120.エルの喜ぶ顔が見たい

 妹のセラフィナを迎えに行く。学院に通い始めたばかりの彼女は、両親譲りの金髪だった。皇族が持つ琥珀の瞳は全員同じだけど、私だけ銀髪。そもそも血の繋がりもなかった。


 お義父様は私の叔父に当たる。本当の両親が私を嫌ったので、引き取ってくれた。記憶にあるのは、叩かれたり嫌なことを言われて泣く場面だった。すぐにアルムニア公国へ引っ越し、お義母様に会った。いいえ、本当のお母様だと思っている。


 小さい頃に強請って作ってもらったお人形のマリアは、あちこち修繕しながら今も枕元に置いていた。あの頃の私は新しい父母の愛情を確かめてばかり。平民の子が手を繋いで歩いているのを見て、真似したり。母手作りの人形と聞いて欲しがった。すごく面倒くさい子どもだったのに、お母様は嫌な顔ひとつしない。


 甘えていいと全身で示してくれた。だから義母じゃなくて母。それは叔父である父も同じで、私をきちんと叱り育てる態度に偽りはなかった。お母様は再婚で、私が出会った頃はもうエルがいた。可愛い弟は金髪金瞳、まさに皇族という姿だ。少し羨ましい。


 実の母から銀髪を譲り受けていたから。私だけ色が違うと引け目を感じた。でもお母様は実の母を誇れと教える。出産は命懸け、愛してもいない子を産む母親はいないのよ、と。子どもを産んだお母様だから、言える言葉だったと思う。


 私を救ってくれたお母様の息子は、大切な弟だった。女だてらに鍛える私の手は、硬くてゴツゴツしている。それを嬉しそうに握ってよちよち歩くエルが可愛かった。お父様とお母様の間に子が出来たと知り、正直怖かった時期もある。


 血が繋がる我が子と、私は違うから。でもお父様もお母様も態度が変わらなかった。いつも通り、私も愛してると示す。だから義理の家族というくくりを捨てた。血の繋がりより大切な家族がいる――それが誇り。


「リリーお姉様、エルお兄様のお誕生日が明日ですね」


 まだ7歳のセラは、流暢に話す。女の子は成長が早いのよ、とお母様は笑った。私もそうだったんですって。エルがのんびりしていたから、違和感があるけど。最近は随分と鍛えて逞しくなってきた。筋肉のつき方を見れば、鍛えた量が分かる。


 明日は家族だけで、エルの誕生日を祝う予定だった。皇帝を退位間近なひいお祖父様達も駆け付ける。セラと二人で、誕生日プレゼントを受け取りに行く。事前注文したのは、新しい剣だ。今使っている剣はもう軽いだろうと選んだ。気に入って使ってくれたら嬉しい。


「セラは何にしたの?」


「ふふっ、銀の魔除けです」


 剣を扱うので、指輪や腕輪は身につけない。そのため耳に付ける輪を選んだらしい。穴を開けずに付けられるよう、イヤーカフにしていた。話を聞きながら遠回りをして、プレゼントを受け取る。リボンで包装された剣なんて初めて見た。


 お母様は大量の書籍を用意し、お父様は服を手配していた。ブーツや革の手袋など、お祖父様達もプレゼントの内容が重ならないよう注意する。


「喜んでくれるといいな」


 ぽつりと呟いて剣を抱き寄せる。馬車の中で隣に並んだセラは、こてりと首を傾げた。妹が可愛すぎて、抱きしめたくなる。


「平気よ。リリーお姉様がくれるなら、庭の花でも喜ぶわ」


「さすがにそれは……」


 誕生日に渡さないだろうと苦笑いする。だけど、実際庭の花で大喜びされたのは、記憶に新しかった。珍しい色だったので、見せてやろうと思っただけなのに。最終的に押し花になり、教科書の栞になってしまった。本当に、花一輪でも喜ぶかもしれない。エルは純粋だからな。そう思いながら、明日の誕生日へ思いを馳せた。

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