118.最高の幸せに包まれて

 幸せな二度の結婚式から三年――私はベッドの上で乱れた呼吸を整える。汗でぐっしょり濡れたシーツが張り付き、伸ばす私の腕を引き留めた。振り切って受け取ったのは、可愛い三人目の我が子よ。


 おぎゃああ! 勢いよく泣く赤子は、女の子だった。


「リリアナ、エル。妹よ……可愛がってね」


「ありがとう、お母様」


「僕がんばる」


 長女リリアナと、長男ナサニエルが異なる返事を寄越した。それもそのはず。リリアナは妹も欲しかったんですって。生まれる直前にこっそり教えてくれたの。学校に入学して仲良くなった侯爵令嬢に、妹がいて羨ましかったらしいわ。


 エルは弟でも妹でも良いけど、お兄ちゃんになりたいと笑った。どちらの願いも叶えることができて、良かったわ。


「お疲れ様、ティナ。可愛い娘をありがとう」


「ふふっ、お礼を言うのは早いわ。育児を手伝ってもらうんですからね」


 予定日より早く生まれた娘は、視察から駆け戻ったオスカルの腕に抱かれた。実は私とオスカルの間に新しい子は必要ない、と思った時期がある。アルムニア大公家はリリアナが継ぐし、エリサリデ公爵家を受け継ぐのはナサニエルだった。


 将来揉める原因になるのが嫌だし、父や母が違う子が増えて子ども達の負担になるのでは? と心配したの。払拭したのは、二人の子ども達だった。いつ弟や妹ができるのか、楽しみだと告げられる。その表情に嘘はなくて、ほっとした途端に妊娠が発覚した。


 お母様やお祖母様は大喜びで、お祖父様は退位を真剣に検討し始めたわ。今度こそひ孫の面倒を見ると息巻いて、皇太子殿下に叱られる。でも結局譲ってしまうみたい。


 アルムニア公国との国境に、新しい屋敷を建てて住むと宣言したお祖父様は、せっせと建築現場に足を運んだ。今頃伝令が届いた頃かしら。すぐに顔を見せるだろうから、客間の準備を侍女達に頼んでおく。


 エリサリデ公爵夫妻である両親も来るでしょうし、ひいお祖父様は……難しいかも。腰が痛くて馬に乗れないと聞いたけれど。ベルトラン将軍も有能な部下に跡を譲り、引退してしまった。代替わりが始まったカルレオン帝国は、これからも繁栄するのでしょう。


 民の気持ちを推し量ることを諦めず、家族を大切にする。疲れからうとうとと目を閉じた。ぼんやりした意識を、周囲の物音が掠める。その度に目が覚めるけど、不思議と心地よかった。


 侍女達がシーツや部屋着を整え、一礼して退室する。ベッドの端から潜り込んだエルは、照れたように笑う。


「お母様と一緒がいい」


「エルったら甘えんぼね」


 リリアナが突き放したように言うけれど、手招きしたら彼女も反対側からベッドに潜り込んだ。


「まだまだ二人とも甘えん坊でいいのよ。妹の名前、一緒に考えましょう」


 アレクサンドラ、クラリーサ、ディアナ、エステル、マグダレナ……いろんな名前を並べる。そこへオスカルが加わり、グロリア、イレネ、ミレイアと繋がった。どの名前を選んでも、この子に似合うでしょうね。


 微笑みながら、私はこれ以上ない幸せを噛み締めた。









 The END or……










*********************

本編完結です(o´-ω-)o)ペコッ お付き合いありがとうございます。外伝をひとつ付け加え、そちらで完結済とさせていただきます。明日以降の外伝もお付き合いくださいませ。

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