117.肩の力を抜いて庭でパーティーを

 馬車が動き出し、街の中心部へ向かう。沿道を埋め尽くした人々は、花びらを撒いてお祝いを口にした。にこやかに笑みを浮かべて手を振り、オスカルやリリアナと視線を交わす。膝の上のエルは興奮した様子で、何度も体を揺すった。


 アルムニア公国は子どもへの施策が豊かだ。未来を継ぐ子ども達の教育や生活保障は、驚くほど充実していた。これらは今後私の役割になる。駆け付けた子どもは誰もが頬を赤らめ、体調が良さそうだった。


 孤児院の前を通過しても、異臭や見窄らしい外見の子はいない。モンテシーノス王国とはかなり違うわ。感心したとき、薄曇りだった空から光が降り注いだ。強い光はまるで天からの梯子のようで、数本差し込んできらきらと眩しい。


「大公妃様への祝福だ!」


「これは神がお認めになった結婚だ」


「大公妃様!」


 わっと周囲が沸き立つ。今まで以上の熱気と盛り上がりに、思わず騎士達が馬車の周りに駆け寄った。


「お義母様、すごいのね」


 リリアナは素直に感心した様子で、歓声を上げる。感化されたのか、エルも「きゃぁ!」と甲高い声を発した。おかしくなって笑いながら、馬車はまたゆっくり進む。こんなに祝福され、喜んで迎えてもらったら、私もしっかり恩返ししなくては。


 アルムニア公国が豊かで、幸せな領地であるように。祈りながら街を巡った。一周する形で大公屋敷へ戻り、夕方から始まるガーデンパーティーに備える。ドレスはこのまま。侍女や侍従も忙しいのに、手を煩わせることないわ。それにこのドレス、とても気に入っているの。


「用意した甲斐があった」


「あなたの色だもの。また何度でも着たいわ」


 庭に用意された立食式の会場は、すでに公国の貴族や官僚が埋め尽くしていた。そこに混じって、明らかに平民と思われる人々も見える。これはオスカルと話し合って決めたの。全員を招待することはできないけど、特権階級だけを優遇するのは間違ってるわ。


 街のあちこちに、自由に食べ物や飲み物を得られる場所も用意した。飲食店がこぞって協力を申し出てくれたので、材料はすべて大公家から供出する。大量だけど、楽しんでもらうのが先決だった。


「お義母様、手を繋いで」


「ええ、いいわよ」


 エルはオスカルが抱き上げ、私達は並んで挨拶に回る。偉そうに壇上にふんぞり返って受けるより、親しみを込めて。これからこの国で生きていく覚悟を示す。


 貴族や官僚に混じり、平民の数人も近づいた。彼らに微笑みかけ、挨拶を交わす。きっと一番良い服を着て駆け付けてくれた。そう思うから、身分で嫌な思いをさせたくない。今後のために、法を作ったらどうか。そう提案したのはオスカルだった。後ろでアドリアンが「いいですね」と相槌を打った。


 この国はもっと豊かで、素晴らしい国になるわ。だってこんなに優しい夫と側近が治めるんだもの。そう呟いたら、美しくて心配りの素晴らしい大公妃もいるし? と返された。ふふっ、国民にそう感じてもらえるよう頑張るわ。

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