第15話 月光(1)
「エドガーさん! 地下からの動力来ました! 徐々に上がります。2000、3000、4000……、7000メガイーサ!」
「了解、
月光の
ラブリスの約束通り、地上のエドガーの元には高出力の
仮説が正しければ、これで魔導コア月光は起動するはずだ。
(俺の直観は正しい! これでいいはずだ!)
時間は迫っている。大佐には、大見えをきったがこれで成功する保障はどこにもない。
だが不思議とエドガーには確信があるのだ。これで正しいと。
結果――
「や、やった! やりましたよ、エドガーさん!」
端末上では、次々と情報が更新されていく。
何十年ぶりかの起動だ。寝起きに頭の整理は必要だろう。
仮説は正しかった。
だが、喜ぶステラの顔はすぐに曇ることになる。突然の警告音と共に、モニタ上で次々と命令がインターセプトされていく。
「くそ……寝起きが悪いやつだな」
「し、失敗ですか?」
「まだだ、ステラちゃん見てみな。返事が返ってきたんだ。今までうんとも寸とも言わなかったこいつが、拒否だそうだ」
寝起きの一発で魔導コア本体は目覚めた。
だが、そこからの進行を阻害しているものがある。
「人工精霊め。生意気にも起きたくないらしい」
魔導工学が発達する過程、多様な魔法の系譜の一派である錬金術が重要な役割を果たした。
物質を魔法的に加工、精製する事を専門にしていた錬金術は現代の魔導文明の直接的な祖先と言えた。そしてその錬金術の最奥が現代の魔導機関の中にも生きている。
フラスコの中ではなく、魔導機関の中で生きる
彼らは自立的な思考とある程度の意思を有している。
「珍しいパターンだ。倫理的に問題がある命令や、危険度が高い場合に、人工精霊が命令を拒否する場合はある。だけど、起きろと言われて嫌がるのは――」
「子供みたい?」
「あるいは、とんでもなく面倒くさがりかって所だ」
話しながらもエドガーは絶え間なく呪文式を入力する。人工精霊を強制的に黙らせる方法なんていくらでもある。彼らはあくまで人に作られた存在だ。
だが、再びの警告音。
「なんだって?
「エドガーさん、端末に文字が!」
【俺を使うな 関係ない】
明確な人工精霊からの拒絶だった。
「……これ、どういうことですか?」
「人工精霊がいうことを聞かない。縮退炉の制圧に使えない」
青ざめるステラをよそに、エドガーは固い表情のままキュクロープス内の指揮所に通信をつないだ。
「ラブリス大佐、聞こえますか? 作戦を一部変更します。残り時間の詳細を教えてください」
『了解、大尉。こちらの試算では炉が崩壊をはじめるまでおよそ十八分程だそうよ。もうすでにヤバそうなんだけどね。大丈夫なの?』
通信の裏では、絶望的な報告が次々と上がってきているのだろう。
場が騒然としている様子がうかがえる。
地上のエドガーたちからも、小刻みな地震を数度経験していた。
「魔導コアそのものは起動できました。でも、人工精霊が動きません。なのでそいつ抜きで霊子制圧戦を仕掛けます。そちらのオペレーターにも協力を」
エドガーは端的に要請だけをした。
これからの攻防を見れば、何をするべきか、分かるだろうと考えた。
どのみち、一人でもするつもりだが。
『――了解、トトリに伝えるわ』
通信を切った後、ステラを振り返りエドガーは笑顔で言った。
「ステラちゃんごめん、本気でギリギリになりそうだから、吹き飛ぶ覚悟もしといてくれる?」
ステラの声なき悲鳴が響く。
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