108.もっと甘えてくれていい
オスカル様がいらしてから、急に物事が進んだ。二人の結婚式だから、どうしても私一人で決められないことがある。それがいくつも決まり、新しい提案と共に周囲を動かした。
ドレスや靴、ヴェールの準備はお祖父様達も手配してくれる。私にとっての難題は、呼ぶ来賓とご挨拶すべき王族の選別だった。お父様やお母様の意見も聞いて、当初のリストを半分まで絞ったのだけれど。
「オスカル様はどう思われますか?」
「オスカルと呼び捨ててください。そうですね。この辺りは挨拶しておいた方がいいでしょう。こちらは省けます」
何度か言われたのに、どうしても「オスカル様」と呼ぶ癖が抜けない。
帝都で行われる結婚式は、大広間を使うので客人の数も多い。オスカルと相談して、他国へのお披露目は帝都で済ませることにした。逆にアルムニア公国での結婚式は、これから接していく公国の貴族や家族を中心に、こじんまりとした祝いの席を設ける。
皇帝陛下であるお祖父様がいらっしゃる場なら、何か起きても対処してもらえるからだ。アルムニア公国がカルレオン皇族によって統治されていても、他国は同じ属国同士と考える。無用なトラブルを持ち込まない作戦だった。
何より、これから一緒に暮らす屋敷の使用人や、世話になる文官武官との顔合わせを優先したい。ニエト子爵夫妻にも、ご令嬢と一緒に参加してもらえるよう連絡した。うちにもエルがいるから、一緒に遊んで貰えばいいわ。
格上のカルレオン帝国の皇孫が結婚する祝いの席なので、引き出物は不要だ。祝いの席で振る舞うだけで足りた。大量に散財することは避けたい私の意向もあり、ドレスのお色直しがなくなったのはよかったわ。ご挨拶の時間が足りなくなるし、子ども達から目を離したくないの。
「君らしい、優しい結婚式になりそうだ」
呼ばれた方々の体調を考慮して、時間は短めに。壁際はすべて椅子を並べて休憩所とする。あれこれと慣例にない案を持ち出すたび、お父様やオスカルが叶えてくれた。理想の結婚式になりそう。
「皆が私の我が侭を聞いてくれたからよ」
「この程度、我が侭とは思わない。もっと甘えてくれていい」
オスカルが囁くと、擽ったくて嬉しくて頬が緩んだ。そんな私の髪を弄りながら、オスカルは思い出したように話を付け加えた。
「そうだ、甘えで思い出した。リリアナが人形のマリアにドレスを作りたいと言っていたよ。手伝ってくれるかい?」
「ええ。もちろんよ!」
結婚式にも連れていくと笑うリリアナのために、私はお母様と人形のドレス作りの時間を工面した。色とりどりのレースや絹を使って、リリアナ用に作らせたドレスに似せた服を縫い上げる。飾りをたくさんつけて、愛らしく仕上げた。
お母様が刺繍を施した布は美しく、マリアのドレスが仕上がったことに三人で安心する。手伝った侍女も交えて、皆でお茶会を行なった。恐縮する侍女もお茶会が終わる頃は、かなり打ち解けている。居心地のいい宮殿、でも居住する時間のカウントダウンは始まっていた。
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