第7話 エドガー白ワンピ少女と出会う(3)

「――というような仕事をしていたんだ。まぁ追い出されちゃったんだけどね……」


 結局、エドガーはミラージュにまつわるあれこれを話す事にする。


 ずっと聞いてほしくて、消化できない気持ちを抱えていた。だから話そうと思った。


 話したってどうせ興味ないだろ……そう思っていたのだが。


「えー、すごいじゃないですか! そんな飛空艇、今までありませんでしたよ。大型艦相手にも、通用しちゃうかもですね!」


 ステラは思い切り喜んでくれたのだ。


「―――そ、そうなんだよ! 兵装強化の鍵は魔力蓄槽マナバッテリーの高性能・小型化だったんだよね。従来型より回せるエネルギーが格段に増えたことで、五割増しの性能向上を果たしたんだ。継戦能力もあがって、運用の幅がぐっと広がるんだよ!」


「凄いですね。エドガーさんじゃなきゃできないお仕事だったと思います」


 聞いてくれる。受け入れてくれている! 


 歓喜した彼はステラにいつの間にか洗いざらいを話していた。


「これからは戦闘飛空艇の時代が来るよ!」


 大喜びで自説を披露する。


 何の話をしても一切嫌な顔もせず、うんうんと頷いてくれる彼女に感動していた。


 こんなにしっかりと、兵器の話についてきてくれるなんて! と感動していた。

 

「今はまだ大型の砲を搭載した洋上艦が主流だけどね、すぐに戦いは変わる。より遠距離に、より高速になると思う」


「うんうん。そうですね! すごいですね!」


 なんでこんな熱心に聞いてくれるんだろう? 


 その理由がエドガーにはわからない。


 もしかして俺に好意が? ついに春来ちゃった? いやないか。


「――それにしても、その上司さんはひどい人ですね。こんなに貢献したエドガーさんを追い出すなんて」


「あ、うん、まあね……」


 ウキウキだった気分が急に落ち込む。



『気味が悪い』



 最後にベンメルが言い捨てたのは、ラトクリフの偽らざる本心だろう。


 エドガーの兵器に対する姿勢がラトクリフには耐えられないほど不快だったと、そういうことだ。


 まぁ、それ自体はいい。どうせ自分は自分だ。今更変えられない。


 けれどそのせいで、リリサ中尉や部下たちにも迷惑をかけてしまった。


 そんな思いがエドガーの心に影を落とす。

 今もゆるやかに自分を責め続けていた。


「俺が悪いんだよ。その、気持ち悪いからさ……」


 ため息をつく。


 後悔してもしようがないが、深く傷ついてはいた。


「うーん、傷心のエドガーさんはこれからどうするんですか? 泣き寝入りしてここで腐りますか?」


 南の島だし、のんびりするには良いところだと思いますけどねー。


 と、ステラは言ってくれた。


 兵器の話をいやな顔せずに聞いてくれた上に、慰めてもくれるなんて! 


 なんていい子なんだ……。結婚しよ。


 腕のふよふよ。おっぱい効果もあって、エドガーは早くも陥落していた。


「あ、あの、ステラちゃんってさ、もしかしてそのお付き合いしてる人とか……」


「あ、着きましたよ。ここが基地です」


 そんな邪な質問は無常にも宙に消える。


 彼女の指さす方向に、ボロボロの基地看板と古びたゲートが見えた。



【ようこそ、ろくでなし】アゼルデン国軍第五十三駐屯基地【通称ゴミ箱】


 

「なにこれ……」


 見上げるゲートには、荒っぽい字で落書きがされていたし、門番が詰めているはずの小屋は無人。埃っぽいし、あまり手入れされていない様子だ。


「ずいぶん荒れている。それに何もない? ここ正面ゲートだよね?」


「あまり使われない入口ですからねー」


 エドガーの疑問もよそに、ステラは先へ進む。


 緩い上り傾斜の丘を昇りきると、視界が開ける。


 ほどなくして幅広の滑走路が見えてきた。


 入口から何も見えなかったのは、基地が丘を背にした浜辺に建設されていたからだ。この基地は海に面している。


 エドガーの視界に、美しい自然の入り江に沿って、近代的な施設が立ち並ぶ基地建屋が入る。


 かなりの大規模な基地だ。であるのに、外からは全くわからなかった。


「か、隠し基地、なのかな……?」 


 エドガーは驚いていた。


「滑走路……、指揮所もある。本格的な軍事基地だ」


「孤島の基地ですからね。少ないですけど飛空艇もありますよ。もちろん旧式ですが」


「なんでこんな場所に……」


 エドガーは驚きながらも興奮していた。


 掃きだめの倉庫基地だと聞いていたのに、こんな大がかりな設備がある。


 人生のどん詰まり。軍人の墓場。そんなつまらない場所じゃあないのか?


「あそこが私たちの職場ですよ」


 ステラが指し示す先を見る。


 エドガーは、海に面した三棟の大きな建築物を見た。


 それはかなり巨大な体育館にも似た長い建屋だ。


 アーチ状の屋根は高く、鋼鉄の扉も二階建ての家をゆうに超えるほど。


 建物は奥行きがあり、そのまま海に向かって伸びていた。


 恐らく反対側は、入り江に接続しているのだろう。洋上艇がそのまま侵入できる構造だ。


「これって」


 エドガーにはこの建築構造に見覚えがあった。


 中央工廠時代、開発局から何度も通った場所に似ている。


 唖然としているエドガーにかまわず、ステラは正面扉の操作盤に向かう。


「開けますからちょっとまってくださいね。よいしょっと……」


 彼女の操作で、地響きのような低音を響かせ、ゆっくりと扉が開いていく。


「ここがエドガーさんの職場になります。みんなからは単に倉庫って呼ばれています。一棟が稼働していて、残り二棟は無人です。使えるとは思いますけど、今は人もいないから……。三棟ともエドガーさんの管理になるので、よろしくお願いしますね」


「――いや、いやいや! これが倉庫だって?」


「……倉庫ですけどなにか? 嫌なんですか? そりゃ中央工廠から来たエドガーさんには不満かもしれませんけど……」


「違う違う。逆だよ!」


「逆?」


「そう、逆だよ、ステラちゃん‼ ここは、倉庫なんかじゃない! 船渠ドック付きの大型機関工房じゃないか‼」

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