ。


 しかし、それは仮の姿。実際はラブリス直属の部下であり、魔導回路を用いた霊子戦に特化したエンジニアである。


「ありがとトトリ。じゃあ、エドガー君撃っていい?」


「ええ。お願いします」


「了解。標的、沖の岩礁。仰角一〇度、放て!」


 充填された魔導光が煌めく。一瞬の無音ののち、大気を揺るがす大音響を発し、弾丸が射出された。


 長大な砲から放たれる余波はすさまじいものである。


 噴煙が収まるのを確認して、耐衝撃姿勢をとっていたエドガーは、遠見を行う。


 標的にされた巨大岩礁は、円形にくりぬかれいびつな姿をさらしていた。


「十分ですね……戦艦のどてっ腹だってぶち抜けますよ」


「まぁ、威力はあるんだけどね……ほかの問題が、ね」


 二人が振り返ると、砲塔側で俄かに騒ぎが起きていた。


「動力ケーブルから出火してます! 消火班早く早く!」


    ◆◆◆


 ――現在、運用されている魔導火砲の主流は魔導陣砲マジックカノンと呼ばれる魔導兵装だ。


 魔導陣を媒介として、直接熱エネルギーや電撃を召喚、射出する。


 基本的に弾は魔素が供給される限り尽きることはない。


 さらに、同じ砲身で電撃弾、火炎弾、氷結弾などの様々な属性弾を撃ち分けることができる。戦況に応じて、臨機応変な対応が可能であるという利点がある。


 もちろん万能ではない。対魔防壁発生器アンチマジックフィールドが存在する。属性にかかわらず、魔法で発生した現象をすべて無効化する障壁だ。


 魔導陣砲での砲撃戦は基本的にこの防壁の削りあいになる。


 飽和一斉攻撃で相手の防壁を決壊状態にする。


 そうすることで有効攻撃を与えることができるのだ。


 その防壁に対して即効性がある兵装をと考案されたのが物理砲マテリアルカノンと呼ばれる砲種だ。


 こちらは、魔導陣を媒介に爆発を引き起こし、その物理エネルギーによって鋼鉄の砲弾を射出する。砲弾自体は、質量をもった実体弾であるから、魔法防壁の影響を受けない。


 もちろん弱点もある。


 魔素のある限り弾数無限で連射が利く魔導陣砲に比べ、持ち込める弾数に限りがある上に、弾薬の加工に高度な錬成冶金学アルケミアクラフトが必要になる。


 そのため、実戦では数が撃てない。


 あえて使用するならば、ピンポイントで防壁発生機を破壊する。などの運用になるが、それは、相手の発生器の場所が特定できた場合のみだ。


 弾速も雷撃陣砲に比べて鈍重だ。比較的単純な装甲の強化で対策が可能という点からも現状、一歩引いた兵器となっている。


 そこで開発されたのが、電磁加速砲ライトニングレールガンだった。


 電磁加速砲は、従来までの爆炎陣で弾丸を射出する物理砲とは一線を画す。


 雷撃陣を使用し電磁力で弾体を飛ばす。


 回避不可能な超高速・高威力の弾丸を対魔防御を無視し打ち込むことで、砲種の優位性を逆転させる新技術であると期待されたのだが――

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