第19話 八八式 試作電磁加速砲(2)
「というわけで以上が電磁加速砲を取り巻く背後関係と現状だ。何か質問は?」
試射の翌日。
エドガー、ステラ、月光は機関工房の魔導光炉の前に集合していた。
依頼のあった、電磁加速砲の改良に関するミーティングだ。
調べれば調べるほど、この試作火砲には課題が多い。
この新型は五年前まで中央工廠の兵装部門で極秘開発されていたものだが、採算が合わない、有用性に疑問があるという理由で、開発中止になったとエドガーも噂で聞いていた。
凍結された試作一号砲はどこに行ったのかと思っていたが、失敗兵器の墓場たるこのユルシカ基地に保管されていた。
面白がったラブリスが島の防御兵器にと搬入したらしいが、まともに運用ができないでいるのだった。
「質問はと言っても、問題だらけですよあれ」
困った顔をしたステラが首を振る。
「まずはですね、発射前の充填に十分かかりました。連射性皆無なのは駄目ですよ。しかも撃ったらいろんなところが駄目になりました」
彼女は試射の際、動力管と魔導光炉を担当していた。そのため発射後の消火活動にも立ち会っている。
目の前で発火発煙されては、及び腰になるのも仕方のない事だろう。
「開発当時の資料を見ても、一発に対する魔力量が多すぎて時間がかかりすぎです。昨日も魔導光炉二基使ってやっとでしたよ? いくら強力な砲でも、一発きりでは使い道がないですよね」
『そもそもあれよぉ、デカ過ぎねぇか。俺さまちゃん、基地で動力の調整やってたけどよ。あそこまで火力求める必要ないんじゃね。もう少しコンパクトにしねえと』
ステラと月光が
エドガーはそれを見て、満足げに頷いた。
自分と同意見だったからだ。
「開発時、素材の問題で大型にせざるを得なかったらしい。設計段階では、あそこまでの威力は求めてなかったらしいんだけど、砲身を大型にする過程で、必要以上の出力が出てしまったから、開発部が悪ノリしたという経緯があるらしい」
ステラがさもありなんという表情でうなづいた。
月光は、マジで仕事を何だと思ってるんだろうな! と暴言を吐いた。
「錬金冶金学は日進月歩だから、今ならもっと小型化できるだろうね」
魔導戦艦の火砲にと開発されていたはずだから、あの巨体も問題である。
消費も火砲一発にしては多すぎる。どこまで大型化できるか? という実験でもやっていたのだろうか。お蔵入りになるのは避けられなくなったから好き放題したとか……。
「失敗兵器ってことがよくわかりますよね。無駄に大型で、食べるだけ食べて見合った仕事ができない。挙句に場所も取るなんて」
『ほんとだなぁ。使えない兵器ってマジでゴミだな』
「うちにもしゃべるばっかりで大量の魔素を消費する人がいますけど。どこかの誰かさんみたいです、ほんとに」
『へえ、俺様ちゃんのこといってる? 俺様ちゃんガラクタ扱い? ステラちゃんひどくない?』
「だって、月光さん、セクハラしてるだけで、現状役に立ってないです」
『うわ、ひどい! マシンハラスメントじゃね!』
「月光さんがセクハラするからでしょうが!」
きゃいきゃいと、言い合いをする二人を見て、この二人仲いいなぁ、なんてエドガーは思った。
とはいえ、じゃれあってばかりはいられない。
課題は山盛りであり、解決にはみなが一丸となって当たらなければならないからだ。
「じゃあ方針はこうしようか。こいつを実用に耐えるレベルまで、小型・省魔力化改造を施す。ちなみに、運用方法は基地敷設の対空火砲とする。艦砲にするには現状時間的に難しいしね」
◆◆◆
目標値は、消費魔力量を現状の十分の一とした。その程度であれば、縮退炉以外でも使用は可能であるという計算だ。
エドガーたちは、まず砲身であるレールを切り詰め雷撃陣の数を減らすことにした。
魔導陣の減少に伴い、安定性の低下と、出力低下が予想されるが、新型の魔術刻印を採用することで対応した。
これは、月光の根幹構造に使用されていた刻印を真似たものだ。
月光というサンプルを得たことで、性能が大幅に上昇した刻印を使う事が可能になった。
続いて、素材の見直しだ。
ラブリスの伝手をたどって、特に魔力伝導に優れる素材を取り寄せた。
高純度のケラウノス鋼の合金と組み合わせることで新型のレールを試作する。
これは大成功でもともとの物とくらべ、五倍近い耐久性を発揮した。
後から聞いた話だが、ステラはもともと錬金術師の家系なのだそうだ。錬金加工肢を用いた加工技術はエドガーをしても舌を巻くほどだった。
そのほかにも細部に改良がくわえられる。これらは昼夜問わず、急ピッチで行われた。
二人と一基の人工精霊、チームエドガーの初仕事は順調に思えた。
――しかし。
「やだーー‼ やだやだ! 私もう嫌です! 毎日毎日、油まみれで! ここのところ働きすぎですよ! エドガーさん、あなたどれだけ働く気ですか⁉ うちの基地は週休二日確約ですよっ」
ステラがキレたのは作業期間が、連続三週間を過ぎたころだった。
試作兵器の改良が楽しくて、毎日毎日わき目もふらず作業をしていたエドガーは驚いた。
ステラはその可愛い眉を吊り上げて、極度に高まった不満をぶつけてきたからだ。
どうしたのステラちゃん――と、おろおろするエドガーにステラは言い放った。
「エドガーさん、お休みって言葉、知ってますか?」
「え、知ってはいるけど……」
「じゃあ、なぜ取らないんですかッ」
そこでハタとエドガー気づく。
「――ごめん。今までプロジェクトが終わるまで基本的に休みってなかったから。ステラちゃんの非番のこと考えてなかった。そうか、俺が決めなきゃいけなかったのか……。ステラちゃんも頑張るなぁって勝手に感心していたんだ」
エドガーは、
仕事をしていれば幸せな人間であるからして、休むという概念が欠如していた。
「あー、うん。今から休みにする?」
あと空気も読めない。
「~~~~っ!! うるさい、この社畜! 仕事奴隷! 組織の犬! 二人しか居ない同僚が、仕事してるのに自分だけ休むとか、そういうの私は嫌なんで! 待遇の改善を要求するとともに、エドガーさんにも休みを要求しますよ! エドガーさんの馬鹿!」
余計に油を注ぐだけだった。
『まぁなぁ。俺様ちゃんも、ちょーっと、働きすぎじゃね? とは思うよ? 相棒も休んだ方が良いわなぁ。その社畜ぶりは、俺様ちゃんもドン引きよ』
疲れを知らぬ人工精霊月光にまで言われる始末である。
「兵器開発ができるのが楽しくてつい。でも俺に関してはこんなのいつものことだから、気にしなくていいんだよ」
開発局にいた時に比べたら、ぜんぜん楽だ。
毎日楽しいしね、とエドガーは屈託なく笑った。
それを、信じられない珍獣でも見る目で眺めるのはステラだ。
そのまま、「うー」と唸りながらエドガーをにらみつけていたが、何かを思いついた。
「そうだ。エドガーさん! 明日は二人ともお休みにして、私と一緒にお出かけしましょう! 仕事人間さんに私が、お休みの仕方ってのを教えてあげますよ!!」
と、困惑するエドガーから無理やり、二人分の休暇を取り付けたのだった。
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